表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第2章 街へ行こう
16/201

風邪薬あります

 村や町・小さな都市では、たいてい教会前の広場が市場になる。ここが一番人気であり朝早くから市が立つ場所である。大きな都市の常設の市場とは違い近隣の農家が農産物を売りに来たり、乳や加工品を少し売ったりする程度である。またこの広場は教会の行事の折々に、王室と合同で設置された食事を配る給食所でもある。


 エミリーによると聖秘蹟教会は一神教らしい。この大陸のイリア王国、エバント王国、ケドニア神聖帝国の大部分で信奉されている。教会の総本山は、隣のエバント王国の南部に位置する宗都リヨンである。教会には五聖人・四聖女がいる。オラシオ、エドムンド、ディオン、エミール、シルヴェリオ。四聖女はエベリナ、テーア、シモーヌ、ニコレットである。

 信徒は生涯に一度、聖都リヨンに巡礼するのが望みである。イリア王国では王都ロンダの聖人の秘蹟教会を見に行くのも人気だ。いずれも農民が旅に出かけられる公の機会になっている。


 農民なら領地を出る事すらままならないが、望めば誰でも行けるのが巡礼の旅である。公に認められている巡礼を止める人や貶す人はまずいない。領主ですら聖秘蹟教会の出す巡礼札を無視はできない。皆、お金を少しずつためて、巡礼に出る日を楽しみにしている。一生に一回はと言われ、お金もかなりかかる。一人二人の巡礼では危ないので10人以上で巡礼団を作るのが普通だ。治安が悪い所では冒険者を雇って移動する事も有る。


 勿論、聖秘跡教徒ならリヨンに行き、聖人たちの偉業を称える遺跡を巡礼するのが一番善い行いと言われている。王国の西方にあるシエテの町から、王都にある王立聖秘蹟教会に巡礼に行くだけでも敬虔な信者と廻りから褒められる。

 この場合は王都で開かれる巨人の秘跡の祭りに合わせて行くのが人気だ。多くの人が各地を観光しながら旅行するという考えは生まれていない。まだまだ危険な事や、盗賊などの犯罪、脆弱な交通路、ケガで命を無くす事もある。時代的には旅と言われるものなので、娯楽を兼ねる観光旅行は無理かもしれない。


 ※ ※ ※ ※ ※


「モニカさん、ご苦労さんです。水汲み大変ですね」

「これは、私の仕事だからね。それに皆も手伝ってくれるし」

「そうだぞ。カトー、手伝ってあげなさい」

「ありがとうございます。エミリー様はお客様ですからいいですよ」

「エー! 僕は?」

「男の子が何を言っているの。女の子が頑張っているのを見たらお手伝いでしょ」

 泊まっている、ヒバリの宿では水汲みがモニカの一番の仕事だ。勿論、一人では無理なので家族も手伝ってくれる。噴水は町の教会前の広場にあるので、一本裏のヒバリの宿は割と近い場所である。そこから運ぶのだから時間も労力もかかるが水道が有るだけでも素晴らしい事ではある。


 日本人は水道水を1日180から200Lを消費するそうだ。シエテでは、この時期は気温が低くなり始めており、乾燥もしているので日本ほど必要はないだろうが、宿屋と言う商売でもある。毎日、炊事に風呂とかなりの量を運ばなければならない。

 普通の家庭でも3人なら50から80L、バケツで10杯近くを朝と昼過ぎに運ぶらしい。宿屋兼食堂のヒバリの宿では一日4回の食事だけでもかなり消費する。ヒバリの宿では、小柄な人なら入れる大きさの甕が水槽として3つ置いてある。約400L入りが調理室に2つあり、後一つはフロントから離れた階段横の甕で、柄杓と共に客用として置いてある。

「カトー、ありがとうね。助かるわって……何これ!?」

「水魔法だけど」

「ウーン、そうなんだ。水魔法なんだ」


 宿泊して4日目の夜、食堂でいつもの様にモニカに給仕をしてもらっていた。見た所、モニカは風邪を引いたみたいだ。

「モニカさん、今日は元気がないみたいだが」

「ウーン、ちょっとだけ良くないような」

「顔が赤いけど熱でもあるじゃないか、本当に大丈夫なのか?」

「ボーとして、咳が出て、鼻水も」

「エミリー、モニカさんは風邪かな? 風邪の症状だよね」

「そうだな。カゼは万病のもとと言うからな。気を付けないと」

「そうだよ。些細な事でも亡くなる人がいるからね。カゼ薬持ってこようか」

「ホー、カトー。そんな薬が有るのか?」

「マァ、薬を飲んで安静にして寝るのがいいと思うよ。後で持って来るから飲んでね」

「そうしてあげろ。あぁ、あと何時もの様に水汲みも代わってやるんだぞ」

「ハーイ」

 マ、これは風邪の症状であると思うが、すでに期待された瞳でウルウルと見られている。人間弱っている時に親切にされると嬉しいもんだしね。気の毒なので既に定番となった水汲みを代わった。代わってと言ってもここ最近は毎回なので、完全に僕の仕事となっているような気がする。ブツブツ……。と言っても、水魔法で甕の上からドドーと入れるだけなんだけどねー。段々と出せる量が増えているようだし訓練と思う事にした。


 エミリーに魔法の事は、隠しておけと言われていたので三人には口止めをお願いした。魔法使いはもっと上級の宿に泊まり、カトーのように気安く水魔法を使わないそうだ。水魔法の水分は空気中の水分が集まった物といった感じだが、衛生面はどうなのかな? 蒸留水なのかな? 純粋だったら味はどうなのかな? と考えながら風呂桶もどきの甕に水を満たしていた。


 それはさておき、部屋からカゼ薬を持って来てモニカに飲ませて安静にしているんだよと言っておいた。お薬は、かぜの諸症状に効く総合感冒薬の●●錠剤を呑んでもらった。この世界の人にも有効なのだろうか? 後から考えてみると、反省しなければならないと気付いた。エミリーの時には慌てて何も考えず傷薬などを使ってしまったが、この世界の生物にとって、違う世界の薬は毒かも知れない。


 日本の市販薬は、解熱鎮痛薬や鎮咳・去痰薬、抗ヒスタミン剤などの標準的な一日の投与量よりも少なく設定されて作られているそうだ。大衆薬として発売されている医薬品は安全性が高く有効な成分のみが認められていて、現行の風邪薬でもほとんど20年以上前に開発された有効成分で構成されている。確かに医師の診察の上、処方された薬では無い。結果から言うと、モニカにもよく効き副作用も無いようなので良しとしよう。


 そういえば、転移前はお腹の調子が悪かったり、風邪を引いたり、割と有ったんだが最近は全く無いな? 擦り傷や切り傷、小さな物なら気が付かないうちに治っているようだ。だって軍手なしでロープ作業しても擦り傷一つ無い。おかしくない? 成長期と言う訳じゃないよね。体内魔力で治している? 魔法の効果だろうか?  


 宿には追加で3日泊ったのだが、主人のエステバンが薬と水汲みのお礼だと言って追加の宿代をただにしてくれた。女将のオリビアさん、娘のモニカさんがずいぶん助かったと言っていたらしい。モニカは具合が良くなった翌日の昼から僕に気を使っているようだ。もっと食べて大きくなりなさいと言って定食の量やおかずを一品増やすし、やたら頭を撫でたり額にキスしたりしてくる。

 女性に親切にされるのは嬉しいと言えば嬉しいが、全くなかった27才の時と違い11才の今、やたらとキス率が上がっているのはいかがなものであろうか? 弟設定なんだろうか?


 ※ ※ ※ ※ ※


 そう言えばレイナとルイサの二人の冒険者。感激されていっぱいキスされたっけ。シエテの町に戻ると言っていたな。どうしたかなと思っていたが、彼女たちとは商業ギルドで再会する事が出来た。

 シエテの商業ギルドは、市場とは離れていて町の中心部に近く領主のお城に近い方にある。エミリーは冒険者に変装する為にギルドに行く予定だ。エミリアに変名して冒険者登録をするというので、元冒険者のエステバンに試験の事をあれこれと聞いていたようだ。

 試験設備はかなり大きな町の商業ギルドの支店しか無いらしい。シエテの町は辺境だといわれても直轄城郭指定都市である。この地方のまとめの様な立場なので、試験設備に限らず一通りの設備があるらしい。

 

 冒険者に成る為の試験は、商業ギルドで4~5日措きに一度行われる。前日までの書類選考(名前が書ける程度の文字の読み書きと、簡単な算数が出来ると非常に有利だとされる)と午前中の剣技試験である。

 受かれば午後にも、冒険者になり商業ギルドの冒険者として仕事が受けられる。以後、ギルド証には冒険者の商業ギルドへの、貢献度によって分類がされ記録されていく。尚、受験資格は15歳以上の成人である事。(未満の場合は試験に受かっても見習いとなる)


 まあ、良心的ではあるよね。冒険者にはすぐ成れるという訳ではなく、ボディーガードの様な仕事もあるのでちゃんと剣技試験と冒険者の推薦が要る。前者は実力を、後者は信用をという具合らしい。

 ちなみに推薦の方は元冒険者でも良く、エミリーが剣技を見せてエステバンに頼む事が出来た。剣技試験に使う得物は自分の得意な物が選べる。エミリーの場合は槍を選んだ。但し、これは得物の良し悪しに左右されないようギルドに備え付けの物が使われるそうだ。


 それでレイナとルイサの再会した時の話に戻る。

「エミリーは合格間違いないね」

「あぁ、そうだと良いが。エステバンは心配ないと言ってくれたがここの処、練習らしい練習が出来なかったからな」

「宿で見た槍さばきは凄かったよ」

「そうか。一人でも良かったんだが……。マ、ギルドまで付き合ってくれてありがとう」

「良いよ、僕も来たかったんだ。偶には付き合うよ。僕は、十五才以下の子供だから冒険者になれないけどエミリーの事だし」

「そ、そうか。気を使わせたな」

「成人になっても剣技試験に通らないだろうし、中身が27才でも……これは関係ないか。分かっています。実力という事だね」


 その日はエミリーと別行動せず、ギルドへ行って受付の女性を見ながらボーと待合室の椅子に座っていた。白状します。すいません、興味津々でした。だって異世界のギルドなんだよ。エミリーと行けばお話によくあるごっつい人や怖い目に合わなくて済みそうだしね。それにギルドの受付嬢に皆さんも興味があるはずです。

「みぃつけた!」

 いろんな妄想に耽っていると、レイナがすぐ横に立ちルイサが抱き付いてきた。また二人してキス攻撃である。周りにいた人も驚いているようで若干、引き気味である。


 ギルドには隣接してレストランがあり商談や会合などが出来る。冒険者たちもよく利用する。丁度、審査待ちである。エミリー共々ランチに誘われた。ごく普通の一般人用スープである。いつものお粥だ。ここのランチは貴族用もあるそうだが高そうだしね。夕食に招待されたが、着ていく服もないし、ローブを脱げば違和感一杯だからね。遠慮した。

「おひさー」

「お久しぶりです。カトー様」

「何言ってんの。カトーでいいよ。恥ずかしい」

 残念ながら、若い彼女たち2人と積もる話もない。ここは4人掛けのテーブル席なので2人用長椅子である。しかし狭くなるのに何故3人で並んで座る? エミリーを向えにしてレイナ、僕、ルイサである。

「狭くない?」

「ちっとも。その節は命を助けていただき、ありがとうございました」

「イヤ、でもこれほどの事では」

 姉のレイナはともかく妹のルイサは完全に自分の世界に入り込んでいて、僕は理想の恋人としてなおも空想が進行中のようである。恋する乙女と言うのを間近に見た思いである。そう言えばヒバリの宿のモニカも同じ様な目をしていたな。それはそれで嬉しいかもしれない。だが可哀想に夢から覚め現実に気付いた時、本人が言うのもなんだが衝撃が酷い気がする。


 怪我が治った魔法は、頼んだ通り誰にも話していないのでやや不満そうである。ギルドでも魔法使いは好待遇で皆の注目度も高いそうだ。

「私達、近々、冒険者家業を一時止めて王都の叔母の勤めている商家まで移動するんです」

「その後、小金をためて何時かはエバント王国の宗都リヨンへ行けたら良いなという計画なんですけどね」

「えらいな、二人とも」

「エミリー? そうなの?」

「そうだともカトー、リヨン巡礼は聖秘跡教徒の念願だからな。金銭的にきつくても護衛依頼を受けながら目指せばいい。街々を移動できるのは冒険者の特権でもあるんだ」

「巡礼なんだ」

 若い2人は、エミリーが王都にいたのを知っているので、王都のあれこれを熱心に聞いている。僕も肉体的には十分若いけど、一緒に楽しそうな王都の話を聞かせてもらった。等々、いろいろ近況報告と情報交換をして結果発表までを過ごした。勿論、エミリーは試験に合格である。


 ここシエテの町から王都まで約600キロ、街道には30キロ毎に宿泊地を兼ねた野営場が作られている。野営場には簡単な炊事できる設備や水場、冬場でも農民の小遣い稼ぎになる馬やロバなどのえさ場もある。間隔は馬車やロバが荷を積んで一日で移動できる距離で、人間が荷物を背負い歩いて移動するには少しきつい距離になる。乗合馬車に乗る人も多いが平坦地なので身軽な者や巡礼団は徒歩で移動する。


 王国でも、飛脚などのチャーター便で時間を短縮して有効に使うという事が増えつつあるが、人々はまだ時間というものを大まかに捉え、時刻というものを余り意識していない。

(時を刻む事ですものね。現代人なら少し羨ましいかも)

 また時計が非常に希少だったという事もある。イリア王国には王都ロンダのみに機械式時計台がある。今後は、時計台が多く作られて役所に設置される予定だ。


 ケドニア神聖帝国の方は、工業も色んな面で進んでいるらしい。帝国の大都市にある機械式時計は生活を大きく変化させ、人々の誇りともなっている。時計台の多くは都市の役所など各所に取り付けられているそうだ。時計のような高級で文化的な物を備えることは財力の象徴であり誇りだ。特に時計塔は、彫刻などで美しく飾られていた。人気なのはからくりによって人形が動き演じられる舞台付きの時計塔だ。その多くは英雄の魔獣退治の物語だ。

(残れば世界遺産になるというやつだね)


 イリア王国の人にとって太陽の動きと、役所や教会の規則的な生活に合わせて鳴らされた鐘の音、これが時刻だった。時間と言う概念はまだ薄く、市民や農民など一般人は日出で起き、日が沈むと寝る。人々は太陽と同じサイクルを生きた。 地球でいう曜日というのも無い。精々、一カ月を13日の二つに分け上旬と下旬とに区切って居る位だ。

 教会が作る暦により黙々と農作業が行われ、教会の祝日や聖人の生誕日と逝去日を知らされるだけだ。教会の定めた祭日は農作業が休みとなるが、教会に行かねばならない。農村では休みと定められた休日はまだ無い。都市では徐々にだが月2回の休みが有るようになってきている。


 この国は北半球にあると思われる。地軸も傾いているだろうし、エミリーによると一日の昼間の時間は春夏秋冬、季節によってかなりの変化をしていると言っていた。まぁ、太陽の出ている時間を一年中一緒にしろと文句を言う人もいませんしね。

(日本の様に、煌々とした電気の明かりで夜も働ける訳じゃ無い。ある意味、幸せな世界とも言えなくもないが)

日が昇り、日が沈む。こうして毎日が過ぎていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 16話まで読んだが、拘って緻密な設定をしているのは分かるのだけれど、説明分が多すぎて主人公たちの魅力が色あせてしまう感じが否めない。 細部までの設定も知って欲しいのは分かるが、読者は設定云…
2020/08/15 01:05 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ