第19章
空の緑が消えた後、しばらく二人であれこれ考えていたが、もっともらしい答えに至ることはなかった。
幸は心霊現象に詳しい友達に訊いてみる、と言った。僕も貴ちゃんに相談してみよう。
弁当の残りをかき込んでいる時、幸が「あのさ、夏休みなんだけど……もしよかったらさ、一緒に勉強しない?悠、事故でブランクあるじゃん。そのぶん取り返さないとだめなんじゃないかな、って。それに、この緑色も調べたりとかしたいし……悠が嫌ならいいんだけど。別に」と素直じゃない誘い方をしてきた。
僕は「ほんとか?うん、じゃあまたメールするから」と返事した。また少し喉が詰まった。
放課後。家に帰って動きやすい服に着替え、僕は貴ちゃんの家へ向かった。
あと十メートルほど手前まで来たところで、既にガレージからテンポのよい打撃音が響いていた。シャッターは半分開いている。
一発でもくらったら死にそうなパンチを、貴ちゃんは流れるようにサンドバッグへと打ち込んでいた。
「貴ちゃん、来たぞ」
「おう、ここ来るの久し振りだな。見よこの扇風機。暴力的なまでの風量。まじ涼しい」
「ちょっとダンベルとかも増えた?」
「よく気づいたな。まあダンベルは変わってないんだけど、プレート買い足したからバーベルは最大二百キロまでいける」
「そんなの誰が使うんだよ」
「いや、種目によっては普通に使うぞ」
「二百キロ持ち上げる高校生とか、普通じゃねえよ」
その後、僕もしばらく黙々とサンドバッグを打ったり筋トレをしたりで体を動かした。
小さい頃は毎日こんな感じで遊んでいた。僕は久し振りだったが、調子はまあまあ良い。貴ちゃんはいつも色々と指導してくれるが、天才と言われていた割に教え方は論理的で上手いと思う。頭がいい。
「悠、おまえ左手のほうが強くなってないか?折れたの、左だったよな?」と言われた。
たしかに殴ると良い音が鳴るし、重たいのを持ち上げる時も左が楽だ。貴ちゃんが奥のほうから、埃だらけの握力計を出してきた。
「ちょっとこれで握力測ってみ」
「右からでいいか?」
「どっちでもいいよ」
「ぎ、結構本気出したぞ。でも四十三キロ。俺弱え」
「じゃあ左は?」
「やってみる。ぐう、でもあんまり力入ってない感じが……あ」
「数字は」
「八十八キロだって」




