第2章
意外にも、というかやや異常なくらい早く、僕の怪我は治った。しばらく脳波に異常が出て、大腿骨にひびが入り、肋骨は四本折れていたそうだが、1ヶ月と少しで歩けるようになった。
最後までかかったのは左腕だった。
左腕は複雑骨折で神経まで傷ついていたらしいが、それには妙なところもある。
事故の時、僕は道の左側を歩いていて、車はガードレールを突き破り僕を撥ねた。僕は田んぼに落ちた。つまり車には体の右側面をやられたはずで、増水していた田んぼにたとえ左側面から落ちたとして、左腕はそんな大怪我になるだろうか?
考えられるとすれば、あの時僕は車に反応して振り返った、ということ。そして体の左からぶつかった。
でも僕に振り返った記憶はない。
頭を打ったせいで記憶が壊れてしまったのか?精神的なショックで思い出せないのか?これに関してはわからない。
左腕の謎はまだあって、ようやくギプスを切り取り、治ったはずの左腕と対面した時。左腕の内側、肘から手首にかけて深緑色の模様が広がっていたのだった。
明らかにあざや傷痕ではなく、精密機器のような人工物が埋め込まれた感じの模様で、僕は医者と母の前、「おお、すげえな最新医療」と声をあげた。こういう人工皮膚みたいな治療だと思ったのだ。サイボーグになった気分だった。
その時、母が「良かった。綺麗に治ってて」と目を潤ませたものだから、僕は「え、綺麗って、こういうもんなの?思いっきり緑だけど」と思ったままを口にしてしまった。
その場にいた僕以外の全員にひとしきり不思議な顔をされた後、僕は医者に何度も左腕がどう見えるか訊かれた。
ばか正直に答えていたら、もう退院が決まっていたはずの僕は脳の再検査で三日も病院暮らしが延び、また新たに薬を出された。どうも緑色に見えたのが脳の異常だと診断されたらしい。
薬を飲むと数時間は頭痛と鬱がひどく、その間なぜか左腕は緑から紫に色が変わった。その紫も人工的な色だった。
僕は薬を飲むのを勝手にやめた。もう医者にも母にも黙っておいた。