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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第11章 燃える帝都
104/201

燃える帝都 前編

 ※ ※ ※ ※ ※


 帝都では、11の月16日に帝都防衛軍が再編成され、ヴァレリアン・コンスタンタン・セルジュ・ルー大将が司令官に任命された。ヴァレリアン大将は着任するや、魔獣右翼集団の包囲が遅れているのを知ると、ミュー川西岸方面から撤収してきた各部隊を短期間に再編した。さらに帝都内の住民を部隊編成させ、予備軍とし防衛線の構築に努めた。


 11の月26日、ワイバーンは再び帝都上空に進入した。前回と同じような大型のワイバーンが1匹、空高く飛んでいる。もう1匹は、かなり離れた処を飛んでいる。2匹は帝都の上空500メートルを舞っている。今回も遠視の魔法を使える、城門の長距離・対空担当指揮官が発見し警報を鳴らした。警報は鳴らされたが、退避時間が足らなかった。前回の帝都ヴェーダの上空のありさまが思い出される。


 やはり帝都上空には、大きな輝く光の珠が一つ現れた。結界は、持ちこたえた。最初は唯々、眩しかった。そして帝都の人々は、紅蓮に染まる空を見上げながら結界が持ち堪える様に必死になって祈った。

 

 前回と同じ、高度500メートルで投下されたW19-B(略称、魔核弾頭)は、高度450メートルで起動、爆轟(ばくごう)した。直径20キロ圏、面積にして310平方キロを消滅させるはずだった。その閃光は、帝都を脱出し遠く離れたカトー達にも感じられた。使用された魔石は前回と同じく魔石。小であった。もしも魔石・中で有ったとしたら、防御結界は持たず帝都ヴェーダは蒸発していたかもしれない。


 爆轟による衝撃波は、近寄りすぎていた魔獣達を吹き飛ばしたが、その威力で帝都は未曽有の危機に直面した。爆発は、帝都に600年間で初めての破壊をもたらしたのだ。防御結界は稼働したが第一城壁の一部、と言っても南門を含む円周上の15キロが衝撃波による被害を受け2キロが崩落した。

 これは、帝都中心よりかなり南側で爆発があったので、結界装置の出力バランスが一瞬崩れた為だろう。これにより巨大爆発は、コンマ何秒といえどもその破壊力の性で城壁を崩壊させたのだ。

 

 人々は結界装置が不調であるとの噂は聞いていたので、装置が今一度とは言え稼働した事に感謝したが、同時に不安になった。次はどうなるのだろうと。結界装置は動いていた。皇帝が不要だと言って遠慮したのを、カトーが念の為にと無理やり魔石・大を置いてきたのが良かったのだろうか。魔石・小と交換された為、出力バランスの急変にも耐えられたようであったが、すでに設計寿命を超えており効力の及ぶ範囲が狭まっていたのだろう。


 その効力が及んだ範囲は容易に分かった。第二城壁から先は空が見え、内側は薄い乳白色だった。効力は帝都の外側から徐々に無くなって行く様だ。防御結界が間もなく切れるだろうという声が上がる。第一城区の、人々の避難が開始された。帝都から逃げようとする人もいたが、前回の爆轟ですべてがなぎ倒され、第一城壁から先はガレキが塞いでいた。そのガレキの地は、2日に渡って地面が熱く、所々に溶けたガラス状の跡が残っていた。


 指揮個体は、帝都は包囲攻撃で陥落できると考えていた。爆発の影響も収まり、12の月3日になってようやく帝都に侵入を開始した。崩壊した城壁は2キロ。魔獣が、そこ目掛けて押し寄せてくる。急進してくる魔獣を止めようとして、多砲塔戦車に乗った女性たち(少女達ともいわれる)による抵抗戦が始まった。


 魔獣中央軍と魔獣左翼集団は、連携して邪魔だった第一城壁の抵抗線を突き崩して、帝都に侵入して行く。魔獣右翼集団は、帝都の外周を包囲していった。本格的な包囲攻撃になったのは、魔獣右翼集団が帝都周辺での展開を終えたのは、4日後だったとされる。

 この間、空飛ぶ魔獣達は連日に渡って、第一城区に猛烈な攻撃を加えており、数千人の一般民が魔獣の犠牲となっていた。だが、魔獣は結界の為か、第二城壁への侵入は出来ないようだった。


 ※ ※ ※ ※ ※


 メルシェ塔は、アランベール皇帝即位20周年を記念して、帝都ヴィータで行われた第1回産業博覧会のシンボルだ。二つの展望台があり、1階は70、2階は200メートルである。ついこの間まで、この錬鉄建築の塔から、変わる景色を楽しみながら登るのが帝都民の楽しみの一つであった。


 魔核弾頭の爆発は、塔の先端部を破壊しておりバランスを失っており倒壊の危険性が噂されていた。その帝都で一番高い所には、遠視の魔法が使える長距離・対空担当官達がいた。彼らは身の危険と引き換えに、帝都防衛軍に数々の報告と情報を上げていた。高所からの観察・監視の為、一部整合性が欠けるものがあったが、魔獣の行動全般を知る事ができた。その中には、多砲塔戦車隊に関する報告もあった。


 機関銃のみを装備した、初期の多砲塔戦車は生産数も少なく、帝都防衛線での記録が残るのみである。多砲塔戦車は、移動要塞として肉薄する小型魔獣を掃討し、中型の魔獣から兵の盾となる役割が求められて開発されたものだ。魔獣の攻撃に対しては、全方位の機関銃の掃射をおこなえ有効な攻撃と防衛に役立つ兵器であるとされた。


 蒸気動車を大気圧程度で動かしていては、機関は大きく場所を取るだけで、機関としてはパワー不足で使い物にならない。この為、パワーを強化された初期のボイラーエンジンは、構造が簡単で掃除がしやすいという事で炉筒が1本のコルニッシュが採用された、後に若干の改良型である炉筒が2本のランカシャが標準とされ、横置多管式で機関出力の過半数を占める事になる。


 これらも装甲が厚くなるにつれ出力不足が目立つようになる。新型蒸気機関の小型化とパワーアップが、車両用として急務とされ、いち早く研究に動いていた。帝国では、すでに車両用蒸気機関が15気圧以上で実用化されている。ボイラーの爆発という危険はあるものの、高圧の蒸気機関が開発され多砲塔戦車に搭載されるようになった。


 蒸気機関の事故は破裂が多かった。原因は、製作技術が未熟で構造規格も十分に確立しておらず、工作不良や構造的欠陥多かったと言われている。このためボイラー本体に亀裂事故が発生したのは当然と言える。新型の蒸気エンジンを搭載した多砲塔戦車のボイラーは水管式だったが、燃料は石炭であり、手動で運転されている。この新型の事故は低水事故が多く、水面計の作動不良や監視不十分などによるものだった。しかしながら開発局では、前者は技術力の向上、後者は訓練によって補えるものとされていた。


 話を戻そう。ジュリエンヌ・カサンドル・サラ・ペシオ大尉は多砲塔戦車隊の隊長を拝命している。この実験部隊のような多砲塔戦車隊は、帝都の水晶宮殿に配備予定である。目的は皇族の動座用車両(特別装甲蒸気動車)警護と蒸気動車部隊運用研究の為であり、車両を受領してから直ちにスクロヴェーニからの移動を命じられ、自力走行にて帝都へ移動中だった。


 部隊は、帝都到着直後であった為に、第一城区で待機中だった。この為、魔獣の侵攻と2回に渡る魔核弾頭の爆発の難を逃れている。偶然とはいえ、戦車隊は避難する人々を優先させるという事で、水晶宮殿への道路移動が出来ず第一城区内で留め置かれていたのが幸いしたからである。


 アンナ・マドレーヌ・デルフィーヌ・ドゥシャン中尉は、スクロヴェーニの帝国防衛軍蒸気動車第1教育隊で教官をしていた。魔獣侵攻の報を聞き、志願して多砲塔戦車隊の副官になっている。ジュリエンヌ大尉の派手な処も無いが、上官風を吹かさない事が気に入っており良き副官になろうとしている。エーヴ・アデール・ジャッケ伍長も、同所の学生として訓練終了直後であった。彼女は帝都が生まれ故郷であると無理を言って同隊に加わっている。


 第一城壁の、2キロに及ぶ修復は魔獣が近接しており、魔法を併用しても短期間では不可能とされた。防衛軍は、第一城区の防衛体制の強化と住民避難の時間が必要とされたが、魔核弾頭の、2発目が落とされ城壁が崩壊した時、第一城区南門近くでは、魔獣の侵攻に即応できる部隊は多砲塔戦車隊しかなかった。


 この時、前線にいたリリアーヌ・テレーズ・オデット・ジャヌカン大佐が、第一城壁が破壊された直後に防衛線維持に対応できる唯一の戦力として出動を命じている。部隊は、初期の目的通り最前線での砦となった。第一城区の人々の避難完了まで、防衛ラインを持ちこたえるのが目的である。第一城区の待機場所からの出撃は、城壁のガレキのため困難であった。しかし、エーヴ伍長の戦車前面に、排土板を取り付けるというアイデアで事なきを得た。


 小型要塞としての役目を果たすという事は、引く事ができず孤立して戦うという、極めて生還する希望が少ない任務となる。12両の多砲塔戦車は、ほぼ200メーターおきに並らび、徹底抗戦すべく予備の弾薬を運び入れていた。全員、出撃に際し志願者である事が確認された。この時でも、隊員が1人も抜ける事がなかった。彼女らが望んだ最前線とはいえ、全滅覚悟の抵抗戦というのが本当の処であった。


 城壁の崩壊後、依然として住民達は第二城区へと非難しようと移動中である。帝都戦開始時、第一城区では弾薬や食料の備蓄は十分であったが、魔獣の侵入後はその備蓄を失う事になる。


 前日の4日には、すでにカラス型魔獣の偵察があったので、戦車隊は迎撃準備を進めながらも警戒を強めていた。部隊への初の攻撃があったのは、12の月3日の爆発後、2日経った12の月5日で夜明け前に、魔獣第一波との戦闘が始まった。ついに多砲塔戦車が、その本領を発揮する時が来た。


 部隊は激しい銃火で魔獣に多大な損害を与え、魔獣側も正面から応酬する激戦が半日以上続いている。この時、ジュリエンヌ大尉率いる戦車隊6両は右翼に展開しており、左翼6両はアンナ中尉が担当していた。


 既に魔獣は崩壊した箇所より城門内部に回り込んで浸透し、城壁を占領し始めていた。攻防戦が長引く中、大型魔獣が引いていき、直ぐに重魔獣が姿を現した。多砲塔戦車は、速度や装備の兼ね合いで装甲を厚く出来なかった。故に重魔獣の突撃には、耐える事が出来ないとされている。


 突撃してきた重魔獣に、中央のエーヴ伍長の戦車が直撃を受けた。擱座した車両の乗員は絶望的とみられたが、ジュリエンヌ大尉は、自分の指揮車両のみで援護に向かっている。この行動はこの時にできた抵抗線の隙間に、入り込んできた大型魔獣の迎撃の為だったともされている。歴史的評価は後世に任せるが、この穴を塞ぐ為に擱座した車両の救援と自らの車両をもって、防波堤となす為と言われる。


 魔獣にとって、わずか12両の戦車などあっと言う間に撃破し排除されるはずだった。だが、たった1両のジュリエンヌ大尉の戦車によって穴は塞がれ、さらに抵抗戦が続けられている。この間に後続の防衛軍大隊が攻撃を開始、生き残っていた野戦重砲隊が援護射撃をする中、大隊と協同攻撃をかけている。

 魔獣第一波は撃退され、侵入地点の城壁崩壊箇所にまで押し返しに成功した。だが、この時に防波堤となったジュリエンヌ大尉達の戦死が確認されている。


 翌、6日、ジュリエンヌ大尉が亡くなった後、城壁跡で指揮を執っていたアンナ中尉は、魔獣第二波に対して午前中、総攻撃を敢行している。2両1組の突撃戦法をとって白兵戦を交じえ、魔獣に多くの損害を与えた。その勇戦ぶりには目をみはるものがあった。この第二波は、数に限りがないかのような攻撃であった。これは、戦車隊目掛けて行われていた。


 第二波は野戦重砲砲の、支援砲火により小型魔獣群を3割近く撃破できた。しかし多砲塔戦車隊は、緒戦で戦死してしまったジュリエンヌ大尉を追う様に、重魔獣の体当たりによる攻撃で擱座していく。戦いを止めなかった戦車隊だが、すでに機銃弾は尽きるまで打たれており、弾が尽きた隊員達は擲弾を束ねて重魔獣に向かっていったと言われる。


 こうした遅滞戦闘により魔獣は帝都侵入が果たせず、一旦、侵攻を断念した。帝都防衛軍は、住民避難の時間を稼ぎ出したと言える。これらの戦闘によって、この日、多砲塔戦車隊は、全滅した。全戦車12両を失い、戦死者は94名全員であった。


 防衛軍はフルダ平原の魔核弾頭に続き敗北を繰り返していた。今回の出撃命令は城壁崩壊と住民避難によるものだ。リリアーヌ大佐は、第一城壁の防衛戦に戦車隊の出動を命じ、時を稼ぐ為とはいえ全隊員を失った事に責任を感じていた。この後、彼女は最前線での戦闘に率先して出ている。


 結果的に、第一城区の非戦闘員の退去は完了したが、これまでの激しい攻防戦がもたらした城壁近くでは廃墟と瓦礫に埋まり、無数の遮蔽物がもたらされ、防衛軍の将兵にとってトーチカの役目を果たす事になっていく。そして、帝都防衛軍の抵抗の拠点は、リミニやステファノと同じように城区各所にある聖秘跡教会に置かれていた。


 第一波の攻撃は、多砲塔戦車隊に阻止され、遅滞戦闘は成功したが戦車隊は全滅した。懸念された魔獣の第一波侵攻はとん挫した。多砲塔戦車が、排除された夕方過ぎには、少女たちの命と引き換えに、第一城区の人々の避難は終わっていた。その様子を、帝都ヴィータのシンボルの一つ。物言わぬルシェ塔が、静かに見下ろしていた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 搭の上の狙撃手の話

 私はサラ・ノエル・バダンテール中尉。今は、教会の尖塔にいる。帝都南の第一城区、イリア公使館倉庫近くにある第21聖秘蹟教会だ。ごたぼうにもれず。教会はここでも小型要塞の役目を果たしている。第一城壁が落とされて後退する防衛軍を援護する為、私は侵攻して来る魔獣に狙撃による遅滞戦闘と言うのをしている。


 帝国歴374年、16才で防衛軍に入隊。昨年まで、気球部隊の訓練生だった。初期の通常型熱気球は、原則2人乗りで1人が火魔法を使える術師と目の良い観測員がペアになった。遠視の魔法が使えるなら、なお良い。また重量制限が有る為、小柄な女の子が多いのだが、私も結構小さい。


 魔獣侵攻以来、気球隊にもワイバーンやカラス型魔獣やワイバーン達から気球を守るために、小銃が配備される事になった。非常時は、パラシュート降下しかなかったが、これで少しは抗う事が出来るようになったとみんな喜んでいた。


 射撃教練では、距離は50、100、150メートルの三種類。撃つ姿勢も、片方の足を膝立て、膝の上に銃を置いて構える膝射、伏せて銃を構える伏射、立った姿勢で銃を構える立射の3種類があり自由に選べた。専門職でもないので、そこらへんは撃てれば良いという事らしい。


 だが、撃ってみると最初の射撃の時から、ボルトアクション式単発小銃で全弾30発の黒丸である。黒丸は射撃標的の中心に書いてある12センチの丸の事で、まず初心者は当たらないと試験官から教えてもらった。

 成績優秀者には次に5分間に5発の精密射撃と、10秒間に1発の速射射撃の2種類があり、合わせて計60発撃つ試験が行われる。これも結構いい成績だった。私は、狙撃適性試験で、好成績を残したと言う訳だ。


 私は遠視の魔法が使えるらしい。その為に気球部隊に入れられたのだが。らしいと言うのは、皆の言う遠視の魔法とはなんか違うのだ。大きく見えるだけで無く(標的はジッとしているので思わなかったが)動く方向も分かるのだ。それはともかく、訓練終了後は少尉として、気球隊の観測員となるはずだった。


 この時までは、借り物の小銃だったので、流石に満点の出来では無かった。私用に新しく支給された三十八式小銃では、更に腕を上げる事が出来るようになったと思う。遠く離れた、目標に当てるには良い銃も必要だが普段の訓練や技術がいる。運もいるね。コツとまで言えないが、私の場合は、良い射撃はいかに静かに引鉄を引く事が出来るかが勝負だと思っている。


 今の私は、小銃で魔獣を駆除するのが任務である。大量に、容赦なくね。任務は魔獣の侵攻を遅らす為の、遅滞戦闘で狙撃専門であると言われた。きっかけは、南部で魔獣の侵攻が始まったと聞いた時、部隊長から射撃の腕を活かせるぞと言われた事だ。そんなもんかと、訓練生をやめて地上へ降りた。ボッチではないが、一人でいる方が好きだし。

 付けられたあだ名が、気球部隊にいたせいだと思うが、地上に舞い降りた天使とか言われた。後で知ったが、死の妖精、塔の死に神と言うのもあるらしい。最初のはともかく、全く、か弱い乙女になんてあだ名を付けるんだろう。


 狙撃する場所は、高い所からなら数を出せるが、逃げ道が無いので少し嫌だ。今回は、教会の尖塔だから半々の気持ち。出来れば部屋の中か物陰からがいい。場所は自由に選びたいものだが、今回は狙撃対象の魔獣がわんさかいるので仕方ない。文句はあまり無いが、狙撃兵の運用方法にはちょっと意見がある。それは事前に、各魔獣の弱点を教えてもらいたいという事だ。


 大型魔獣でも、ここを撃たれればアウトとか。カラス型やワイバーンは撃たないで隠れた方がいい? とかを教えて欲しい。分からなかったので、飛んでいるのは全部落とす事にしたんだ。これはもう、すごく面倒だった。特に重魔獣はまったく分から無かったので、苦労して見つけ出すしかなかった。

 ジョスリーヌ・フルール・ロール・セギュール大尉に聞いたら、そんな事は誰も知らないと言われてしまった。アァ、このジョスリーヌ大尉は帝都防衛軍偵察中隊の隊長である。つまり私たち狙撃兵の元締めだ。


 どうやら重魔獣は、眼の奥が弱点らしい。確か、12匹ぐらいに当てているが、殺した訳では無いのでカウントに入れていない。最初、片目だけ狙ったのは、弱点を探す為だ。重魔獣は、かなり暴れまわったので、どうやら弱点を見つけたらしい。2匹目からは、味方に近づく事もあるかなと思って両目を潰しておいた。これなら見方も攻撃し易いし、周りにいる小型魔獣が踏みつぶされるというおまけが付くからね。


 魔獣はよっぽど多くいるのだろう、数を頼んで押し寄せてくる。結局、この帝都の第一城区にある教会の尖塔で朝から晩まで一日27時間のうち12時間、38式小銃を撃っている。それがここに残って頑張っている味方には、良い見世物になっているらしい。見世物といえば、最近では魔獣が倒れるとドドンと太鼓が鳴る様になっているようだ。おせっかいだと思うが皆に知らせているんだ。


 弾は、真っすぐ飛んで行く訳では無いので、魔獣の動きが予想できるのは有り難い。静止してようが動こうが、どんな物でもOK。着弾点が正確に分かる。風と雨はまだ完全には読み切れないのがチョットだけ残念。でも跳弾で、直接狙えない小型魔獣を倒す事が出来るようになったのは、ちょっと自慢だ。


 戦果は、この3日間で小、中、大型関係なしで魔獣900匹。平均1日300匹と言う処だった。途中で数を間違えたが、少な目にしておけば怒られないと思っている。重魔獣も1匹いたはずだ。他にも結構いたようだが、もちろん両眼だけを潰しただけなのでカウントしていない。

 私には、200匹あたりで綽名が付いたらしい。結構、有名になったらしくジョスリーヌ大尉が来て、中尉だぞと言って階級章を置いて行った。


 この頃は、地上の魔獣もそうだが、カラス型の魔獣やワイバーンもここを避けている様なので、場所を変えなきゃなと思っている。で、魔獣をやっつけに、新しい狙撃場所に決めた第一城区の公園だった所にお引越しだ。

 ヘヘヘ私は、木に登って長時間待つ事が出来るし目が良いんだよね。小柄なので見つかりにくいし。気球部隊に居た時に習った、カモフラージュが役に立っている事もある。お化粧で顔にシマシマを描くのは上手いよ。


 狙撃用の愛銃も大事だけど、弾も大事なんだ。この弾が入っている弾薬箱には、製作担当者のサインが入った紙切れが入っている。この人が検品した弾は、遠くを撃っても曲がりが少ないのだ。良い弾だ。是非今度、お礼の手紙を書きたいと思っている。

 そういう理由で、その弾薬箱からさらに弾を1発1発選んでいる。本当を言うと、この選別はジョスリーヌ大尉がやってくれていたんだ。だって2000発も数えるのは時間もかかる。お前はその分の時間を使って、魔獣を撃っていろという事らしい。大尉は結構、人使いが荒いよね……。


 サラ中尉は、この太鼓の連打のお蔭で、地上に舞い降りた天使として知られ英雄となった。別名でもある死の妖精は、照星と照門によるスコープ無しの狙撃で遠く離れた魔獣に的確に狙いを定め、1発で撃ちぬくという高度な技術を持つ狙撃兵を讃える渾名であった。狙える場所は、教会から見える限りであったが、尖塔から魔獣までの500メートルを円状にカバーしていた。


 市街地での公園跡ではほとんどが400メートル。これは見通す事の出来る距離が短くなる為であった。しかし、直線が見通す事の出来る街路上では、1キロ以上の狙撃もあったようだ。当初は魔獣が徘徊しており、狙撃成果の確認が困難であった為にカウント数から除外されていた。これがサラ中尉の狙撃だと分かったのは、当該地区の守備兵が突然倒れる魔獣を訝って報告した事による。


 彼女の場合、狙撃個所は魔獣の胸を狙うか、胴体に当てようとする事が多かった。これらは、射弾を頭部や四肢よりも大きく、動きが激しくない胴体としていたからで、戦闘力を奪うのに効果的である。仕留める事が出来なくとも、魔獣と戦っている兵にとっては援護射撃により魔獣が負傷すれば戦闘力がなくなる。

 こうした援護射撃は防衛軍への圧力を少しでも減らす為であったと言われる。第一城区の遅延戦闘では、彼女1人で8000から1万の魔獣を殺傷したと言われている。


 地上に舞い降りた天使こと塔の死に神は、第一城区における狙撃で、公式には1日目に258匹の小・中型魔獣,51匹の大型魔獣、そして小銃を使ったとは、とても信じられないが1匹の重魔獣を倒している。彼女の使用弾数は1日2000発前後であるが、カウント数が少ないのは、弾が外れたというより通常1発で倒せなかった魔獣は彼女自身の申告により狙撃カウントから外していた事による。


 おそらく援護射撃と狙撃とは違うという意味合いなのだろう。だが、そんな彼女も重魔獣の駆逐は嬉しかったと見えて3発を使用したがカウント数に入れた様だ。なお、この狙撃数は日照時間が短い秋、わずか12時間足らずで成し遂げられたものである。

 彼女にとって魔獣の大小はあまり関係ないようで大型・重魔獣に限らず小型魔獣も同じ様に狙撃していた。自身の体躯が小さな事もあり、少年兵や体の小さな者にとって魔獣はすべて脅威で有ったと考えたのだろう。その天使の翼は危機にある人々を救い、塔の死神は魔獣にあまねく平等に死をもたらした。


 ジョスリーヌ大尉は、毎日検品した2000発小銃弾を渡している。大尉はサラ中尉が魔獣の狙撃戦果を低めに申告する事多めに見ていた。これは正確なカウント数の確認が困難である事と、その数字が他の者には信じてもらえないだろうという思いもあったからだ。


 その思いは、第二城壁から見ていたサラがいとも簡単に1分間の射撃で300メートル先の魔獣10匹を倒すのを見てから確信に変わった。大尉はしばらく首を振っていた。何故なら三八式はボルトアクションの小銃で、しかもリロード時間込みである。およそ人の技が及ぶ処ではない。


 だが、その数時間後の出来事は、それを上回る話として伝えられている。仲間がやられるのを見た重魔獣が腹を立てたのだろう、彼女に向って突進し始めたと思ったら足を止め、崩れ落ちるように擱座していた。信じられない出来事を見た大尉は、後にサラに問いただした。

「眼が弱点だけど、重魔獣は1発では無理。で、その眼の奥にある脳を撃ち抜くには、同じ個所に3発当てれば良いみたい」

と答えている。


 サラ中尉にとっては、重魔獣も空飛ぶワイバーンも、練習の的と同じに過ぎなかった。その功績が広く知られたのは、多くの兵達が語った第一城区尖塔の狙撃が発端だとされている。弾丸は、何処からともなく飛来して魔獣を倒す。窮地を救われた者は多くいた。地上に舞い降りた天使という綽名は、その証だった。

 だが、彼女は、やれと言われた事を、可能な限り実行したら少佐になってしまったと述べている。また、本人は、地上に舞い降りた天使とか、死の妖精、塔の死に神と呼ばれるより、ホークアイと呼ばれる事を好んでいたと言われている。


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