第54章
議論に集中しすぎて、二人とも気がついたら立ち止まってしまっていた。ちょっと笑い合った。しばらく回りを確認してから、また足を前に踏み出し始める。
「貴ちゃん、ちょっと説明してくれ。俺たちの目をごまかす、っていうのは?」
「……この緑色って呼んでるやつな、こういう言い方はしたくないけど、普通の人間には見えない。でも悠は事故って見えるようになった。
よく小さな子どもって、わけわかんないこと言ってるだろ?他にも頭のおかしい奴とか、動物とか、そいつらみんな、何もないはずのところにやたら反応したりしてる。それらはすべて、この緑色が見えてるから、って考えられないか?」
「あー……なんとなくわかってきた。つまり作り手からしたら、バグがあってもそれをバグと認識できない奴らには見えたっていいのか」
「そう。言葉で周りに伝えてしまえるような、頭がまともな人間にだけ、バグが見えなければ良かった。
ところが、稀に事故や生まれつきの問題で、その処理が破綻するような人間が存在する。霊感がある、って言われるようなタイプだな。そんなふうに考えれば一応、俺は何となく納得できる」
貴ちゃんらしいゲーム的な考え方だが、案外そんなものかも知れない、と僕は思った。
逆に言えば、普通の人間にはそこにあるはずのバグが見えない。本来そう設計されてるんだから当然だ。一般的な心霊現象や今回の神隠し状態だって、その線で説明できないこともない、か。
「なあ貴ちゃん、もしここから出られたら、って表現が正しいのかは知らないけど、元の世界はどうなってんのかな?」
「まったくわからんが、おまえの言う無限ループが本当に起きてると考えれば、意外と動いてないんじゃないか?時刻もずっと十三時三十三分のままみたいだし」
「そうだといいな。……逆に、浦島太郎みたいに何十年も前に死んだことになってたりしたら、怖いけど」
青空。




