第38章
安いファミリーレストランの店内。大学から少し離れていることもあり、ついさっきまでの人込みが嘘のようで、座席にも余裕があった。僕らは窓際の良い席に案内された。貴ちゃんの下調べのおかげだ。
ここに来るまでの道中、美弥子さんが幸に追いつき何か話をしていたからか、幸の怒りもある程度は収まったようだ。まったく。
「ふふ。なんだか、どきどきしますね」
「いや、サイゼリヤでそんな……」
「俺は腹が減ったぞ。肉が食いたい。あー、そういやさっき大学で、悠のクラスの奴見た気がする」
「ん?誰だろ」
「名前は知らんな」
「幸ちゃん幸ちゃん、トマト挑戦してみよっか」
「……いくら頑張ったって食べれないものはあるもん」
「あら、トマトはお嫌いですか?」
「だって、あんなぐじゅぐじゅしてるの、想像の時点でもう無理です私」
「ふふ、そんなにですか。でもわたしも、けっこう好き嫌いがあったので……よく叱られました」
「そうそう、委員長はトマトが給食に出ると半泣きでいつまでもいつまでも箸でつついてて先生に」
「うるっさい。あー大田くんその話やめて。怒るよ。あー」
「幸ちゃん、それ絶対もう怒ってると思う」
「ふふふ、みなさま仲良しでほんとに、うらやましいです」
美弥子さんはよく、仲がいいことをうらやましがる。やはりこんな容姿だと、周囲の女子は妬んで無視したり、いじめたりするようになるんだろうか。しかし、僕の家族といる時にも言っていた記憶がある。
僕らはとりあえず食べた。混雑してもいないのに、美弥子さんの料理だけ注文間違いがあり、幸が店員に抗議しかけたが、それを美弥子さんは「いいんです。大丈夫、これもおいしそうですし……」と笑顔で食べていた。
これはもう、好きにならないというのが無理だと思う。
自分が出す、と言った美弥子さんを全員で阻止、割り勘で会計して店を出た。
少し空が曇ってきたのが気になる。まだ午後からの説明会には少し時間があるので、貴ちゃんは途中にあったアニメイトに行きたいとか言いだした。その所為もあってしばらくの間、男女分かれて自由行動ということになった。




