第53章
僕だけでなく幸も、コンタクトのおかげで緑色が見えている。だから二手に分かれることにした。
それぞれ逆方向に歩いていって、幸のほうが何か特別なものを見つけたら戻ってきて僕も確認する。そうすれば、例え失敗してリセットされたとしても記憶を積み重ねていける。
今回は男女で分かれることにした。できれば次回はないことを望んで。貴ちゃんと僕は、大学と逆方向に歩き始めた。
「貴ちゃん、先走るなよ」
「おまえに言われんでもわかっとる。ちゃんと携帯で確認して歩くからさ」
「なあ、この辺の地理わかる?」
「いや、せいぜい国道を通ったことがあるってくらいだな。まあ大学周辺は昨日調べてたし、多少わかるけど」
「そっか。……貴ちゃん、この緑色、何なんだろうな」
「見てきた限りで答えるが、俺はバグみたいなもんだと思ってる」
「バグ?またゲーム感覚かよ」
「まあゲームの話なんだけど、プログラミングがおかしかったりすると、こういう現象が起きるんだよな。画面が乱れたり、想定されてない場所に裏技で入ったら強制リセットされたりとか」
「でも俺たちが、ゲームじゃないことは確かだろ」
「……この状況では確かなものなんて何もない、と俺は思うがな。だいたい、悠だって俺だって、普通のおっさん共が作ったプログラムの一部かも知れない」
「いや、やっぱそれは無理があるだろ。世界はゲームなんかより完璧にできすぎてる」
「その完璧が破綻してるのが今、ここなんじゃないのか?」
「……そうかも知れないけど、ちょっと待ってくれよ。貴ちゃんはさ、どっかの偉い神様的なおっさんが、コンピューターで宇宙を丸ごと作ってみました、って感じを想像してるんだろ?それならさすがに、世界はもっともっとバグだらけのはずだよ」
「たしかに、バグ自体をなくすのは無理かもな。ただ、その神おっさんからすれば、まあおばさんでもいいんだけど、バグをバグと知られないように作るのは簡単なのかも知れんぜ。
俺たち人間とか高度な生物の目だけ、ちょっとごまかしてやればいい、って話」
「……ごめん、ちょっとついてくのが難しくなってきた」




