第1章
青空。高層マンションの隙間、空は少し裂け、その向こうから精密機器の基板みたいな深緑色が覗いている。
何気ない風景の、どう考えても異常な一部分。それが今日はいつもより大きく見える。
世界がこんなことになったのは、と言うより、僕にこんな世界が見えるようになったのは三ヶ月ほど前。
高校の帰り道、僕はやたら大きな黒い傘をさして雨をよけ歩いていた。三年生になったばかりだった。
陽は早くに落ち、寒さが僕の顔と少し濡れた手をちくちく刺していた。四月とはいえ、マフラーと手袋を片付けたのは失敗だった。僕はひとり体を丸め、田舎道を不細工な足どりで進む。
この間までいつも一緒に帰っていた大田貴仁とは、もう別のクラス。あいつは新しい環境に馴染めたろうか?馴染む気もないだろうか。
自分のことは棚に上げて余計な心配をしていたら、後ろから車のライトらしき光が近づいてきて、ガードレールを隔てた歩道にいた僕は何とも思っていなかったけれども
不意に大きな音を聞いた。
次の瞬間。僕は病室にいた。
体が動かない。頭と左腕と脚が固定されていた。首を動くだけ捻り、眼を引きつらせて右を見ると、母らしき物体が毛布を被って寝息を立てていた。
声を出して意識があることを知らせようと思ったが、眼を動かした時点で強烈な頭痛がしていたので、とりあえず諦めた。
あの時の音、おそらく車がガードレールを突き破って僕を撥ねたんだろう。もう何となく、状況の大体が把握できた。
後になって母に詳細を聞かされたが、僕は吹き飛び、頭から田んぼに突っ込んだ。運転していた女性は泥まみれになりながら僕を引き上げてくれたそうだ。女性もパニック状態だったそうだが、そうしてくれなかったら僕は溺死していたらしい。