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第13章

 貴ちゃんは高速で舞うようにシャドーボクシングをした後、手を挙げて走り去った。かなり離れてから、どこかの犬に吠えられ「ようバッカス」とか叫んでいた。


 美弥子さんは何が起こったのかわからない表情をしていたが、貴ちゃんは何だかんだ、空気を読めるというか、場の空気を操作できる奴だ。遠くから見て、二人が気まずいのがわかったので、敢えてふざけた態度をしていったんだろう。事実、僕は助けられた。


 それに貴ちゃん、普段はもうあんな明るい奴じゃない。


「あいつ、近所に住んでて……ちょっとまあおかしいんですけど、いい奴、です」

「ええ、なんか、うん……よくわかりました。お二人は仲良しなんですね。ふふ」


 美弥子さんが笑ってくれた。でも仲良しって、それ変な意味じゃないよね?世界がちょっと晴れた。


 もう家が近い。


「さっきの話なんですけど、美弥子さんが事故のことで変に思いつめるのをやめてくれたら、その時に話します。続きを」

「はい……あ、あの、それって、何て言うか、そういうことです、か?」

「えー……いや、たぶんもうちょっと複雑なことなんで。やっぱ今はだめなんです」


 意味不明な会話だったが、問題の先送りには成功した。と言っていいのか?


 できたら永遠に放置しておきたい気分だ。たぶん政治家はいつだってこんな気持ちなんだろうな。

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