燃える帝都 中編
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イザベル・ブランディーヌ・クレール・エペー中尉の話
帝国歴391年12の月7日、ここケドニアでは、12の月はすでに晩秋の月であり、13の月から冬が始まる。収穫の秋も今年は、魔獣の侵攻があり、収穫祭も表立っては行われず、部下達も友人同士、四、五人で集まって飲んでいるぐらいで祭りを祝うという感じではない。それに酌み交わされる酒の味も美味くはないだろう。
帝都防衛軍では、魔獣に勝利するか全滅するかの、どちらか一つである事は全将兵が胸に刻んでいた。すでに多くの者にとっては勝利か死かが問われる事では無く、勝利は、魔獣の手の中にあるかもしれないが、容易く渡すつもりは毛頭無いと決めていた。
残念ながら数の上では、魔獣の方がはるかに多い。数の暴力の前に劣勢な兵力の防衛軍は、重点配備と聞こえは良いが魔獣に占領されそうな地区は放棄し、確実に防衛が出来ると思われる場所に力を注いていた。
ここ第一城区の各所においても防衛拠点を置き、そこを死守出来るように部隊を展開している。玉砕は禁止されており、この部隊の運命、つまり足止めのための駒に過ぎない事も、ここに居る者はすべて分かっていただろう。決死の覚悟はもちろん、たとえ友の屍を乗り越えて戦おうとも、一歩も退くつもりはない。魔獣には、およそ快勝とは程遠いものである事を、教えてやるつもりなのだろう。
第一城区にあった籠城用の糧食は、ほとんどがフルダ平原での勝敗が不明なうちに第二城区へ移送された。これは、念の為の処置と言われたが、仮にこの第一城区が奪われる事となっても、魔獣に食料を残さない為だ。これにより、南ケドニアの様に帝都で焦土作戦を取る事は避けられたのは幸運と言えるだろう。
第一城区の各防衛拠点には三カ月分の物資が残されていたが、補給されるあても無いので配給量は厳しくするしかなかった。そんな時に魔獣が、崩壊した城壁近くにある第一城区の水利施設を、攻撃し始めたと連絡があった。その防衛拠点の建物は、アンベール皇帝運河に繋がる重要な水道の分岐箇所となっており、そこを失うと第一城区への水の供給が、出来なくなる事を意味する。物資と水の有無は防衛戦の成否を左右する問題である。
まさに試練の日々だ。教会に立て籠もる我々は一握りの数しかいないのに、カラス型の魔獣やワイバーンの大軍に狙われている。大型魔獣には容赦なく攻撃を繰り替えされ、重魔獣の激烈な突撃を受けていた。迎え撃つ小銃の銃撃音は一瞬も止まる事は無いが、即席地雷の爆発は急ごしらえのバリケードを揺らし続けている。
魔獣は、どんなに犠牲を払っても、ここを占拠しようとしているようだ。連日連夜、我々は、何度も猛烈な攻撃にさらされた。応戦する人数は見る見るうちに減って行く。この第十九聖秘跡教会の防衛には六百五十人が参加していたが、今では戦闘可能な者は百五十人以下になっていた。それでも、我々は多くの魔獣を殺害した。
帝都防衛軍参謀、アルフレッド・パトリス・サレ大佐は、報告書のなかで、魔獣は、第一城区を占領しようと、激烈な戦闘を繰り広げたと記載している。対する防衛軍、特にこのイザベル中尉指揮下の第十九聖秘跡教会の防衛部隊と、第二十一聖秘蹟教会のサラ中尉の活躍で、非常に多くの戦果を挙げたと書いている。
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第十九聖秘跡教会はイザベル中尉の教会と呼ばれていた。第一城区は戦場となり、すでに死地と呼ばれていた。だが部隊は死地にケドニアの活路を求め、重要な防衛拠点群を守り抜かなければならない使命を帯びていた。
イザベル中尉の言う通り、第十九聖秘跡教会に立て籠もる者は将校はもちろん戦闘員・非戦闘員問わず、一員の例外も無く決死の覚悟をしていた。その中には、皇帝の名の下に召集され、補助的役割を果たすはずだけだった多数の予備兵がいた。
モイーズ・ヴァレリー・ディオン・ケロール予備隊伍長の話
第十九聖秘跡教会では毎朝祈りの言葉が祭壇で唱えられている。今朝は司祭に加えて、ここの指揮官であるイザベル中尉の訓示があった。その話と言うのは、玉砕はたやすいが、要域の確保を続ける事の方が重要だという事だ。
我々のこの拠点が魔獣に奪われた場合は、たとえこの教会にいる全員が玉砕しても、引き合うものではなく戦局を不利にするという内容だった。この責任を果たしながら戦局が打開されるまでの礎となるという話だった。言うは容易いが、行うには至難の業だ。少し難しいが、マ、生き抜いて魔獣をやっけるという話だな。ウンウンと、頷いていたらアドリエンヌが小突いてきた。
「ねぇ、あんた。イザベルちゃんの言う事聞いた」
「イザベル中尉だろ。ちゃんと呼ばないと怒られるぞ」
「だって、あの子。こんな、小さな時から知っている近所の子だよ。今更ねー」
「しかたないんだよ、俺たちは今、帝都防衛軍予備隊第十三大隊第一中隊第二小隊で第一城区第十九聖秘跡教会の守備を拝命しているんだからな」
「あんた。そんなに、長くよく間違えずに言えたね。すごいねー」
「いやー、それほどでも無いが」
「オイ、そこの二人。さっさと仕事しろ。魔獣がそこまで来ているぞ」
「ハーイ、ピエリック曹長。了解しました~。見ろ。やっぱり、怒られたじゃないか。とっとと仕事に戻るぞ」
「仕事のキリがついたら、皆を集めてくれ」
「皆を集めて、また良からぬ事を」
「ロマーヌ、違うよ。真面目な話だって。そうだなぁー魔獣への、特別な お・も・て・な・し、だよ」
俺は、いつもの四人のお仲間と相談をすることにした。パトリック・トマ・ピエロ・ニヴェール防衛軍兵士・ニコラ・ロドルフ・ラザール・ヴァリエ防衛軍兵士・アドリエンヌ・ヴィクトリーヌ・ブヴィエ防衛軍兵士・ロマーヌ・ガエル・エストレ防衛軍兵士が、雁首を揃えて今回は神妙に話を聞いていた。彼等は、魔獣にとって非常に良からぬ話をしていた。
「しかし、こっちに来ている火薬は少ないね。マ、足りないものは代用品で間に合わせれば良いと」
「何しろ、俺達はロートルの予備兵だからな。軍も期待はしてないって感じだな」
「そうだねー。マ、良いさ。モイーズ、即席爆発装置。憶えている?」
「当たり前だ。見てろよ、魔獣に一泡吹かせてやる。俺たちは俺たちなりにベストを尽くせばいい話だ」
「そうとも」
「そうとなれば、良し。パトリックとアドリエンヌは鉄釘、無ければ固そうな金属の欠片でも良い。ありったけ持ってきてくれ。ああ、アドリエンヌは鍋も忘れずにな」
「しょーがないね。家から持ってくるよ。金物屋だからね。売り物だけど、一杯あるよ。期待してな」
「ハハハ、いまさら商売する気でも無いだろう。よし、二コラは薬屋と、炭屋に行ってこい。分かっているよな」
「あたぼうよー。こちとら、元工兵だ。ヤバそうなのを、うんと持って来るぜ」
「ロマーヌは、曹長に言って起爆剤と導火線を手に入れろ。起爆信管が、あるようなら貰ってこいよ。あれは役に立つ。アドリエンヌは、鍋を持ってきたら面倒がらず自己鍛造弾を作るんだぞ」
「お前。めったやたらに、火薬を入れるとー」
「分かっているよ。爆薬は、薄くするのがコツなんだ。そうだねー。これなら大型魔獣も、一発であの世行きに出来るよ」
「そいつはいいね!」
「わたしゃ、自己鍛造弾は久しぶりに作るんだ。誰か、筒状の容器に爆薬を詰めておくれ、凹型の金属板で。その鍋が良い形だね。これ持っているから蓋をしてくれ。そうそう、次いでだから、あれも作っておくと良いかな?」
ミスナイ・シャルデン効果により、薄い金属板(鍋の事である)が弾丸形状になって飛翔し、対象を貫く。ついでにと言って作られた物は、平面爆轟波とマイゼン・シュレーディン効果を利用したもので、クレイモア地雷に似た構造であった。
「アドリエンヌ。お前、随分と簡単に作るな。そいつは結構難しいはずだぞ。昔、取った杵柄というやつか。お前、危ない奴だったんだなー」
「何言ってんだ。可愛いお嬢さんに向かって」
「数も出来たし。良し、それじゃあ、次はブービートラップだ」
「えげつない罠の番という事だな。エサの上に爆弾を二重に仕掛けるのか」
「あの建物の角、見通し悪かっただろ。落とし穴を掘っておこう」
「じゃ、壁ごと倒れるようにするのは?」
「基本だな」
「うん、落とし穴にトゲトゲを植えておくのを忘れるなよ」
「入口の床にワイヤーを張っておくのもね。薄暗い所に張って置こうか」
「で、切れたら爆弾がドーンとね」
「水の桶を置いておいて、近づいたら仕掛けられていた爆弾が爆発するのもいいね」
「誰か、警報用の鳴子を作っておけよ」
「音に寄って来るなら、鈴でも良いかもしれん。集まってきたらドーンと」
「お前は、ドーンとが好きみたいだが、火薬は重魔獣用に使う分しかないぞ。大型までは罠でな。何しろ数をこなさないと」
「難しい事考えないで、くくり罠を大量に作っておけよ」
「ロープはあるんだから、上から物でも落とす罠も良いね」
「あれは、引っ張り上げる時に重すぎると腰を痛めるからね。注意しないと」
「誰か、毒蛇を飼ってなかったかね?」
「毒なんて! 趣味に走るな。薬屋から適当にもってこい」
「それと、花屋のばあさんに言って、魔獣の水飲み用の罠に使うからと言って○○の花をもらってこい」
「あんたも、たいがいじゃないか。そうだ。あったら、○○の球根もね。無味無臭だから擦って水につけておくだけでいいし、両方とも良く効くからね」
「オーイ皆、隣町の奴らから手紙が来ているぞ。戦闘指揮所にいるそうだ。何々、現状においては、対重魔獣用の即席地雷が僅少なので、制作方法について御教授されたいと書いてあるぞ」
「誰だー? 奴らに教えて、面倒を増やしたのは?」
「しょうがないなぁ。隣町だし、俺達のいたずらは、何でも知っているからなー」
「これって言うのは、業務委託? 外注になるのかね? 爆弾作るなら派遣だよね? 誰が行く?」
第一城区の旧市街では四、五階の建物も多く立ち、住んでいた建物の階段はもちろん、室内で罠や障害が仕掛けられた。ここの住民だった予備兵達は、建物や道路は言うに及ばず、狭く入り組んだ路地や待ち伏せし易く、身を隠せる場所も熟知していた。
街を良く知る彼らは、有効に罠を設置できた。年を取って力や持久力は衰えたとはいえ、元工兵としての往年の経験は、罠を仕掛ける事に長けていた。即席地雷や仕掛け爆弾といった待ち伏せ兵器はもちろん、簡単な落とし穴から複雑怪奇な罠まで作られた。
複雑怪奇な罠の中には二重仕掛けも多くあった。仕掛けられた罠は、わざと作動時に音を極力出さないように作られる。余談だが、これには、槍はもちろん、弓、ナイフ、剣、棒、モーニングスターなど、防衛軍の装備としてはあまり使われない旧型の武器や不良品、破損品が使用出来た。
仲間がやられる音に敏感な魔獣は、ごく小さな音にも反応して群れて攻撃行為をとる。最初の罠に、やられた魔獣はうめき声を出す。仲間が寄って来た頃合いに建物ごと崩すのだ。
特に多くの間所に、建物ごと倒壊する罠が率先して仕掛けられた。これによって行き止まりの道路が作られ、魔獣の進行を阻害している。度重なる攻防で瓦礫が散乱している市街地では、道路の幅によっては重魔獣が通れない為、戦術的に優位に戦うことができたという。
市街地の各所では、防衛軍と魔獣との近接戦闘が繰り広がられ、考え得るあらゆる武器と戦術が用いられた。戦場となった人々の暮らしの場所に、仕掛けられる巧妙な罠の数々。それは皮肉な事に、市街戦では火器を使えぬと戦力外されていた予備兵達の独壇場ともいえた。
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帝都の第一城区では一進一退の攻防戦が行われている。12の月7日早朝、魔獣中央軍は、猛烈な攻撃とともに、城壁崩壊箇所から市街地への再突入を開始した。攻撃の重点が置かれたのは、防衛拠点となっている第十九から第二十七聖秘跡教会の第一城区にある各教会であった。防衛軍は広場にキルポイントを作り魔獣が集まるよう誘導した。魔獣の数が頃合いとみると、塹壕にひそんでいた兵が爆破スイッチを押した。そして神出鬼没の遊撃隊が逃げ込む先は下水道。これは悪臭の為、魔獣の鼻が利かないように作り変えられた移動用のトンネルとなっていた。
建物一つ、部屋一つを奪い合う市街戦は10日以上に及んでいる。奮闘のかいあって、第一城区の占領が完全に出来るのはかなり先になりそうだ。リミニやステファノ等の巨大都市は、通常人口五から六十万人。帝都ヴェーダはその倍以上の百三十万人である。帝都という事で軍人上がりの者も多く、町の人口構成がかなり違ったのかもしれない。
教会近くには、簡易的な火炎放射器が備えられていたが、燃焼時間と範囲の問題があり火炎瓶が取って代っている。これは、開発局から回されてきた箱に数千個の労働信管が収められていた為で、火炎瓶は既存の瓶に、労働信管を装着た為、急造が可能であった。燃料なども含めて雑多な物が溢れる巨大都市には様々な品が隠れていた。それを誰かが思い出し、地下水道などのインフラに加えて、思いもつかないような反撃や抵抗地点で十二分利用される事になる。
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指揮個体は当初、この地区での戦闘は比較的早期に終結出来るものと計画を立てていた。攻め落としてきた南ケドニアの都市は魔獣の勢いを、防ぐ事は困難だった。巨躯から来る威圧感は本能的な恐怖心を呼び起こすし、訓練された軍隊でも初めて大型魔獣や重魔獣を見た時は、今までは逃げたそうとした者もいたのだ。
空飛ぶ魔獣を追い払う事も出来ず、制空権さえ奪えば、人間どもが無手で抵抗する事など出来ない。運よく、シェルターに逃げ込むか地面に掘られた穴のみが、空からの攻撃から身を守る事が出来るのだ。だが帝都では、地下道を利用して移動する兵達が多く、空飛ぶ魔獣やワイバーンの攻撃も無意味だった。
魔獣がガレキの塊となった廃墟に突入しても、防衛軍は上階で頑強に抵抗し、建物を占拠しても地下道や下水道を使っていつの間にか逆襲をかけてきた。さらには部屋の一つ一つを攻略していかなければならず、時折、すさまじい抵抗に出くわした。
臨時救護所らしい建物を攻撃した時は、負傷兵達は地下通路に逃げ込んだ。動く事が出来ない負傷兵は殺しやすかったが、その仕返しとばかりに建物ごと爆破されたり、狙撃兵が後方の建物や窪地、瓦礫の中にいつの間にか入り込んで銃撃をしてきた。
例え、陣地とか要塞とかが分かるような防御施設が存在しなくても、防衛軍が隠れて抵抗する小要塞は存在していた。造園の魔獣を次々と送り出すが、罠を多用した反撃と火災でガレキの山と化した廃墟を効果的に使って反撃する人間どもの激しい抵抗に遭い続けた。
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鉄道馬車転車台のある、市街地南部では、不用となった列車砲が、魔獣を見下ろしていた。それは列車砲横の、発射薬にも言えた。この砲の修理は不能とされ、その役割を終えた。耐用限界を超えた砲は撃てないが、残った発射薬と起爆用信管がある。列車砲長の、フレデリク中尉は簡単な罠を仕掛けておいた。もちろん地区の人々が避難した後でだが。
その爆発の威力は凄まじく、辺りを破壊して付近一帯が吹っ飛んだ。爆風は、半径三百メートルの建物で屋根を吹き飛ばした。中には倒壊した建物もあった。爆発に巻き込まれた多くの魔獣は手足が満足に揃っておらず、バラバラに飛散しており現場から二百メート離れた場所で一部が発見されたりもした。おまけに、この爆発で火災も発生した。近隣にあった可燃物や住宅がもえだして、行き場を見失った魔獣を道連れにした。
防衛軍は、作戦通りまず第一線において魔獣を消耗させて、一時的な後退行動によって陣地地区の内部に誘導した。そこで一纏めにした魔獣に反撃を展開し、最終的に撃滅させていた。典型的な陣地防御戦法であるが、次第に防御の主力となる防御部隊の歩兵が足らなくなっていった。この為、敵戦力に対して戦力が十分ではない場合は、敵を特定の地形に誘導したり、時間的猶予を獲得する事で戦力を補っていたが次第に間に合わなくなっていく。
12の月17日、魔獣の前進は容易ではなかったが、防衛軍もその数を減らして続けていた。サラ中尉の正確な狙撃が昼の間、魔獣の進撃を僅かな時間だが妨げていた。翌日の早朝、ピエリック曹長はイザベル中尉に第十九聖秘跡教会の守備隊は、粘ってもあと四、5日しか持たないと伝えていた。
また、サラ中尉はその日の内には、弾薬を使い果たすことになるとジョスリーヌ大尉に伝えた。大尉は、公園跡から脱出し第二城壁への移動を命令した。旧市街は戦闘による煙と、舞い上がる粉塵で、夕暮れが早まったかのように薄暗くなっていた。
ある予備兵の手記にはこう記されている。
「第一城区の旧市街は、もはや人の街ではない。戦場に迷い込んだのか、野良犬でさえアンベール皇帝運河に飛び込み、必死に泳いで逃げようとしていた。我々はこの地獄から逃げ出さず、硬い意志で、いつまでも反撃するのだ。人間だけが耐えられるのだ。だが神よ、なぜわれらは、この様な理不尽な目に合うのか?」
第一城区の水利施設を失った防衛軍は、水が極度に不足していた。不足しているのは、水ばかりでは無い。武器・弾薬が不足し、予備兵達はしばしば魔獣に対して投石をもってたちむかい、あるいは棒の先を尖らせて戦っていたという。
1階を占領されても人々は2階で抵抗した。魔獣がやっと建物上階を確保しても、なおも地下室で激戦がおこなわれた。しらみつぶしに一つずつ建物をつぶしていく方法しかなかっただろう。しかし、どんなに抵抗しようとも第一城壁崩壊からわずか20日で、第一城区は占拠されようとしていた。すでにケドニア政府は、皇帝の命令で帝都を脱出し皇室と供にバハラスに向かっていた。
一時的には、人々の知性と経験は最先端の技術的優位さえしのぎ、数に勝る魔獣達と渡り合う事ができた。しかし、最終的には、魔獣の圧倒的な数の暴力が、勇敢な兵士となった人々をも打ち負かしていく。一人倒れ、二人、三人と櫛の歯が欠けたように減り、さっきまで冗談を言っていた者が、血の塊を残していなくなっていった。
13の月2日、魔獣は第一城区での侵攻を突然、止めた。それは戦線全体での戦闘が、一旦保留されたかのようだった。この一方的ともいえる、戦闘停止状態に帝都防衛軍も、兵力再編の為に第一城区から第二城壁へ移動する事が出来た。
撤退をする防衛軍に、第一城区にいた魔獣達は何故か攻撃をしなかった。帝都防衛軍は、移動を終え第二城壁にて防御を固める事が出来た。懸念された、魔核弾頭の爆発は未だに無く、戦線は静かに膠着し始めた。両者とも、目的を果たせないままに、戦いは長期戦へとシフトして行くかに思われた。




