第63章
もう何もない。
僕は死体が二つ転がるビルの七階で美弥子さんを寝かせ、笑っていた。へらへらと。みんなが心配してくれている。三人とも、心に傷を負ったばかりなのに。
僕だけが永遠に気づいてしまっている。なぜ僕が?
もう、この窓から飛び降りてやろうか。そうすれば終わってくれるかも知れない。
僕は落ちていたガラスで自分の腕を切ってみた。痛みが走ったと思うと、傷は消えていた。また僕が笑った瞬間、甲高い音とともに視界が激しく揺れた。幸が僕を打ったのだ。
幸は涙をいっぱいに溜め、僕を睨んでいたかと思うと、僕の胸に飛び込んできた。
「なんで?どうしちゃったのさ。悠、しっかりしてよ。悠がいないと私、耐えられないよお」
「……ああ、幸、ごめんな。ごめん。ちょっと確かめてみただけなんだ。ほら、もう治ってるだろ?
みんな、また長くなるけど、俺の話を聞いてほしい。とりあえず、こいつらが目障りだからここを出よう」
何度繰り返したかわからない説明や、携帯電話の確認や、幸のコンタクト付け替えを済ませた。今回はもう歩き回ったりせず、腰を据えて、みんなで脱出方法を考えようと思った。
「……本当にもう、何回繰り返したかわからないくらいなんだ。この世界はそんなに広くないけど、本当に何もない気がしてる。どうしたらいいのか、俺だけでは答えを出せそうにない」
「ねえ悠、それじゃ私たちはそのリセット?のたびに記憶が完全になくなってる、っていうこと?」
「そう。なぜだか、俺だけが覚えてる」
「あ、あの桐島くん、感覚とか、時間とか、いろんなものが失われてるってなんかゲームの中みたいだね」
「……貴ちゃんはいつだったか、世界のバグだって言ってたな」
「あれ、それおまえに話してたっけ?」
「ああ。繰り返しの中でな」
「……じゃあ、バグの原因はその女だろっていう話もしてたか」
「えっ?いや、それは聞いてない」




