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第66章

「……もし、それができるならな。しかし戻っても記憶はないんだろ」

「何とかして、記憶ごと戻る方法はないかな」

「体に傷で文字を書いても消えるだろうし……いや第一、本当に過去に戻る、ってんなら何もかもなくなって当たり前だと思うぞ。現に今まで何回戻ってもだめだったんだろ?」


「ただ、それだとこの世界の記憶が蓄積されていく説明がつかない。だから、本当に過去に戻されてるわけじゃなくて、何て言うか……」


 言葉が見つからなくなって、思考もそこで止まってしまった。やはりだめか。


 僕はタイムパラドックスという概念を思い出した。起こったことが起こらない世界が有り得るなら、世界は二つに分裂してしまう。並行世界というやつだ。そうやって世界は無限に増えていって、僕も無限に存在することになってしまう。


 どの僕が、どの過去に戻って、どの未来を変えようと言うのか?ばかげた話だ。しかし今、残された道はそれしかないのかも知れない。


「なあ悠、この世界では、おまえの意識だけはずっと連続してるのか?」

「……そうだな、リセットされるまで続いてる。それが、どうかした?」

「悠が前に、俺に初めてその左手のことを話してくれた時、俺言ったよな。ここは事故って脳を損傷したおまえの夢の中で、おまえは今もベッドで寝てて、機械に繋がれてる、とか何とか」

「大田くん、そんなひどいこと言ってたんだ。最低」


「幸、ちょっと待って。俺の、夢の中……?」


 あの時は正直、ばかげていると思ったが、今は違う。何か解決策に近づいているような気がしてきている。


「貴ちゃん、この世界はどこにあるんだと思う?空間的に」

「俺はここが、その女の夢の中なんじゃないかと思い始めてる。暑さも疲れもない。空腹もない。ここは空間じゃなく、精神の世界だと思う」


「あ、お、お大田くんあの、たしかに私たち、あの……げ、ゲームの中にいるような感じだよね。何か、現実味がないって言うか」

「お、お大田って、俺の名前はそんなに長くないけどな。そんな呼びにくいなら下の名前で呼べよ」

「う、ごっふごふごふ、あのすみませんでした。ごめんなさい」

「結華、そんな謝ることないよ。大田くん、結華を弄ばないでくれる?」

「へいへい」


 その時、僕にひとつの案が浮かんだ。


「……そうか。世界じゃなくて、記憶のほうに向かえばいいんじゃないか」

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