第41章
五階だったか六階だったか、着くなり僕は消火器で残っている窓を割って歩く。
「何だてめえは」という怒声が響いた。廊下にスキンヘッドの男がいた。
僕は黙ったまま走り出し、消火器を振り上げると男は怯んで部屋に逃げ込んだ。僕も追って入った。
部屋の隅に四人。美弥子さんと幸、スキンヘッドと、やたら大きい長髪の男。女子二人は座らされていたが、服は着たままだし怪我もないように見えた。
「なんだ、がきじゃねえかよ」長髪は不自然に大きい声で喋り笑った。
僕が止まることなく近くのスキンヘッドに殴りかかると、スキンヘッドは大きく回るようにして逃げた。
「逃げてんじゃねえ」長髪が叫ぶ。
こいつらも狼狽えている。
僕は向き直ったスキンヘッドに消火器を振り回し、二振り目を腰のあたりに直撃させた。しかし太ったスキンヘッドには決め手とならず、しかもその拍子にレバーが折れた消火器は転がっていってしまった。武器を失った。
刹那、長髪もこちらに動いてきた。僕はありったけの声で「逃げろ」と叫んだ。
僕に二人でかかれば、女には逃げられる。長髪は迂闊に動けない。
いつの間にか、僕の左手から出血があることに気づいた。僕は流れる血を握りしめスキンヘッドに殴りかかった。スキンヘッドは顔を背けるような挙動を見せたので、僕は血だらけの左手をスキンヘッドの顔に向けると同時に股間を蹴り上げた。スキンヘッドは声を漏らし、へたり込んだ。
それが確認できるや否や僕の視界は激しく揺さぶられ、もう背中を壁に打ちつけられていた。動けないまま三発殴られた。僕は下を向いて頭を抱えるように守りながら、ようやくまずいと悟った。長髪だ。
この長髪は素人じゃない。
何か叫んでいる。さらに僕は腹を殴られた。二人は逃げたのか?まだ僕は立っている。早く逃げろ、と言いたかった。
遠くでばたばたと人が動く音がした。後頭部を打たれた。足音が幻聴でなければいいんだが。




