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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第11章 燃える帝都
102/201

ドラゴンと魔獣の王

 ※ ※ ※ ※ ※


今、第四世代高々度迎撃タイプ大型ドラゴンであるミレアは、魔獣の王と名乗る者と思念上で対峙していた。

「では、どうしても続けると言うのか? そなたは、人の遺伝子を入れられたとは言え同根の者なのだぞ」

「そうだ、復讐の時だ」

「同じ、人間に作られた者では無いのか?」


(これは後日、カトーが、ミレアの話を文に起こした物です。思念波同士の会話なので、エミリー達には普通に分からん! と思いますので)


 ※ ※ ※ ※ ※


「この間話した、第二世代のドラゴンの事じゃが、一度探しに行こうと思う」

 そう言って旅に出た。久しぶりに会ったカトーという人間は中々、どうして気が利く。お詫びとか餞別とか言っていたが魔石・中を渡された。良い主に巡り合ったかもしれん。

 第二世代のドラゴンは、東の海のどこかに居るはずだ。取り敢えず東に向かうとしよう。手掛かりとなる物は? やはり時々、訪ねていたという生まれ故郷に行かねばならんのか。


 その名も魔獣島という、研究施設が有った島だ。結構、大きな島で、嘗てはアレキ文明の魔獣生産設備と、研究開発施設が作られていた。研究者達も、ドラゴンの魔法の凄さを良く分かっていたのだろう。この島ではドラゴンとはいえ、ある種の魔法結界が張られており好き勝手に魔法が使える訳では無い。


 島では、ドラゴンも普通の魔獣と同じで、力が強いだけである。魔法の使用には制限が加えられており、ほとんど使う事が出来ない様に条件付けもされているようだ。使えないように制限するのは、研究者達の安全の為だろう。


 痕跡を探しながら、進んだのでかなりの時間がかかってしまった。この少し先、東海岸にはブロージュの町が有った所だ。今は、ブロージョと言う港湾都市だそうだが、ここの海で第二世代らしき痕跡を見つけた。空戦が行われたらしく、極大広域火炎魔法の跡が僅かに感じられた。

 極大広域火炎魔法は、かなりの魔力を使用する為、第二世代の駆逐タイプ中型ドラゴンでは連射は無理だろう。第二世代は、そろそろ設計寿命の600年である。なんとしても、魔力が体内に有る内に見つけてやらないと大変だ。魔石の効力が切れると体が自然に分解してしまうからな。

 

 探し当てられれば良し。出来なければ、体が崩壊を起こして消える。元々、この世にはいなかった者だ。自然の摂理と思うしかない。ドラゴンがいたとは誰にも分から無いだろう。まさしく消え去るのだ。残される物は、割れた魔石に刻まれたログだけだろう。


 ※ ※ ※ ※ ※


「これは珍しい。第四世代高々度迎撃タイプ大型ドラゴンではないか?」

「お主は何だ? 何やら、黒く歪んだ思念だな。およそドラゴンの思念波とも思えんが」

「オォ、名を名乗ってなかったな。さしずめスライムドラゴンとでも呼んでもらおうか」

「ワシは、ミレアと言う」

「第四世代のドラゴンが、何の用だ?」

「行方知れずの、第二世代駆逐タイプ中型ドラゴンを、探している」

「フム。今いるのは? ここから800キロ、北か?流石、第四世代という処か。その探し物なら、知っているかもな」

「ならば、そちらに向かおう。5、6時間も掛かるまい。話を聞かせてもらおう」


「噂話では、隕石テロ以来、第四世代は山暮らしと聞いていたが」

「いや、今は気の良い主がいるので、山には戻っていない」

「ひょっとして人間なのか、その主とやらは」

「あぁ」

「なんと、人間が主だとは。惜しいな、実に惜しい」

「何の話だ?」

「それだけの力を持ちながら、支配者にもなれる大型ドラゴンが人間の下部とはな」

「何が言いたい」

「その力を俺に貸してくれ。そうすれば世界の半分をお前にやろう」

「そう言う、お前は何なのだ」

「俺は、言わば第五世代ドラゴンだな。同じドラゴンの血を引く者だ」

「魔獣島に、お前の様な者が居たとは」

「あぁ、300年に渡り、地下に閉じ込められていたがな」

「スライムドラゴンこそ、最強のドラゴンだ。魔獣の王でも何にでもなれる。マ、緑色はそのままだがな。どうだ、仲間にならんか?」

「ドラゴンの悪しき絆か?」


 ※ ※ ※ ※ ※


 あの隕石テロで、多くの者が居なくなった。ドラゴン達にも死んだ者や、自由を得た者もいる。ドラゴン達は、研究棟からいなくなった。だが、研究所の奥深く、カプセルに閉じ込められ、およそドラゴンとは姿形の異なる物がいた。300年後、地震でも起きたのか、構造体が劣化したのか、地下の研究棟の天井に亀裂が入った。その亀裂は、人は無理でも小型の生き物なら通り抜けられた。


 10日後になるだろうか、ウロコの生えた猿が、誘われたかのように亀裂を伝って降りて来た。そこには、不思議な物が有った。2メートル程のカプセルが据えられており、そのガラスの様なカプセルの中に緑色の生き物がうごめいていた。それは魔力がある限り、何年でも生きる事の出来る緑色のスライムだった。

 ゆっくりと上下に浮き沈みするそれは、やがて形をドラゴンの頭の様に変え始めた。サルは、動けなかった。その目線は、カプセルの中にいる緑のドラゴンに釘付けだった。


 1ト月後、洞穴に住むサルの一族が、誘われるように地面の亀裂に入って行った。数年後、サル達は、仲間を呼び集めて祭壇の中心あるカプセルを拝んでいた。言われた通りにしていれば、罠にかかったネズミやウサギの様な魔獣は食べ放題である。猪は言うに及ばず、大型魔獣から逃げ回っていたのが嘘のようだ。魔獣島の生き物は、次第にサル達の言う事を聴くようになって行った。


 更に数年後、カプセルの中の緑のドラゴンの頭はサル達の王となっていた。王は、恐ろしい存在だった。魔獣島の生き物たちの中には、ごく稀であるが小さな魔石を生み出す事が有る。供え物として魔石を出さなければ恐ろしい罰が下る。王が気に入らなければ、魔獣もサルも、体が痺れて呼吸が出来なくなり死んでしまう。


 既に、サル以外の魔獣にも不思議な力が届いているようだ。他の場所なら、サル達が食われてしまう、力の強い魔獣が集められた。天井が壊され、通路が作られカプセルは地上に出された。ひれ伏すサル達の指先は、カプセルを地上に出すために血まみれだった。王宮の様な、巨大倉庫跡にカプセルが運ばれて、また月日が流れる。


 大型魔獣の1000に1つは、魔石が自然発生するらしい。鼻の良いと言われる狼の魔獣は、魔石を見つける能力が有るのだろうか? 魔石を持つ大型魔獣は見つけ次第、半殺しにされ王宮に連れてこられた。すると魔獣自ら、よちよちと傷ついた足を引きずりながら王の元までやってきた。

 供物となった魔獣は、カプセルの下に近づくと動きを止める。王のしもべとなったサル達によって殺され、魔石を抜き取られた。カプセルの中で溶けていた緑色のスライムが、その度にドラゴンの頭の姿になって、カプセルに投げ込まれた魔石をかみ砕いて食べていた。


 10年、20年と時が過ぎていく。王は、カプセルの近くにサル達を並ばせた。カプセルから、細い緑色の管がサルの鼻の中に入れられて行く。鼻の奥に、カプセルから濃い緑の半固体の様な液体が移動していく。苦しがるサル達だが、何故だか動く事も逃げる事も出来ず立ち尽くしている。


 処置が終わったのだろう、2匹のサルが床に転がっている10匹の仲間を見下ろしていた。その目は、王と同じ目をしていた。

「お前たちは、今からオレのしもべだ。名をくれてやる。お前はニーナ。お前はヨーダ」

「王よ。有り難うございます。お仕えいたします」

「オレは魔獣の王、スライムドラゴンだ。仕えれば、お前達の部族が世界を支配できるだろう」

「ご命令下さい。いかような事でも成し遂げます」

「これからお前達は、魔獣を増やし、海を渡り、町を破壊し、人を殺すのだ」

「王よ、仰せのままに」


 ※ ※ ※ ※ ※


「今、第二世代は何処だ? 如何したのだ?」

「あぁ、この研究所の地下にいるぞ」

「何故、そのような所に?」

「中々、考えを改めないのでな。お仕置きだよ」

「では、第二世代は魔獣島の地下牢にでも閉じ込められているのか?」

「あれは、空を飛びたいとの一点張り。愚かなドラゴンだ。いう事を、聞かぬ者はいらん」

「空ばかりと。確かにそうだが、はて?その言いよう。聴かぬ者はどうなったのだ。まさか、同族を殺したとでも言うのか?」

「命乞いは、せぬとほざいていたわ」

「何という事を!」

「最近では、な。その前には、同じようなドラゴンが、もう1匹いたがな」

「その者はどうした?」

「ゆっくりと、寝てもらったよ。ズートな」

「どうやら、お前とは、相容れぬようだ。いったい何の為だと言うのだ」


「あえて言おう、俺は愚かな人類を滅する為に、スライムドラゴンとして生まれたのだ。ドラゴンはこの世で最強の生き物だろう。しかしドラゴンとて、しょせんキメラだ。ドラゴンと名付けられてはいるが、作り物にすぎん」

「そうとも言えるが、人は命を与えてくれたものだ」

「俺は、俺を作り出した人類すべてに、復讐したいのだよ」

「何と言う、恐ろしい事を考えるのだ」

「考えは変わらぬ。俺は、人と魔獣と、そしてお前らドラゴンの混ざり者だ。この恨みを消す事は出来ぬ」

「何という事だ。それが本心なのか。その為に、何百万の魔獣を戦わせてきたのか? 恨みからは、何も生まれぬものを、それでも、同族と言うならば、改心せよ! お前を、殺したくないのだ」」

「ドラゴンとして力を得たのに、獣人の様に、コソコソと生きるのか? ミレアとか言ったな、お前も、人に作られたものでは無いか? 恨みはないのか? なぜそのように人に肩入れするのだ」

「確かに、人は愚かな生き物だ。我らドラゴンの力をもってすれば、すべての物を破壊する事が出来よう。有から無にする事はいとも容易い。しかしドラゴンは人と違い、無から有を作り出す事は出来ぬのだ」

「戯れ事をいうな。俺は、スライムドラゴンだ。王の力を手に入れたのだ。仲間になれ、世界を征服するのだ」

「……」

「返事はなしか。どうやら、敵となったようだな」


 究極の生物と言われるドラゴン。ミレアには、その巨大な体を意のままに動かし、思考する3個の脳がある。ドラゴンの胸と腰にある。もちろん頭にも。思念の世界の世界から帰って来たミレアは、魔獣島の第二世代を助けるべく速度を上げた。 

 だが、魔獣島まで200キロと近づいた時、跳ね返されるような衝撃と共に気分が悪くなり、前へと進めなくなった。思い当たるのは防御結界だ。だとすれば、奴が、作動させているのであろう。魔獣島の周りをぐるりと輪を描くように巡ったが、つけ入る隙がない。一旦撤退し、出直しとなった。


 ミレアは捜索が終わったら、カトー達と約束した転送ステーション113の北の森で待つつもりだった。彼らは、帝国の要塞に行くと言っていたが、道すがら寄ってみても良い。主達なら、何か良い知恵が浮かぶかもしれない。2、300キロは思念波が届く、試しながら戻るのも悪くはない。


 ※ ※ ※ ※ ※


 距離が延びれば、思念波も届きにくい。海を渡れば、必ず思念波が弱まるだろう。スライムドラゴンは、分体を作る事にした。ニーナとヨーダに、仲間のウロコの生えたサルを集めさせる。サルの寿命は、普通なら25から30年と言われる。2匹は、すでに50年以上生きていた。


 このニーナとヨーダが死ぬ間際に、濃い緑の塊が王に戻っていき吸収される。再びサル達が集められ、王によって何代ものニーナとヨーダのクローンが作られた。幾度もクローンが作られ、月日が経ち、スライムドラゴンに戻される緑の塊が少しずつだが増えていく。この試練を、生き残れた者はある特徴を持っていた。思念波を、受け取る事はもちろん出す事も出来た。そして、それは魔獣の王と同じ様に、他の生き物を意のままに操れた。


 魔獣の王は、この島の魔獣を可能な限り増やす様に命じていた。ウロコの生えたサル達は、忠実に命令に従い、魔獣の数を増やした。折よく、気候が安定し、食物の実入りが良くなり小動物が増えた。捕食する魔獣達も、数を増やしていく。驚く事に、増えていく魔獣の群れは、集団知を身に付け始めていた。


 魔獣の王は笑っていた。魔獣島で思いがけない物が見つかった。その倉庫はつい最近、防御結界が切れたらしい。中を探っていた眷族が、武器らしいとの一報をもたらした。アレキ文明の武器庫だった。訳も分からず、運び出す様に命じられた魔獣達の背には、魔核弾頭が六発乗せられていた。積み残された、一発を残して王宮に運ばれていく。

 山を越え、谷を渡り、魔核弾頭は島の端から端へと動かされ王宮に運び入れられた。その時、武器庫のあった辺りで巨大な爆発が有った。王は直ぐに運ばれた物の正体が爆弾だと見抜いて、怒り狂ったが利用出来る事に気が付いた。


 魔核弾頭は、ニーナとヨーダ達によって海岸に運ばれて慎重に調べられたが、使い方を調べるうちにまた1発が爆発した。残りの五発は、距離を置かれて別々に置かれていたので何事も無かった。3匹の王のクローンが居なくなったが、それよりも、起爆方法が分かった事の方が重要だった。


 5年ほど前、ドラゴンが来て王宮に近づこうとしたが、王によって滅ぼされた。王に逆らう者は無く、魔獣は島一杯にあふれそうだった。2年前、魔獣の王は海流の流れが変わったのを知った。

「サルども、軍団を用意せよ。海を渡る。たとえ上陸出来る魔獣が半数になっても、着けさえすれば良い」


 彼らにとっては都合よく、港湾都市メストレの人々にとっては大きな悲劇が訪れようとしていた。その年、距離の壁は海流の変化と、大風によって魔獣を味方した。


 スライムドラゴンは、魔獣島のカプセルから離れられないようだが、ウロコの生えた緑色をしたサルの眷族が12体作られた。2匹と同じ、スライムドラゴンの眷族となった指揮個体が人の住む大陸の征服に出されるのだ。王が言ったように、海を渡るのに魔獣の半分が居なくなっても、侵攻するのに何ら問題は無かった。必要だと思われるよりも、遥かに多くの魔獣が、海流に支えられ風に押されて海を渡っていく。


 先行して進む軍団は、ケドニアのメストレを奪った頃だろう。続く魔獣達が、梯団を組みながら海峡を渡って行く。魔獣の軍団を束ねる為、ニーナ達と共に12体の指揮個体となった眷族が海峡を渡った。

 だが、ニーナとヨーダ。そして7体の指揮個体は渡れたが、指揮個体の5体が波に飲まれた。周りには恐ろしく沢山の、魔獣の死体が波間に浮かんでいた。


「魔獣を増やし、海を渡り、町を破壊し、人を殺すのだ」

 王の言葉通り、ニーナ達と指揮個体達は魔獣の軍団を操った。


 重魔獣といえども、ニーナとヨーダの万分の一の価値も無い。ニーナとヨーダには、ある使命が有った。スライムドラゴンの下部となりクローンとなって2体は200年以上も生きて来た。もうニーナとヨーダは、分体としてスライムドラゴンと何ら変わる事が無かった。その上、2体はウロコの生えたサルだが、スライムドラゴンと違い囚われの身であるカプセルから抜け出して地上を歩く事が出来た。


 ニーナとヨーダは帝国のステファノ市までは一緒だった。ここで二体は分かれて魔獣の王からのある命に従う。王からは他の指揮個体より遥かに重要な使命であると言われていた。


 ニーナは、魔獣の一団を引き連れて西の山岳地帯に向かった。魔獣の王からの指示とおり、目立たぬように洞窟にでも身を潜めるつもりだった。護衛となる1万ほどの魔獣は行方をまくには都合が良い。潜伏する場所が決まれば、その処分がてら通って来た近くの人間どもの基地を破壊に行かせよう。


 一方、ヨーダにとって魔獣の王からの指示はかなり変わっているように思われた。ヨーダは大きな教会を探していた。メストレは魔獣島に近すぎたので止めた。リニミは教会も爆破され跡形もないで探している物も見つからなかった。そして、ステファノ市の教会が選ばれた。


 緑色のそれは、サルの脳から抜け出すと教会の祭壇に祀られた、聖具であるふた付きのゴブレットの中に入って行った。金属の蓋を、がっしりと閉じると長期の睡眠に入り、完全に気配を消した。


スライムドラゴンは、自身が何かあっても生き残るつもりだ。

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