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第49章

「とりあえず、その女が何か鍵を握ってるだろ。起きてもらおうぜ。悠、揺すれ。それでだめなら叩け」


 僕は美弥子さんを背負ったまま軽く揺すってみた。まったく反応がない。仕方ないので下ろして寝かせ、声をかけながら少し強めに肩を叩いてみた。


 芸術作品をわざわざ乱暴に取り扱わなければならないような複雑な気分。


「だめだな」僕はもう諦めようと思った。


「普通にやって起きない。じゃあキスしかないな。悠、キスしろ」

「は?な、な、ちょ」

「ちょ、ちょっと大田くん、変なこと言わないの。で、悠は何真っ赤になってるのさ」

「俺は正しい選択だと思うがな」貴ちゃんはそう言いながらこちらに寄ってきて美弥子さんの手に触れた。




 青空。高層マンションの隙間、空は少し裂け、その向こうから精密機器の基板みたいな深緑色が覗いている。……




……「貴、ごめん。ごめんね。私が弱いから……」美弥子さんはそのまま立っていたが、どこか不自然で、吊られているように揺れていた。体から緑が消えかかった瞬間、僕は美弥子さんに駆け寄り、美弥子さんは糸が切れたように僕にもたれかかってきた。




 貴ちゃんが立ち尽くしている。


 異常な既視感に、僕は呆然としてしまっていた。頭がいかれてしまったのかと思った。


「……貴ちゃん?なあ、これ、二回目……だよな?」


「二回?」

「この場面、前にも……って言うか俺たち、まったく同じことを繰り返したんだよな?」

「……悠、大丈夫か?何言ってる?」


「みんなは?幸、小田原、この状況に覚えはないか?」

「あるわけ……ないじゃない、そんなの」

「き、桐島くん、叩かれたりしたんだよね?大丈夫?」


 何が起きたのか僕には理解しがたい。ただ言えるのは、この状況を僕は既に一度経験している、ということ。


 美弥子さんが崩れ落ちた瞬間に、僕はすべてを思い出したのだ。二回目だということも。


 まるでゲームのリセットボタンを押され、しかもそれに今の今まで気づけなかったような気分だ。


 あの時、ひとつ前の世界で、貴ちゃんが美弥子さんに触れたことが原因なのか?

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