第15章
参考書を忙しげにめくっているが、様子がおかしい。明らかに僕は無視された。しかし幸に対して悪いことをした覚えがない。
これは変にこじれる前に軽く話しておくべきだと思い、僕は席を立ち、幸の横まで行って声をかけた。
「よう、幸。今日、眼鏡は?」
がたんと机が揺れた。幸が驚いて体を硬直させたせいだ。耳が真っ赤になっている。僕は妙な罪悪感と、何か弱みを握っていて人を自在に操れるかのような快感を覚えた。
でも本当に何なんだ?
「え、え?眼鏡?あ、ああ眼鏡あの昨日壊れちゃって、今日コンタクトなの。でも久し振りだから、なんか合ってなくて」
「て言うか、髪も切ったんだ」
「え、うん。でも前髪とかちょっと短すぎかな、って……」
「いや、いいんじゃない?俺はいいと思うよ」
褒めた瞬間、幸は視線を落とした。表情が冷めた。
「そう。ありがとう」
ああ、いつものように鬱陶しくなってきた。こういう態度をとっておいて、察することができなければ僕が悪者扱いなんだろう。
原因は何なのか、はっきりさせる必要がある。
「幸、昼休みさ、また屋上来てほしいんだけど」
「だめ。桐島くん、屋上は立入禁止だから」
「あっそ。でも二人で話したいから。待ってる」
「嫌だ。二人きりとか、勘違いされるし」
「待ってるから」
途中で投げ出しかけた。なんでこいつとまともに話したらこんなにいらいらするんだ。でも何とか会話を正常に終了させ、僕は席に戻った。
また柏木が気持ち悪い笑みを浮かべて僕を見ている。しかし今は、こいつも有力な手がかりだ。
「桐島あ、またいつもの痴話喧嘩ですか?お熱いことで」
「ああ。しかも今回は理由がまったくわからん」
「いやいやいやいや、それは自分の胸に訊くべきじゃね?」
「柏木、おまえ知ってんの?」
「美人と仲良く歩いてた、って噂、桐島のことだろ」




