第11章
うるうるし始めた美弥子さんに狼狽えた僕は足早に、事故現場である田んぼの道へと歩いて行った。
僕はガードレールに近づいた。美弥子さんは戸惑いながらも僕の後をついて来る。
「ほら、綺麗に直されてますよ。もう何事もなかったみたいに」
まだ美弥子さんの表情は引きつったままだ。やはりこの道はやめておけば良かった。気づかせるべきではなかった。
僕は不自然にへらへら笑った。うまく笑えてない感じがした。それでまた気を遣われたと思ったのか、おそるおそる美弥子さんもこちらに寄ってきたが、不意に何か嫌な寒気がした。
刹那、緑色が爆ぜた。僕の視界いっぱいに。
美弥子さんを異常な色の塊が襲うように取り囲む。音はない。美弥子さんは気づかないのか、無表情のまま、ガードレールに手を触れようとする。緑がさらに湧き上がる。
異常すぎる状況。それに触れてしまってはまずい、そう僕は確信した。
「美弥子さん」
びくっと美弥子さんの肩が動いた。しまった。呼び止める声が大きくなりすぎた。明らかに不審。
ごまかさなければ。しかし緑色はやまない。
「あの、俺さ、事故に遭ってむしろ良かったと思ってます」
「えっ、あの……え?」
「今、こんなふうに美弥子さんと歩いたりできて良かったと思ったり」
えらいことになった。動揺のあまり、告白みたいな流れに持って行ってしまった。俺死ね。それでも緑は止め処なく湧いている。
僕がえらいことを言い出したせいで、美弥子さんは俯いたまま、会話が止まってしまった。忙しく舞う緑をまとった美弥子さんは危うげで、なのに本当に綺麗で、この世のものじゃないみたいだ。
しかし僕はとりあえず、現況の解決策を見失っている。
「み美弥子さん、とりあえず歩きましょ。話は歩きながらで」
「悠一朗さん?……あの」
「歩きましょう。ほら」もはや暴力的に僕は言った。
「あ……すみません」
何も悪くないのにまた美弥子さんが泣きそうだ。でも何とか、ガードレールから引き離すことはできた。そうしたら緑はあっさり消え去った。




