第17章
「それさ、どこから聞いたか知らないけど、たぶん昨日の話だろ?事故の加害者なんだよ。俺が昨日、一緒にいたのは。たしかに女の子だけど」
「へ?加害者って」
「俺を撥ねた人」
「え、え、じゃあ彼女がいるっていうのは……」
「いねえよ。そんなの。誰が言ってたんだよ」
「なんだ。そうなんだ。そっかあ……はっ」
「何だよ」
「んん、いや別に。別にっ」
幸の勘違いだと知って弛んだ顔、それを慌てて取り繕う顔。
心が揺れた。僕は幸を可愛いと思ってしまった。そして幸の言う通り、この感情は浮気みたいなものだ。
しばらく沈黙が続き、耐えられなくなって出した僕と幸の声が被った。
「あ、いいよ先に言って」
「いや俺は別に。幸が言えよ」
「あ、うん。ええと……悠さ、その左手どうしたの?さっきから気になってたんだけど」
「左手って?」
「それ、湿布とか?すごい緑色のやつ」
僕の首筋に雷が落ちたように全身が痺れた。驚きが大きすぎて、もう少しで弁当を落とすところだった。
「あ、その、ごめん。あんな大きい事故のことなのに私……軽率で本当にごめんなさい」
「いや、違うんだ。別にフラッシュバックしたとかじゃないから。幸、この腕、緑に見えるか?」
「え?うん。そうだよ。何言ってるの」
「基板……機械の中身みたいな感じの緑?」
「そうだけど……何なの?」
見えるのは僕だけじゃなかった。
僕は弁当を置いて立ち上がり、幸に歩み寄った。
「え、ど、どうしたの」
「もうちょっとよく見て」
「な、何?もうやだ」
「頼むから見て。ほら」
詰め寄ると幸は慌てて目を逸らしたが、僕はその時、幸の右眼も緑色をしていることに気づいた。
「何回見たって緑だから。もういいじゃん」
「わかった。じゃあこっち見て」
「な、なんで?何するの?」
「いいから。見ろよ」




