第4章
放課後、携帯電話を開くと、母からメールが来ていた。
「今日またミヤチャン来るって連絡あったよ(顔文字)何時ごろ帰る?(顔文字)」
その名前を目にした瞬間、心拍数が上がるのを感じた。少し息苦しい。気がついたら僕は髪に手をやっていた。そして一応突っ込んでおくと、母は顔文字の使い方がおかしい。
四条美弥子は車で僕を撥ねた張本人だ。ひとつ年上の大学生。
初めて会ったのは病室だったが、彼女が目に映ってからの数秒間、僕は固まったまま何もできなかった。異常なほどの美人だったから。
肩の辺りまですとんと落ち着いた黒髪、薄化粧にしては大きすぎる眼。日本人らしい美しさを極めた顔に西洋のモデルのような体がついていた。胸はやや小さいかも知れないが、全体の美しさがそれをどうこう言わせる次元ではなかった。
そんな完璧を絵に描いたような美人が、僕に向かって真っ直ぐ頭を下げ、「本当に、本当に、すみませんでした。もうこんなことのないように、わたし、二度と車を運転しません。約束します。すみませんでした」と言った。涙をいっぱいにためて。
儚げな細い声が震えていた。すぐに関西弁の抑揚だと気づいたが、それにさえ気品を感じた。
一瞬の沈黙の後、こんな天使みたいな女性を泣かせている自分のほうが悪者になった気がしてしまって、僕は激しく動揺、何の言葉も返せないまま静かに顔を背けた。もう一回撥ねられたような気分だった。
するとそれを見た母が勘違いしたのか、「悠一朗はスポーツだって好きな子でね。小学校の時なんか、いつも1等賞だったのよ。それがもう走れないかも知れないのよっ」などと憤り、天使を詰り始めた。
ちょっと待て、と言いたかった。1等賞なんて生涯で二回くらいしか貰ってない。
しかし天使は涙が零れないように耐えながら、必死に母の言葉を受け止め、謝り続けている。