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第43章

 立ち尽くす貴ちゃん。座り込んだままの幸。廊下には小田原がいた。さっきの足音、警察ではなかったようだ。そして美弥子さんと僕。


 混乱していた場は静まったが、僕は何から手をつけていいのかわからなかった。


 まずその場にゆっくりとひざを着き、美弥子さんに呼びかけたが、やはり意識はない。


 僕はその姿勢のまま顔を上げ「幸、大丈夫か?」と訊いた。


「うん。私は大丈夫」と涙声で返ってきた。部屋の入口に立っている小田原には「あの……小田原も、何か、された?」と言ってしまったが、「んん、怖かったけど、私も、大丈夫」だそうだ。


 僕は無理に微笑み、「小田原、幸のそばに行ってあげて」と優しく言った。小田原は小走りに駆け寄り、幸と抱き合って泣きじゃくった。子どもに返ってしまったようだった。


「なあ、貴ちゃん」

「……悠にも、聞こえたか」

「うん。あれは、聞き覚えがある」

「ごめんな悠。俺さ、さっき携帯に写ったおまえの手まで見たのに、まだ信じられてなかったみたい」

「いいよ。たぶん俺だってそうなるだろ。……霊、なのか?今も、美弥子さんから緑色が迸ってた」


「霊か。霊って何なんだろうな。


なんで俺には見えないんだろ?」




 貴ちゃんのお姉さんは小さい頃から病気がちで、小中学校はほとんど通えず、高校も通信制だった。


 貴ちゃんはそんなお姉さんを守りたいという一心で柔道やボクシングを始めたのだと思う。誰よりも強くあることは、貴ちゃんが自身に課した義務だった。


 僕は貴ちゃんとよく遊んだから、お姉さんにもよく会っていた。ほとんど友達もいないお姉さんは、僕をとても気に入ってくれていた。僕だって、好きだった。

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