表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第11章 燃える帝都
109/201

魔獣が敗北?

 ※ ※ ※ ※ ※


 その夜、帝都の第二城区にいた対空監視員は不思議なものを見る事になる。冬の寒空に、かかる満月の中に巨大なドラゴンが騎士を載せて現れ、帝都のはるか上空を飛ぶのを見たのだ。遠視の魔法を使いながら我を忘れた対空監視員はしばらく立ち尽くしていたが、報告せねばと指揮所に向かった時には、ドラゴンはすでに西の彼方に姿を消していた。


 そしてこの夜の出来事を同僚に話した。しかし第二城壁が落ち、対空監視員も魔獣の牙にかかると何時しか報告があった事は記録のみが残り忘れ去られた。


 第二世代を失ったミレアは、失意の中でカトーの話を聞き帝国要塞まで送ると言ってくれた。帝都の危機を知るカトーは気まずい思いでミレアに頼み事をした。それは帝都に向かい、先ほど放った対魔獣兵器の使用をする事だった。ミレアは一言分かったと言って進路を帝都に変え飛び立つ。ドラゴンの背に乗る3人にはその悲しみが伝わったが慰める事は出来なかった。 


 魔獣島から帝都まで亜音速での飛行により、ミレアは僅か3時間強で到着した。さすがに今は軌道上の飛行はしたくないようだった。ミレアはゴーレムを背に乗せ、帝都上空を魔獣の遺伝子を破壊する対魔獣遺伝子砲を放ちながら、高度3000メートルで帝都を二周した。


 第四世代ドラゴンがこの対魔獣遺伝子砲を撃っても極めて地味に見える。魔獣島と同じ様に直ぐには効かない代わりに1カ月には助かる魔獣はいない。その細胞の遺伝子がことごとく損壊し、溶けるように体が崩れて弾けて行くだろう。

 第四世代ドラゴンが、人の耳には聞こえない対魔獣用生物遺伝子操作兵器により帝都を絨毯爆撃した。魔獣島と同じく、この高さで回れば帝都攻撃中の魔獣のほとんどを始末できる。地中深くにいるものを除けば1カ月後には帝都を攻撃中の魔獣は全滅する事になる。再び滅びのラッパが鳴らされた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 スライムドラゴンからの命令が来なくなり、指揮個体達は混乱して如何すれば良いか分からなかった。時間が過ぎて行くにつれて不安になってくる。魔獣の王からの思念波による命令が無いという事が理解できないでいた。王は監視するという言葉が当てはまるかのように、常に報告を求めていた。

 魔獣の王の命令を中継する南の第四指揮個体は、訝しく思いながらも王の気まぐれかもしれないと何も問い返えしはしなかった。しかし、第六指揮個体が2回目の魔核弾頭の爆発により帝都の防御結界が効力を失ったとの報告を上げた時。勝利が目前にあるにもかかわらず何の音沙汰もない。さすがに、この事が知られてからは指揮個体達の不安は増し、やがて互いに疑心暗鬼を生じていく事になる。


 第六指揮個体は必死になって言い訳を考えていた。魔獣の王の命令に反し、帝都侵攻は順調ではなくなってしまったが、時間をいただければ必ず落とせると言い訳をするつもりだ。魔獣の数は80万とまだ余裕がある。帝都を落すにはこの半分でも可能かもしれない。

 前回の報告で怒られたのは第五指揮個体だ。勇み足をした奴は巨大な砲弾も味わったし大怪我もした。運が無かったのだ。回復の為、後方で休んでいる所をエサ不足の大型魔獣の群れにやられるとは思ってもいなかっただろうな。


 油断をした奴が悪いのだ。最近はエサが少ないので帝都周辺の村や町に、エサをあさりに群れを出しているのだ。まさか襲われるとは思っていなかっただろうが、群れを手懐けておいた俺の勝ちだ。念の為、疑われないようその群れはすぐに帝都の攻撃に使いきった。足がつく事はないだろう。


 第七指揮個体は、帝都に向かって来る援軍とか言うのを迎撃する頃だろう。でかい態度の第一指揮個体は、はるかに遠い東海岸で包囲攻撃中だ。こいつらは後で良い。気になるのは、第四指揮個体だ。奴は兵站ともいえる魔獣の繁殖をステファノで任されている。こいつは目端が利く上に、口煩い。王に取り入って魔獣の支配権を握ろうとしているらしい。次は奴か。王の所在が不明となった今、奴とて同じ事を考えているだろう。そうに違いない。


 魔獣の王の眷属である各指揮個体は、少しずつだが其々が違った能力を授かっている。一番の問題は今まで第四指揮個体が王の思念波を中継していたという事だ。近くならどうという事ではないが、距離が長くなるとどうしても奴の思念波を増幅する力が必要なのだ。


 第六指揮個体の疑念は少しずつ大きくなり、今まで自分を呪縛していた魔獣の王から解き放れていくのを感じた。不安を生み出したのはスライムドラゴンに違いはない。王から特命を受けたのだろうが、姿を消したニーナ様とヨーダ様は何をされているのだろう。

 イヤ、王がいなければ、もはや指揮個体同士だから上下の差などは無いはずだ。いなくなったニーナとヨーダは死んだ魔獣と同じだ。消えた者などどうでもよい。魔獣の群れは、力のある王の前にひれ伏すのだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 帝国歴391年13の月14日、第二城区の中央部にある鉄道馬車駅周辺が占拠され、旧市街は南北に分断された。アンベール皇帝運河にある船乗り場近くの地下壕から、北部の商業地区にある備蓄施設までが攻撃を受け始めた。

 防衛軍は各教会と地下に軍を移し、組織的な継戦能力の維持に努めていた。特に市街南部の防衛拠点であった第十一聖秘跡教会は、帝都防衛軍第三師団および予備兵からなる670名のケドニア兵が籠城し、魔獣を引きつけて頑強に抵抗を続けていたが、後わずかな日々で力尽きて全滅すると思われていた。


 13の月22日、魔獣の群れは重魔獣の増援を得て、さんざん手こずったすえに第十一教会の防衛軍を全滅させて鉄道馬車の基幹駅である中央駅にまで進出した。これで、防衛軍の補給拠点である船乗り場の攻撃が可能となってしまった。そして、抵抗むなしく第二城区の中心である南部地区は、時を置かずほぼ制圧さてしまう。


 残る防衛拠点は北部の商業地区であるが攻防の焦点はまだ動いていなかった。それと言うのも中央駅周辺は旧市街の建物が多くあり、防衛軍は5、6階建ての建物を爆破し通路を完全に破壊して最後まで抵抗していたからだ。抵抗する者の中には、旧市街の住民であった予備兵の部隊が多く残存しており徹底抗戦をしていた為と言われている。


帝国軍は使える者は誰でも使った。明日には帝都が無くなるかもしれないのだ。何とかと刃物は使いようだった。戦闘は極度の緊張や悲劇を生む。帝都内でも殺伐な空気の中、投げやりとも狂暴ともいえる犯罪は増えていった。帝都にはイリア王国と違い、捕縛されてもすぐにはギロチンにかけられない大勢の犯罪者がいた。

 軍は、一時的な開放を約束し、迎撃に成功したり武勲を上げたりした場合は、恩赦を考えるとの条件に囚人達を前線に出した。帝都存亡の時、野獣となった彼らが役に立ったのも事実だった。 


 13の月24日、 魔獣中央集団と左翼集団を主力とする魔獣の群れおよそ15万匹が、市街地を集中的に攻撃し始めた。倒壊した建物を塹壕代わりに防戦する歩兵への攻撃が開始された日である。防衛軍も第三城壁からの増援部隊を送りこみ、激しく抵抗した。この猛烈な支援攻撃により、魔獣左翼集団が後退して魔獣中央集団を圧迫し始めた。だが、無限に湧き出るような魔獣の群れは、総攻撃に近い防衛軍の攻撃を跳ね返して反撃を開始している。


 市街への攻撃は帝都防衛戦開始以来の最大の激戦となり、魔獣中央集団は第三師団を壊滅させてアンベール皇帝運河に達した。しかし魔獣も1日で5万近い損害を出したと言われる。これは第三師団を全滅させた魔獣が河岸に到達するや、対岸の防衛軍が砲や火魔法で集中砲火を浴びせたので、魔獣の消耗も多かった為ではないかと言われた。


 13の月26日、 帝都にしては珍しく雪が降った日だったが、悪天候にも拘わらず攻撃が続き兵器及び弾薬集積地のほとんどが魔獣の手に落ちた。これにより第二城区の八割は魔獣の支配下となった。午後には第十聖秘跡教会に魔獣左翼の大型魔獣が突入しはじめた。これに対応して防衛軍は延焼覚悟で建物に火を放って食い止めた。対岸からは赤々空を焦がし、舐め尽くすような炎が見えたという。


 いまや第二師団と、第三師団残存兵は、地下通路の一郭に潜伏するか、アンベール皇帝運河に幅数百メートルで急造された帯状のバリケード陣地に立てこもるしかない状態だった。だがこのように、増援を得られない状態でも将兵は引く事は無くきわめて頑強に抵抗していた。


 魔獣も一時的であろうがわずかに数を減らし、空飛ぶ魔獣の支援攻撃も狙撃されて地上を襲う事も少なくなった。冬を迎えつつある帝都第二城区ではわずかな土地をめぐり、際限の無い市街戦が続いていく事になった。


 14の月1日、ケドニア防衛軍創立392年をあと10カ日後に控えて、防衛軍が何らかの攻勢を仕掛けるだろうという噂があったが何事もなく過ぎ去っていく。無尽蔵かと思えるほどの魔獣の攻勢には、さすがに防衛軍の気力も限界に近づいている様だった。


 残る第三城壁に後退して援軍が来るまで、硬く籠城をしようと言う意見が出始めた。翌日、アンベール帝の名によって14の月6日に、第三城壁への転進するよう発令される予定となった。実際は転進とは名ばかりの事実上の撤退であると噂されていたが。


 14の月2日、の早朝、退却の気配を察したのか魔獣の偵察隊が動き回り各所で小規模な戦闘を始めた。防戦が開始されたが、その間に魔獣の本隊が接近していたのに察知する事が遅れてしまった。魔獣は時を置かず40万と言う未曾有の数で、第二城区に残こった第二師団と戦闘を開始した。


 後退する味方を援護する為に激烈な白兵戦が展開された。馬車鉄道の操車場は第三師団の残存兵と予備兵がなんとか確保していたが、魔獣は中央駅と同じように駅舎北を突破してアンベール皇帝運河まで数十メートルの距離に到達した。第二師団は3つに分断されてしまった。


 日毎に寒気が強くなる中、互いに寸土を奪い合う死闘とも言える戦闘が続けられていた。昼頃、アンベール皇帝運河に張っていた氷が流れだし、対岸から浮氷を渡って大型魔獣達が飛び移って攻撃を仕掛けてきた。魔獣は第二城区のほとんどを奪ったとはいえその損害も激しかった。防衛軍も必死になって反撃をしていたのだ。


 アンベール帝は皇帝府と共に水晶宮殿に留まり、帝都防衛軍の作戦の指揮を執っていると言われた。戦局は次第に悪くなって行くようだ。第二師団は今も激しく抵抗戦をしているが、撤退時には通常は戦争に参加することがない老人子供達でさえ、第三城壁の防備を固める為、手伝いに出るよう求められた。これを見聞きした帝都民は、防衛軍が限界に近づきつつある事を悟った。


 耐えに、耐えて、防戦に努めた帝都防衛軍であったが、数による飽和攻撃がもたらしたおびただしい数の犠牲者に唖然とするばかりであった。しかし、それにもかかわらず戦線を維持しようとする人々がいた。ナゼール宰相は旧市街に残った予備兵達に対して撤退を勧めたが頑として聞かなかった。彼らは一歩も下がるな!との言葉の通り戦線を死守していた。


 第三城壁への撤退は寒波が襲来し、寒さが一番厳しいだろうと言われる日に行われた。第三城壁に撤退した防衛軍は多くの犠牲も出したが防御体制を固める事ができた。戦線は再び膠着状態となった。防衛軍の打ち続く敗戦の為、籠城している帝都民達にも悲観する者が増えてきた。

 だが、14の月4日が魔獣中央軍にとって最後の総攻撃となった。それは魔獣中央軍ばかりでなく帝都にいた全魔獣に、同時に起こったと言われる。


 第四世代ドラゴンの対魔獣兵器、魔獣の遺伝子を破壊する滅びのラッパが鳴らされてから丁度1カ月。その効果は激烈であった。この攻撃は直ぐには効かない代わりに文字通り助かった魔獣はいなかった。細胞の遺伝子が損壊し溶けるように体が崩れて最後に破裂するのだ。それは膨れた風船がしぼむように徐々に機能低下するというものでは無く、魔獣には死が突然、まさに瞬間的にもたらされた。


 それを見た者は暫くの間、唖然として立ち尽くしたという。魔獣が立ち上がったと思ったら次々と破裂していくのだ。今まさに槍を構えて迎え撃とうとする目の前にいる魔獣が膨らみ弾ける。魔獣を目の前にしていた者は戦場が突然、血に塗れた屠殺場となるのを見た。


 第三城壁前の建物は燃え尽き、燻る煙が激しい戦闘があった事を示していた。その中で人々は、勝利を信じる事が出来なかった。昨日までその横で立っていた者がいなくなり、一緒に飯を食べていた者が消えるのに慣れていた。毎日の様に、魔獣の声と倒れる者の悲鳴を聞き続けた耳には、何も聞こえず何時から吹いていたのか風の音に驚かされた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 崩壊した魔獣の体を埋める準備が進められた。季節的には冬なのですぐにはどうという事が無いが、ほっておけば病気が発生し悪くなると疫病を引き起こすだろう。亡くなった人々と魔獣が残した死体は帝都各所に集められ火によって清められる。その煙は遠く離れた所までたなびいて行った。


 今回は、奇跡の様な事が起こり、偶々運が良かっただけの事であり、人類に運命の秤が傾いただけである。敗色の影がちらつき出した帝都包囲攻撃中、それも第三城壁にまで迫った魔獣の脅威が突虚としてとして無くなったのだ。それも文字通り、魔獣の体が弾けて無くなったのだ。


 魔獣大戦では、帝国は魔獣に相次ぐ大敗を喫して威信を地に落とした。本当の処、魔核弾頭と数の暴力の前には如何なる軍も国も屈するだろう。重々分かってはいたが、一部の人々は帝国を非難した。だがこれは帝国の力を信じていただけにその思いの捌け口を見つけただけであろう。


 帝国は勝因不明とはいえ帝都防衛戦に勝利した。魔獣の大軍を前に一歩も引かず多大な犠牲を払いながらの勝利だった。だが、依然として南ケドニアでは魔獣の群れが徘徊し、豊饒の大地は奪われたままだ。これからは帝都では再建と平穏な日々が訪れる事になるだろう。人々はそう願ってやまなかった。


 第四世代ドラゴンの対魔獣用生物遺伝子操作兵器で帝都が絨毯爆撃された時。帝都攻撃中の魔獣のほとんどが駆逐できたとされる。第一城壁前の第六指揮個体も例外ではなかった。第六指揮個体は何もする事が出来ず、その野望と共に消えた。帝都の防衛はミリアの手助けによって成功した。


 しかし、リューベック川を渡河したすべての魔獣を駆逐出来た訳では無い。イリア王国軍迎撃の為、帝都から250キロ西にいた第七指揮個体と魔獣30万匹は健在であった。


 ミレアはまたこうも指摘していた。魔獣の繁殖率を甘く見てはいけないと。魔獣の小さな群れでも、地下に潜られると完全に駆逐するのは難しい。バラバラに逃げた小さな群れでも、エサが豊富にあれば、どこにいても爆発的な繁殖力で数を増やしてしまう。時間は魔獣を味方するかもしれない。その時、魔獣を打倒した喜びは一瞬で消え去ることになる。


 探知魔法は時間がたてば再発見できるし復活できるだろう。だが、時間が問題だった。春になれば魔獣が増え始めるだろう。魔法使い達が、魔獣を広域探知する魔法を発見するまで何年も苦戦する事になるだろう。やはり早期の駆除には対魔獣兵器の発見は避けて通れないものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ