第27章
「貴ちゃんは平常通りふざけてるけどさ、小田原、ほんと変わったよな。いいじゃん」
「す、ストパー」
「え?」
「ストパー……当てたから、だと思う」
「へー。なあ委員長、ストパー当てたら幕内力士も痩せて見えんの?ああ、でもあいつらストレートだっけ」
「大田くん?ちょっと黙ってみよっか。無神経な君にはわからないだろうけど、結華はすっごく努力したんだからね。可愛くなったでしょ?ちゃんと素直に見てあげなさい。ほら」
「うん。すごく可愛くなったぜ。ほら、だからもっと顔をよく見せておくれ。キラリ」
「うあ、な、そそそんな急にぐふごっほごほごほ」
小田原は急に咳き込み始め、テーブルに突っ伏して顔を隠した。
「そういうのだめだから……やめて、ほんとに」
腕の隙間から細い声が聞こえてきて、やはり小田原は小田原だ、と思った。
しかし、昔は気の毒に見えた仕種が、そのままでも今は愛らしい。人は変わるもんだ。少し寂しいような気もした。
僕は幸、貴ちゃんは小田原と向かい合わせで勉強し始めたが、何か訊く時に面倒なので席を替え、幸が僕の隣に来た。
「ほら、公式覚えてるよね?それが、ここで……」
「なあ幸」
「ん?どうしたの」
「やっぱ聖沢は無理あるかな、俺」
「それは努力次第。学科によっては倍率もそんな高くないしさ」
「そっか」
「んーと……あのさ、なんで悠も聖沢なの?ま、まあ私は第二志望なんだけど、今のとこは」
「え?……何となく、かな」
「ふーん。なんか、言いたくなさそう」
「そう聞こえたか」
「聞こえましたよ。別にいいけど」
ちょっと視線を逸らすと、やる気がなかったはずの貴ちゃんは「え?これでいいの?じゃあもう解けたじゃん。すげえ。やるな小田原」とか言っていた。教えるのが上手いんだろう。
小田原は昔から小さい子とかに優しくて、大人にも好かれる感じの女の子だった。今でも同年代の輪に入るのは苦手なんだろうが、人には向き不向きがあるのだと思う。
貴ちゃんが学校のヒーローだった小さい頃、小田原はいかにもいじめられそうな感じの女の子だった。
それが今は様変わりしてしまって、僕が心配するべきは貴ちゃんのほうになっていた。
みんな変わっていく。僕もそうなのだろう。そのすべてが喜ばしいはずもない。




