町での生活 後編
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イリア王国では軍事力は大きく二つに分けられる。近衛軍を中心とする純軍事と警察の機能を備えた守備隊である。。
「エミリーは守備隊だったんだよね?」
「あぁそうだ。前にも言ったが私は王都ロンダの栄えある第7守備隊の副長だ」
「へー偉いんだ」
「そうでも無いが。軍を編成するに当たって王国では一旦、事あれば守備隊員も王都ロンダの近衛軍を拡大して作られる軍団に加わり編成される事になっている」
「そうなんだ」
「その為に、近衛軍には幹部クラスの佐官に尉官や下士官が多く配置されていてな、急な拡大にも対応可能となっているんだ」
「じゃ軍団編成の時間はあまりかからないんだ」
「そうとも、今までは地方で何らかの治安が乱された時は、領主である貴族達の軍事力で対応していたからな」
「貴族は軍事力が有るの?」
「主に地方領主の地位に順次した軍事力を義務付けているからな。だが兵制改革を行ってだいぶ経つから、最近は守備隊の方が出番も多いようだ。近い将来には貴族たちの下には警察力として僅かな私兵が残るだけだろう」
「人が増えると自然と諍いが増えるものらしい」
「そうだね」
「で私達守備隊が治安を預かり、暴行や窃盗、殺人や強盗などの犯罪に対処して日々増えて行く犯罪を取り締まる訳だ。ほっておくと日常生活が脅かされるようになるからな」
「警察なんだ」
「そうだな。昔、警察力が未整備だった為に、小さな村などの集落は簡単に悪人に乗っ取られてしまう事が有ったらしいからな。そんなことが起こらないよう治安や街道の安全、村や町を守るために警察力を持つ守備隊が配置されたんだ。マ、実際は大きな町のみだけどな」
守備隊は17ある直轄城郭指定都市(人口5万人以上)に地区本部を置き、その地方の治安を預かる。ここシエテの町では直轄城郭指定都市シエテ地区守備隊本部と言われ、城門や城壁で囲まれた都市は、村や町より、はるかに外敵に備えがあった訳だ。通常、守備隊は都市では昼間は城門に配置されている。夜は守備隊本部から見回りと盗賊の襲撃を警戒しに出動すると言う治安業務一般を行っている。
「簡単に言うと、喧嘩した者、酔っ払い、武器を持つ等の治安妨害した者や火事や放火による火付け強盗を見張っている訳だ」
「大変だね」
「実際は、酔っぱらいの喧嘩が一番多かったよ。だが都市で大変なのは密集して建てられた貧民街なんだ。そこは犯罪も多くて危険な場所なんだ」
「あまり近寄りたくない場所だな」
「危ないばかりでは無いのだが、人情が厚い場所でもあるんだがな」
「下町の人情と言う奴だね」
「下町の巡邏もそうだが、王国では治安を預かり全部の村や小さな町には守備隊を置けなくとも、担当地区を決め、兵力を派遣できるようにしていたんだ」
「忙しそうなんだね」
「あぁ、だから守備隊の下に、自警団となる警備巡邏隊が造られていて市民による増強が行われているんだ」
「皆の町だからね」
「あぁ、それでも人数が足りないんだ。多くの小さな地方都市では、守備隊は数十人といったところで守備隊の補助の警備隊は夜警が中心となっている。だから、どこでも夜回りは人気が無くて欠席すると罰金を取る事にしているんだ」
「仕事もあるだろうし、誰でも夜中は嫌だからね」
「そこまであからさまにでは無いが、確かにそんな感じだな。予備兵力として一般市民で15から50才までの男が、地区毎に召集されて一ヶ月に2度訓練を受け巡邏に駆り出されるんだ」
「天気や暑さ寒さもあるしね」
「まぁどうしてもダメな時もあるからな。免れる為には代理人や免除金が必要だったしな。餅は餅屋という事で、都市の商家などは商業ギルドの冒険者派遣サービスを選ぶ者が多くいたよ」
「冒険者の護衛専門の人達なんじゃない」
「その通りだ。冒険者にとっては、普段から警備や護衛の仕事をしており、夜中の巡邏は割増料が出るので喜んで受けていたんだ」
「ここでも城門があったよね。王国の治安は悪いの?」
「そう言う訳では無いが王国では乱世が終わり、安定しても100年ほど城壁造りをやめなかったんだ」
「なんで?」
「半ば伝統みたいになっていたし、領主の貴族達も見栄を張っているからな。こうなると中々変えられないんだよ」
「知ってるよ。日本も公共事業でいっぱい箱物造ったからね」
「公共事業というのは知らんが、召し抱えていた土魔法が使える魔法使いは、それなりに居たから低コストで城壁が出来る。まぁ、城壁ばかりだけでなく用水路や水道橋も作ったからな」
「せっかく居る、魔法使いだから遊ばせているよりは良いよね」
「その通りだ。お蔭で都市は徐々に経済活動が活発化し、農業生産が増加して人口が増えていったんだ」
「ここまでは良かったんだ。だが大乱が減るのに合わせるかのように、魔法が使える術師達も年月と共に徐々に減っていく。使える魔法の威力も魔石が供給されず下がる一方だったのだ。魔法使いも減って行くし、最近では魔石が無いので大魔法が出来ないのは当たり前になったよ」
「魔法使いが減ると言うのは困るんじゃない?」
「そうだ。魔法無しでは、昔の様にバンバンと城壁の拡張は出来ないからな。人手による城壁の建造や拡大は莫大な費用と時間がかかり大きな負担を生みだすからな」
「二重・三重の城壁など、エジプトのピラミッドを並べて作る様な物だからね。戦争も無いなら出来なくなるのも当然だな」
「ピラミッド? それは知らんがただ、イリア王国はましな方だ。ケドニア神聖帝国では使える術師を探し出す事が法律で義務付けられているそうだ」
「村や小さな町より、城壁がある都市の住まいは人気だしな」
「確かに、色々と便利だろうし城壁の中に居ると守られているって気になるもんね」
「周りの治安も回復して農業も発展すると人口が増える。都市での商売が盛んになると人が更に集まる」
「そうなるよね」
魔法の使い手も、少なくなれば高給にもなる。それにもまして希少な魔石を使った魔法で城壁を作るなど望むべきも無い。城壁の建造や拡張が出来ないと、代わりに市街地が狭くなる。思うように広げられないとなると削るのは街路の数や幅になる訳だ。
王国では広場は有るが公園はまだ無い。人口が多く利便性の高い中心部では、道に面してぎりぎりで多くの住宅を建てる。間口が狭く、奥行きの深い長細い住宅となるのはしょうがない。うなぎの寝床とも言う。施法側は間口の幅で税額を決めたりするので尚更だ。
道に面し、細長い住宅が奥へ奥へ、そして高く高くと増築されいく。当然、採光や風通しの面で生活環境に問題が出る。複数の世帯が同じ住宅に住むため、2階や3階へ階段で直接いける出入り口ができる。
(日本の二世帯住宅にも似ていますね)
「昔みたいに魔法を使った昇降装置なんてないので、上へ揚がるほど家賃は安くなるが住み辛くなる。水も食べ物も荷物は全部、手で上へ持って上がる訳だからな」
「昇降装置って、エレベーターか」
「カトーの国ではエレベーターと言うのか。それはともかく1階は店舗、2階以上は住まい家か人に貸すか、色々ある。都市部では上へ伸びて5階建てが多くなり、6階や中には7階などもある」
「土地が限られているからか」
「ここの町でも見かける事になるだろうが、やはり一階は商店や工房として使われるているのが多い。でも、たまに家畜小屋もあるからな、放し飼いの豚や羊に気を付けるんだぞ」
「生きたままの方が良いと言う人もいるし、餌代も少なくて済むと聞いた事がある」
衛生問題が有ると思うんだが、冷蔵設備などは見ていないので無いのかもしれない。設備の事はまだよく知らないが建築物は、ここに来るまでにもよく目にしてきた。多くの建物は木造では強度がないので、石造・煉瓦造りが主流となり多く建てられいる。2階以上の床は木でできていて、これは下の階の天井となっている。板一枚なので音が響くし、水をこぼせば下の階に雨が降る。屋根は石の瓦だ。スレートですね。
窓には明かりを取り入れる為、ロウや油を塗った紙や布を貼る。でなければ木製の鎧戸を使う。窓にガラスはまず無い。昼間の採光は自然光ですむが、夜の照明にはロウソクや油か魔法が必要だ。さすがに王都ではロウソクが教会専用という訳ではないが一本では暗く、字を読むには向かない。蜂の多い北部山間部では養蜂が行われつつあるので、ロウソクと蜂蜜の生産量は増えてはいるそうだ。
ロウソクや油代は高いので、夜は稼ぐより照明代の方が高くなる。結局、出費の方が多くなるので低賃金の人々は働けない。王宮にあるシャンデリアを見た一般人は、ロウソク代を考えるだけで寝込んでしまいそうだ。また、庶民にとって魔法は貴重すぎて論外だ。ライトの魔法を使える者は、景気の良い酒場で小遣い稼ぎが出来る。
夜は闇に包まれるため早く寝る。庶民は一度ぐっすり寝た後に、真夜中近くに起きて1・2時間、お祈りを捧げたりS●Xをしたり様々な活動してまた寝るという生活をしている。
(なにしろ一日は27時間あり冬の夜は長いからね)
「移動手段は歩きがほとんどだ」
「馬車を使う事もあるが、商業ギルドの新型馬車を使えるのは貴族や一部の金持ちだけだ。通常の馬車はまだスプリングが無く車体が車軸の上に乗っているので、振動が直に伝わって乗り心地が良くない」
「聞いた事があるよ」
「歩くより疲れる乗り物と言うのもな。ただ町の中は大通り以外の道が汚いので、街中での移動は辻馬車に乗る方がお勧めだ」
「辻馬車なんてあるんだ」
「あぁ、なにしろ直轄城郭指定都市の場合、北城壁から南城壁まで直線で14から15キロ程あるからな」
(確かに、これは正解だね。町の生活はハイヒールや傘が必需品だからね)
酒蔵の主人は領主や役人に酒を製造すると酒税を払わなければ成らない。酒場のマスターは許可制で、販売権を買っている。酒場は憩いの場だし、人々は常に娯楽を必要とする。娯楽の一種となっている犯罪者の処刑は毎日ある訳では無い。大抵は月2回、1日か13日で市が立つ日でもある。
吟遊詩人がまだいる時代だ。彼らは各地の酒場を巡りながら、有る事無い事を民衆の求めに応じて歌う。特に人気なのは、恋物語や事件を題材にして即興で作り、物語として奏でる事である。
地方の酒場では、専門の店が無い所は雑貨屋であり、宿屋も兼ねている事がある。それもこれも統治者のご機嫌次第である。マスターは住民や旅人を 監視したりする役割を仰せつかり、お上の御用改めに協力する事になる。
人々の衣服を見れば社会的地位も知ることができる。
(江戸時代は外見やまげの形で職業が分かったしね)
大きな都市には乞食が職業の人もいる。貧しい民の救済を目的とする施療院や孤児院もある。数は少ないが獣人もいる。また非人間的な事に、奴隷もいたが数は極めて少ないそうだ。見つかった犯罪者はたいていの場合、極刑になる。なにしろ処刑は娯楽の一種で月に2回の需要が有る。表向きには奴隷ではないが、借金が返せない者は荘園で働く農民と呼ばれる実質的な農奴になる。
重犯罪を扱う上級裁判と、犯罪を扱う下級裁判があり裁判官には、王、領主や役人がなる。領主、貴族や金持ちの商人の為の法なので支配され虐げられる事も多い。
(人権なんて考えは、まだありません)
「帝国は技術が進歩している。鉄道馬車と言うのがあるらしい」
「へー」
「王国では鉄を大量に作り出す事は出来ん。この町にも帝国製の布地の服が出回り始めている」
「色々と、進んでるんだ」
「そうらしいな」
この大陸は、領主や国王(帝国の場合は皇帝)、教会によって支配されている。しかし後には商業活動が発展し経済力のある市民が都市を運営し始める。やがて有力な商人や職人ギルドの親方で運営する自治都市生まれる。帝国では議会が既にあるらしい。話だけでは分からない事が多いがケドニア神聖帝国が、丁度今こんな感じです。帝国はイリア王国より科学技術が100~150年以上、進んでいると言われている。ひょっとしたら産業革命前期ぐらいの感じかもしれないな。
さて、さて、僕はそんな町に着いた訳です。




