5話、宿屋とギルドを求めて
勇者になったおかげだろうか。
どれくらい時間が経ったか分からないけど、俺はずっと走り続けていた。
ペースは結構早めだったのに足の裏が痛くなるどころか息切れすらしていなかった。
それに自分の足の速さも上がっている気がする。
「見えてきたな・・・」
言うなら『それなりに発展した地方の町』って規模の町が見えてきた。
と同時に少しばかり心臓がドクドクと鳴り始めた。腹も痛くなってきた。
頭ではあれこれ考えようとしなくても、身体は勝手に緊張しはじめるらしい。
俺はまた、いけるだろうか。
同じ二の舞になったらいけないよな。よし・・・。
俺は緊張しやすい。だからやることを決めよう。
まず町に入ったら、目立たないようにするために服を買おう。
そして宿屋で部屋を借りる。その後ギルドの場所を探そう。
ギルドの中へ入るのは翌日の朝早くでいいだろう。
そっちのほうが人も少ないだろうし、いくらか俺のメンタルの負担もマシになるはずだ。
いける。これだけならいける。
名前も知らない町へ俺は踏み込む。
時間は昼過ぎくらいか。
町はそこそこの人通りだ。俺が気にしているだけかも知れないが、やはり視線を向けられているような気がする。
俺は服屋を探すと、割とすぐに見つかった。
俺はそこまで目立たなさそうな服装を選んで店主のところまで持っていく。
「すいません。これください」
「銀貨3枚になります」
「ええと・・・」
確か国王様からもらった袋の中身を見る。金貨が10枚ほど入っていた。
中から1枚を取り出す。
「おつりになります」
銀貨を何枚かおつりとして受け取り袋へしまう。
それから服屋から出る。
「次は宿屋だな」
町の中をうろうろしながら歩き回る。
あ、ギルド見つけた。丁度町の真ん中くらいの場所だな。
ギルドの近くで宿屋は見つかった。
「中へ入って受付に話しかければいいだけだ。行こう・・・」
幸いにもこの宿屋へ入った目の前に受付があった。
ちょっとでも周囲を見回さなきゃいけなかったら相当メンタルにくるからなぁ・・・。
「こんにちは!どれくらいお泊まりになりますか?」
「あの・・・そうですね・・・」
受付の少女が笑顔で話しかけてくる。営業スマイルだよな。
周囲を見回すのは、個人的に精神的にきつく感じる。料金表とかあるんだろうがそれを探すのも緊張する。
この世界のお金の価値なんてよく分からない。
「とりあえずこれで泊まれるだけお願いします」
俺は金貨1枚を取り出した。
「ありがとうございます!この値段ですと一か月分になりますが、よろしいですか?」
「はい」
「これは鍵になります。ごゆっくりどうぞー」
鍵には【101】と書いてある。1階の1号室だよな?
客という身分になれたことで精神的に余裕がもてたのか、勇気を振り絞って周囲を見回してみる。
受付の右側の奥に食事処、左側から奥に向かってそれぞれ部屋があるようだ。
階段もあり二階があることも分かる。そこにも部屋があるんだろう。
運よくすぐに自分の部屋を見つけられた。
俺は部屋の中で衣服を着替えると、道の再確認をかねてギルドへ向かう。
「お出かけですか?行ってらっしゃいませ」
「どうも・・・」
まさか声をかけられるとは思わず、俺は一瞬焦った。
かなり小さい声で短く返してしまったな。性格悪そうとか思われてなかったらいいんだけど。
途中で見つけていたのですぐにギルドに到着してしまった。
まあいいや、宿屋に戻ろう。