第36章
「……悠、決めてなかったの?はあ」
「決まらなかったんだよ」
「何となくでも決めとかなきゃ、どうするのよ。ばか」
「るせえな」
「ふふ、藤川さん、わたしもいざ入学してみるまでは全然、右も左もわからなかったんです。何を学びたいか、って難しいですもん。悠一朗さん、ですから、今回は藤川さんと一緒に行ってみてはいかがでしょう」
「え、四条さんはどうされるんですか?」
「わたしは……わたしもご一緒してよろしいのですか?」
「う、そんな全然、ねえ?悠」
「俺は全然いいけど」
経営学部の会場まで美弥子さんに案内してもらうことになった。幸は何か釈然としないようだが、こいつはいちいちややこしすぎる。
僕らは模擬授業を二つ受けた。いや講義というんだったか?
内容自体はそれほど興味もなかったが、何となく自由な雰囲気で、教授の人は面白い話を挟みつつ、学問の根本的な部分を伝えようとしていたんだ、と思う。僕はそう感じた。よくわかってはいない。
「悠はどっちが面白かった?」
「んー……最初のほうかな。聞いてて面白かった」
「ああ、それわかる。なんか、思ってたよりずっとくだけた感じだったよね」
「ふふ、田崎先生は学部外の学生さんからも人気あるんです。実際の講義はもっとくだけてますねえ」
「あれ以上くだけたらどうなんだ……」
「まあとにかく、高校とは違うよね。雰囲気から何から。あ、もうお昼すぎだしお腹すかない?悠、ここの学食すごいらしいよ」
「ええ、そうなんですけど……」
「四条さん、どうしたんですか?」
「さすがに、今日は人でいっぱいかも知れませんね……ちょうどお昼時ですし」
「えー、でも、ちょっと見てみるだけでも行ってみたいんですけど」
「ふふ、そうですね。うん、ひょっとしたら座れるかも」
「じゃあ俺、とりあえず貴ちゃん呼びます」
今日の幸は美弥子さんに妙な突っかかり方をする。でも美弥子さんはそれすら楽しいのか、ずっとにこにこしているから、やはり器の違いを感じてしまう。
僕は携帯電話で貴ちゃんを呼び出しながら二人を見た。大人と子どもみたいだった。




