6話、墓穴を掘る
宿屋に戻ってからは何をするでもなく部屋でぼーっとして過ごしていた。
それからかなりの時間がたっただろう。
「すいませーん、リュウさん食事の準備ができましたよー」
「あ、はい!」
扉の向こうから声がかけられる。そうか食事つきの宿屋なのか。
一食や二食くらいなら我慢してようかとも思っていたが、食事がついてるならありがたい。
扉を開けると、受付をやっていた少女が待っていた。
「それじゃあ案内しますね!」
「どうも・・・」
普通の人なら案内ってほどでもないだろうと思うかもしれない。
だけど俺には助かる。
食堂へ行って何をどうすればいいのか、分からないし何かよく分からない不安がこみあげるのだ。
少女は終始笑顔だった。
営業スマイルだよな。でなきゃ何がそんなに面白いって話になるし。
食堂まで行くと3、4人くらいの客がいた。
和気あいあいとした雰囲気でも殺伐とした雰囲気でもなく、ただ普通の食堂って感じだ。
少女が俺に席へ促すと、厨房の女性から食事を受け取っている。
何か親しげに話している。容姿も似ているしもしかして親子か?
少女が食事を運んでくる。
「お待たせしました!」
「ありがとうございます」
さっそく受け取った食事を食べようとするのだが・・・。
少女は俺の目の前の席に腰を下ろし向き合った。
どういうつもりなんだ?まさか・・・。俺と会話するつもりなのか?
その予想は当たった。
「リュウさんって冒険者なんですか?」
どうしよう、食事しようとしたときに話しかけられても困る。
俺が冒険者か?
俺は転生勇者としてこの世界に飛んできたけど、それを正直に話してもなあ。
なんか遠まわしに自慢して、すごいって言ってもらいたそうに見えるよな。
「冒険者です。まだ駆け出しなんですけど」
「わー!やっぱりですか?」
「僕が冒険者だっていうの分かるんですか?」
「はい」と答えるだけでもいいのかもしれないが、一言だけで返すのも相手に悪いような気がした。
俺は会話をしてしまった。
「何となくそんな感じがしたってだけなんですけどね」
と、その少女は笑った。
「この辺りの出身ではないんですか?」
「そう、かも。ちょっと遠い場所から・・・」
「すごいですね!ここまで冒険してきたんですか?」
「まあそんな感じ・・・」
「リュウさんのところにはどんな魔物がいたんですか?」
「スライムとかスケルトンとか」
「倒したことあるんですか?」
「まああるよ・・・」
「その、こ、怖くなかったんですか?」
「特には・・・」
「わー!すごいすごい!」
「・・・」
駄目だ。自分のついた嘘で自分がピンチになってるような、きつい。
「こら、エマ!そんなにお客さんを困らせるな!」
「あ、はーい、ごめんなさい」
エマと言われた少女は、厨房にいた女性から怒られたからか、そのまま俺に別れの言葉を言って去った。
助かった・・・。
しかしあの少女、冒険者を珍しいものみたいに見てたけど、そんなことあるのか?ここギルドの近くの宿屋なのにな。
厨房の女性に感謝しに行くべきか?いや、わざわざそんなことしなくてもいいか?
とか考えながら、自分の部屋へ戻った。
今日はとても疲れた。ステータスはかなり高めのはずなのにな。
もう明日のために寝よう。