第32章
「悠、そこでだな。俺にも見えるようになる方法がありそうだから今、準備してるとこ」
「は?……見える?」
「これ見てみろ」
貴ちゃんは携帯電話を取り出し、操作して僕に画面を見せた。驚いた。とにかく画質は粗いが、緑色に裂けた空が映っていたのだ。
「めちゃくちゃ昔の携帯で撮った画像らしい。この機種だけは、おまえの言う緑色が写るみたいなんだ」
「これ、合成とかじゃなくて?」
「心霊ものを扱うサイトではけっこう知られてる。ただ、その携帯は出回った台数自体が少ない。バグだって言って、すぐ修正されたらしいからな」
「それで、あるのか?携帯」
「昨日、オークションで落としたとこ。もう少しで届くと思うぜ」
本当にその携帯電話が僕に見えるのと同じ景色を写すかは別にして、僕は嬉しかった。
「低いな」なんて言いながらブランコに揺られている貴ちゃんは、今でも貴ちゃんのままで、僕を信じようとしてくれる。
「貴ちゃん、小田原さ、可愛くなってない?」
「おお。完全に相撲は廃業してたな。まだ微妙にオタクっぽいけど」
「それ、おまえも一緒じゃん」
「そうだった。てへ」
「あのさ、どう思った?小田原」
「ん?……まあ、言いたいことはわかる。でも、それも何とも言えんな。……悠もそんな感じだろ、今」
しばし沈黙の後、僕も隣のブランコに座った。「ほんとに低いな」と僕が言い、「だから言ったじゃん」なんて二人で笑った。
「そう言えば、美弥子さんと初めて会った時さ、貴ちゃん普通だったよな。割と」
「いや、まあまあびびったぞ。俺も」
「……何て言うか、あんな生き物見たらさ、誰でも好きになるよな」
「そうだな。しかし、だからこそ俺にはあの、いかにも清純です、みたいな振舞いが異様に見えるけど。年上なんだろ」
僕が考えないようにしていた領域に、貴ちゃんは平気で足を突っ込んでしまう。
たしかに、誰にでも好かれるような美人なのだから、誰とも何もないほうがおかしいのだ。僕が二年生の時、可愛いと思っていた先輩が、妊娠して高校を退学したことだってあった。
「うん……でも送り迎えまであるんだし、過保護に育てられた……とかいうふうに考えても無理はないと思う」
「しかし今日だって、自由な感じでおまえんち来てたじゃん」
「まあ、そうか」
「……俺が大学生とか、大学って場所に拒否反応起こしてるだけかも知れんがな」




