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第33章

 話がお互いに触れたくない場所まで流れついてしまったことに、僕は気づいた。


 貴ちゃんは美弥子さんに、亡くなったお姉さんを重ねていたのだ。黒髪で華奢なところ、もの柔らかで儚げなところ。二人は少し似ていた。


 しかもお姉さんの姿は、ちょうど大学一回生のままで止まってしまっている。


「……貴ちゃんも来る?オープンキャンパス」

「ちょっと考える。別に行く意味もないし」

「そんなこと言うなって。意味はあるだろ」

「うん。清純の欠片もない茶髪の年増がいっぱい見れるだろうな」

「やめろ。しかもオープンキャンパスだから、たぶんメインは高校生だろ」

「悠」

「何だよ」


「ごめんな」

「……いいよ別に、俺のほうは」


 こういうところはずるい。先に謝りやがって。




 今日、美弥子さんが明るかった理由は何だろう。自分の部屋でひとり考える。


 あの時、僕の隣には幸が座っていた。二人が恋人同士に見えて、だから自分には手を出してこないだろう、という安心感から?


 好きな人ができたから?


 それは僕じゃなく、貴ちゃん?


 こちらに来る前、彼氏に会っていた?


 おかしい考えだとわかっているのに、悪いほうにばかり落ち込んでいってしまう。


 不意に充電中の携帯電話が鳴った。メールの着信音。顔が熱くなった。胸のあたりを重く感じながら、僕は電話を手にとる。計ったように美弥子さんから。


 不安のあまり一旦ベッドの上に投げ捨ててしまい、しばらく逡巡した後、また拾い上げた。自分の情けない反応に少し呆れながら。


「今日は急にお邪魔してしまってすみませんでした。でも悠一朗さんのお友達とお会いできて、とても楽しかったです!


差し出がましいですが、事故の現場を通ったとき悠一朗さんが仰っていたことを、わたしなりに考えました。事故を起こしたのはわたしなのに、悠一朗さんのほうが気を遣ってくださって……本当に恥ずかしいです。


もしお許しいただけるのなら、これからは、お友達としてお会いしたいです。そしたら、あのお話の続きを聞かせてくださいますか?


 ……長々と失礼しました。お返事お待ちしてます(顔文字)」


 僕はメールを二回読んだ。部分的にも読んだ。お友達、という箇所を読んだ。そして最後の顔文字。


 僕は美弥子さんに被害者面をしたがる自分を抑えながらも、事故が終わってしまうのを怖れていたのだと思う。もう会えなくなってしまうから。


 なのに、友達って、会いたいって言ってくれた。


 僕はベッドの上で回転、枕と掛け布団を両腕で巻き込み、抱き締めた。あんまりはしゃいだって、どうせ後でがっかりするだけだぞ。そう言い聞かせているつもりなのに、嬉しさが全身から湧いてきてどうしようもなかった。

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