第45章
一息ついてから、意識の戻らない美弥子さんを背負った時、僕は何かがおかしいと感じ始めた。重さを感じないのだ。
いや、重さはある。でも脚にくる感覚がない。殴られて脳がさらにおかしくなったのか?そう言えば、あれだけ殴られたのにもう痛みもない。左手の血は乾いている。
そして、世界が静かすぎた。僕は何となく、割れた窓から外を見て、途端に「うあ」と思わず声をあげてしまった。
街全体が緑色だらけになっていた。
「どうした?警察か?もういいよ、逃げる気もないしな」
「いや、貴ちゃん、あの携帯で外を写してみてほしいんだ」
「悠、こんな時に何言ってるの?携帯って何?」
「幸も、立てるならちょっと来て。小田原も」
「あー……悠、ようやく俺にもわかった。おかしいんだな。世界が」
全員で携帯電話を通して異常を確認した。しかし、女子二人は状況が飲み込めていない。
僕は貴ちゃんと一緒に、幸や小田原にも知っているだけのことを話そうとした。自分の左腕の緑も見せた。二人とも、どこまで理解してくれたかはわからないが、最後までちゃんと聞いてくれていた。
美弥子さんとガードレールの件もあったし、できるだけ緑色には触れないように歩こう、と僕が提案した。
「悠、おぶってられるか?」
「うん。貴ちゃんも、殴った痛みは今ある?」
「……なくなってる。こっちが折れててもおかしくないくらい殴ったのにな」
「貴ちゃん、俺さ、何かやばいことになってる気がする。もうここが、いつもの世界じゃないみたいな……」
「そうだな。委員長、メガネ、もう行けるか」
「ちょ、私はいいけど、結華をメガネって呼ぶのやめてくれない?失礼じゃない。て言うか、私だってこの間まで眼鏡してたし」
「幸ちゃん幸ちゃん、いいよ。いいから。わ私も、もう行けます」




