第18章
「いた、痛いよ、やだ、もう……許して」
幸の声が震えていて、やっと僕は変な誤解をされていることに気づいた。
僕はあまりに動揺していたせいで、無理やりキスを迫るみたいな感じになってしまっていた。肩を掴まれた幸は首筋まで真っ赤になって涙目。
「ごめん。いや絶対何もしないから、俺の眼を見て。頼むから」
幸がおそるおそる僕を見上げると、たしかに右眼だけが、僕の腕と同じ深緑色をしていた。
この緑には何かある。そう確信した僕は、空のことを思い出し「幸、じゃあ今度はあっちを見て。あのマンション二つの隙間」と指差した。
「悠、それ昨日も言ってたよね。あの……そっち見てる時に何かしたりしないよね?」
「何かって何だよ」
「はっ、べ別に」
「マンションの間だからな。ちょっと見てろよ、えーと……あと1分くらいで見えると思うから」
僕は携帯電話で時刻を確認しながら、いつものように空が裂けるのを待った。今日は二人で。
もし幸にも見えたなら、これは何か運命的なことなのかも知れない。運命?そういう考えが浮かんで、また僕は僕がわからなくなる。
幸にも見えてほしいのか?僕は。あの緑色が、二人だけに。
もう一度時刻を確認しようとした時、幸が「な、何あれ」と甲高い声をあげた。幸が驚くのは当然のことだ。
しかし、もはや僕に新鮮な驚きはない。その世界の異常に、僕は体の一部分まで蝕まれているのだから。
「幸、右眼つぶってみて。たぶん緑、消えるから」
「うん。え、あれ、消えた?」
「じゃあ今度は左眼」
「あ、また見える……ぼんやりしてるけど。何なの?悠、何これ」
「それは知らねえよ。けど俺にもあの緑色は見えてる。この腕の緑色だって、今までは誰にも見えなかったんだ。俺以外には」




