慣れればたいしたことは無い、だが慣れることは許されない
国葬の当日は言いようのない忙しさだった。町中の者が外出し、その警備のための兵士の指揮なども俺がしなくてはならなかったためである。通常であればだれか適当な者が各業務の指揮を任されるべきなのであるが、この国の組織は全くの原始的なお粗末なものだった。
全ての業務の指揮を俺がしなければならず、最終的にはああとか適当にとか簡素な返答しかできないような状態だった。この国葬が終わり次第統治組織の再編をせねばならぬなあ思った。
そんな義理もやる気もないとはいえ、あまりのお粗末さに手を出さねばならぬという心情であった。
へとへとになって逃げるように館を離れた俺はいつの間にかあの工房へとたどり着いていた。
そこにはエリーが何もせずにただ窓の外を見つめていた。
「ああ、エリーか。少しここにいてもいいか?」
「いいよ、でもせっかくの祝日なのにこんなところにいてもいいの?」
「ここが一番いいよ」
「うん……私もそう思う」
そしてただ沈黙が場を支配した。
ダリオンは花火の打ち上げの準備のため家にいなかったので俺たちは二人きりだった。
「ねえ、エドウィン」
「?」
「あなたのお父様やお母さまはどんな人?」
唐突な話題に少しだけ驚きながらも俺はどう答えるべきか思索した。
ここでこの世界での両親の事を答えるのも少し他人行儀すぎる気がしたので俺は本来の両親の事を話す事に決めた。
「お母さんのことはよく知らない……、ただ奇麗な人だったよ。……俺を生んだのと同時に死んだんだ。お父さんは……いまでも……いやしかたがない」
父のイメージはあまりにぞっとするものだったので話すのを止めた。ただ彼が狂ってしまった事にも多少の理解はあった。
「そう……大変だった、……んですね」
「慣れればたいしたことではないさ」
俺はそう簡素に言った。
俺はエリーの両親についても聞くべきか迷ったが迷っているうちに外の爆発音に気をとられ、結局聞かなかった。
「花火が始まったか……、エリー一緒に見に行こう」
そうして俺たち二人は外へと向かった。