第59章
「唐突だな」
「好きだよね？」
幸のほうを少し見た。いつもと違う、不安でいっぱいの表情。唇が少し震えていた。
「……正直に言っていいか？」
「え？……うん」
「俺、自分の気持ちがよくわからない。美弥子さんには車で撥ねられて、いっぱい謝られて、それもあんな美人で……本当なら、俺なんかと関わるはずもない人で。
ただ何となく、そういう特別な感覚に酔ってるだけのような気もするし。でも、気になってるのは確かだよ」
「ふーん。そうなんだ」
幸は大して興味もない態度を装ったつもりなんだろうが、失敗だ。耳は真っ赤だし、泣きそうな顔をしてる。
今、おまえが好きだって言ってあげられればどんなに幸せだろう。
「悠、それって、好きなんだと思うよ。悠はただ、ちょっと足踏みしてるだけ」
「だけど俺、はっきり言って見ためで判断してると思う」
「見ためだってその人の一部だよ。四条さんが目覚めて、ここから出られたら、告白しちゃいなよ」
「……成功したらどうすんだよ」
「悠ならきっと大丈夫だって」
「そしたら幸、祝ってくれる？」
「え？あ……当たり前じゃん。な何言ってんのさ」
二人とも無言で歩いた。どれほどその気まずさが続いていたのか、気がつくと、この方角も行き止まりまで来てしまったようだ。
ここから出られる可能性が消えつつある気がした。また詰んでしまったのか？
「幸、またリセットされたら忘れちゃうだろうけど……だから言おうと思う。聞いてくれ」
「何？日頃の恨み辛みでもぶちまけてみる？」
素直じゃない態度が頭に来て、僕は幸の肩を掴んでブロック塀に押しやってしまった。
幸はこういう強引な行動に弱くて、小さい頃も手を出されるとすぐ泣いて、後で先生に言いつけてたっけ。
「聞いてくれよ。黙って聞け」
「や……ごめん。許して」
「おまえのせいなんだよ。気になるんだよ、おまえが」
「……え？」
「こんな鬱陶しい奴、って思うのに、いちいちおまえがそんな顔、するから……」
