第6章
そんなことがあって、天使こと美弥子さんはほぼ毎日病室に来た。
初めのうちは挨拶だけで会話が途切れ、間が保たず気まずかったが、いつも美弥子さんはこちらの胸が痛くなるほど努めて明るく振舞ってくれた。
それを見ていた母のほうが美弥子さんと仲良くなってきて、それはそれで僕は不満、というか嫉妬し始めたんだけど、その感情を表に出すことに利益もないので、だいたい曖昧にへらへらしていた。
美弥子さんと二人きりになることもあった。美弥子さんは地元の名門、聖沢大学に通っているらしい。車の送迎付きで。身に着けている物は僕に知識がないのでわからないが、いつも綺麗で、見舞いの品などを見ても明らかに上流階級の人のようだ。
僕を撥ねたのも免許とりたてで運転していた高級車だったらしい。
住む世界が違う、という表現があまりに適切だ。
なのに、僕は退院が近くなったある日、美弥子さんから「悠一朗さん、あの……もしよろしければ、退院してからもお会いしたりとか、お嫌でしょうか」とメールアドレスを教えられた。ちょっともじもじしつつ話す姿は動悸がするほど可愛かった。
しかしまあ、母はそれより遥か以前にアドレスを交換していたようで、美弥子さんは家に来る際も母のほうに伝える。そのため、ほとんど僕にはメールしてこない。ばばあ死ね。
ただ、何を言おうが僕と美弥子さんは被害者と加害者の関係でしかないのであって、美弥子さんが僕と喋ったり僕の言うことを聞くのは単に負い目があるからで、僕は毎日でも会いたいけど彼女に負担をかけたくない。間に母がいてくれて丁度いいんだ、とも思う。