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第16章

 そうか。今更わかった。美弥子さんか。


 あれ、でも、じゃあ幸って僕のことが本当に好きなのか?または、不純な交際だとか何とか思われてるんだろうか。


「なるほどな。それ、たぶん事故の時、俺を撥ねた人のことだ。でもおまえ誰に聞いた?つい昨日の話なんだけど」

「いや知らないけど、たぶん女子じゃね?何となく」


 言い方からして、おまえが見ておまえが広めたんじゃないのか。そう詰りたかったが収めた。


 何にしても、放置するのは気分が悪い。僕は念を押して、幸の携帯電話に「伝えたいことがある。頼むから来てほしい」とメールしておいた。




 僕が思っていたより昨夜は降ったらしい。きらきら光る水溜まりをよけ、僕は体半分だけ日陰に座った。ちょっと脚が熱い。


 幸が来る前に弁当を食べてしまおうと思ったが、うまく喉を通らない。今になって変に緊張してきた。幸は僕をどう思っているのか。僕はどう思わせてしまっているのか。ついさっき、いい加減な気持ちで幸の髪を褒めた自分が嫌になった。


 とにかく飯を、と思って無理に飲み込もうとしたら詰まりかけ「ぐむ」みたいな奇声をあげつつ、お茶の潤滑作用に頼っていると、後ろから「ほらあ、ちゃんとゆっくり食べないと。気をつけなよ」と言われた。


 子どもに言い聞かせるような物言いで若干鼻についたが、予想外に優しい声だった。


「げほっ、幸、あの、わざわざすまぐふ」

「ちょ、ちゃんと落ち着いてからでいいよ」


「うん、大丈夫、もう。あのさ……俺、悪いことしたか?」

「え?」

「なんか怒ってるだろ?」

「それを直接訊いてくるとか……んん、でも私は別に怒ってるとかじゃないよ。ただ……」


 幸は体ごとそっぽを向き、早口で呟くような話し方になった。


「こ、恋人とかいるんなら、ああいうこと言うのは浮気っぽいし、なんか相方さんが怒るんじゃないか、みたいな気がしなくもないですけど」


 幸の短く切った髪から覗く耳がまた真っ赤になっていて、僕は自分を呪うことにした。今まで幸の気持ちに気づかない振りをしてたから。本当は、ずっと前からわかっていたのに。


 幸は遠回しだけど精一杯、伝えようとしているんだと思う。僕は答えたい。


 でも、僕の答えがわからない。

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