第50章
とにかく、僕は順を追って説明した。前回の議論を、できる限りなぞるようにしていった。四人でビルから出て、車から鞄を出した。
しかし、同じではだめだ。前回とは何かを変えなければならない。
「幸、コンタクトは片方取れたんだよな」
「え?あ……うん」
「その残ってるほうを右眼に付けてみて」
「今……ここで?」
「頼む。たぶん大丈夫だ。この世界は怪我とか体の異常とか、そういう概念がないみたいだから」
「幸ちゃん幸ちゃん、大丈夫?眼、痛くない?」
「ちょっと待って。ん、入ったよ……ひっ」
「見える、よな?」
「……うん。いざ自分の目で見ると、なんか、凄いね。悠はよく平気でいられるよね」
「いや、俺だって気持ち悪いから。でもまあ、これでいいか。
……みんなさ、この世界から何とかして出なきゃいけない、って思うよな?でも一歩間違えると、リセットされて先月まで戻されてしまう。
俺しか覚えてないかも知れないけど、まったく同じ十何日かを繰り返す羽目になる」
言ってみてから、自分の言葉に違和感もあった。繰り返した時間そのものは、僕もばかみたいに真新しい気持ちで過ごしてしまっていたのだ。でも美弥子さんの意識が途切れた瞬間、すべてを思い出した。
そうしたら、何も気づかずに二回目を生きてしまっていた自分を呪いたくなった。そして僕は、また同じことを繰り返すのが怖い。
永遠に同じところを回り続けるということは、死と変わらない恐怖だと思えた。




