第34章
大学なんて何を着て行けばいいのか、と少し考えてみたが、暑いし、別にいつものでいいや、という結論に至った。ティーシャツとデニムの膝丈。貴ちゃんからメール返信、「今起きた」しかしまあ大丈夫。僕が早く起きすぎただけだ。
時間をかけて準備し、小さな鞄を提げて家を出発、貴ちゃんと合流。集合は高校前のバス停、幸と小田原が先に来ていた。
「二人とも早いな」と僕が声をかけてすぐ、四人の横に黒のリムジンが停まった。完璧なタイミング。助手席のドアは自動で開き、美弥子さんが舞い降りた。
「みなさま、おはようございます」
ポニーテールに髪を上げていた美弥子さんはいつも通り美しかったが、僕にはそれに先走った驚きがあった。似ていたのだ。
僕は貴ちゃんの部屋に飾られた写真を思い出していた。病気がちだったお姉さんが、それを感じさせない笑顔で収まっている写真。はっきりと覚えているわけじゃないが、髪型も服装もほとんど同じに見えた。
静かに貴ちゃんを見ると、愕然とした表情で固まっていたのは数秒だけで、すぐ何事もなかったようにいつもの態度へと戻った。
「あー暑い。さあ早く乗ろうぜ、リンカーンのリムジン」
僕も何事もなかった顔をして乗り込んだ。女子二人はリムジンのほうに驚いていた。
「寺島さん、ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
「いえいえ、ではまた、お帰りの際はお呼びください」




