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第40章

 あちこちにダンボール箱やゴミのような物が積まれ、割れたガラスが散らばっていた。廃ビルなのか?


 異常な緊張感で心臓が喉まで移動してしまったようだ。深呼吸をしようと思ったが、あまり深くしたら心臓まで吐いてしまいそうな気がしてうまくできない。


 上から甲高い叫び声が聞こえた。おそらく幸だ。僕は階段を駆け上った。悲鳴というより怒声のようだったし、まだ何もされていないと信じたかった。


 その勢いのまま僕は、階段の踊り場に置いてあった消火器を抱え、上りきって最初に視界に入った金髪の男が何か言いかけた瞬間に投げつけた。


 もう止まれない。勢いを失ったら恐怖で動けなくなる。


 消火器は男の肩に直撃した後、床に落ち、金属音が廊下全体を震動させた。男は痛みに体を折り曲げ、頭が僕の腰の高さに来たので、僕はそれを全力で蹴り上げた。


 倒れた男のひざを再び拾った消火器で殴りつけた。男が叫び声をあげた所為で耳が潰れそうだった。


 我に返り、必死に呼吸を整えていると、さらに上の階から男の声が聞こえた。会話のようだった。


 よって最低でもあと二人いる。


 僕は貴ちゃんがいつだったか教えてくれたことを思い出していた。喧嘩の時は口を開くな。躊躇せず殴れ。


 自分で言ってたくせに、あの頃の貴ちゃんは両方とも守っていなかったな。それでも無敵だった。僕は少し落ち着いたのか狂ったのか、笑いがこみ上げてきた。


 消火器のレバーを掴んで左手にぶら下げ、歩いて階段を上っていった。相手の動向を耳で確認しながら。


 しかし、階段で鉢合わせれば上になる側が圧倒的に有利なのに、男がそうしない理由は、おそらく残りが二人だから。それぞれが幸と美弥子さんを抑えるのに手をとられている。


 僕は数秒の間に希望を見いだしたが、それも覆される最悪の事態を想定し、考えるのをやめた。

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