クリスマス
とうとうこの日がやってきた。
今日は大変な一日になるぞ。
いつもより早く起きた俺は顔を洗いに一階におりる。
「パパおはよう!」
「おはようエリー。」
娘のエリーが俺に抱きついてくる。
俺はエリーを抱っこして一緒に一階におりる。
「おはよう、マリエル。」
「あら今日は早いのね。」
「ああ、今日はあれだからな。」
「そうね。頑張ってきてね。」
俺の足にしがみついていたエリーが今度はマリエルの足にしがみついて遊んでいる。
「朝ご飯はもうできてるから先に食べちゃってね。」
「了解。」
短い返事を返し、ご飯を食べるためキッチンに向かう。
今日の朝ご飯は卵焼きとパン。いつもより少し少ない。
まあ、しょうがないか。あれだからな。
最後のパンに手を着けた頃にエリーとマリエルが席について食事を始める。
「そろそろ時間じゃないの?」
「ああ、そうだな。」
食べ終わった食器を水場に置いて仕事用の服に着替える。
俺の装備はショートソードとバックラーそれと革鎧を着込む。
着替え終わった俺は玄関に向かう。
「ちょっと待って、コート忘れてるわよ。」
「ありがとう。」
「パパ頑張ってきてね!」
「エリーよだれが垂れてるわよ。」
マリエルが自分の服でエリーのよだれを拭き取る。
「怪我しないで帰ってきてね。」
マリエルとエリーが笑顔で送り出してくれる。
「行ってきます。」
ドアをあけるとそこには俺の元パーティーメンバーがいた。
「おうおう、ミハエルよう、朝から奥さんとイチャイチャしやがって。」
「その分しっかり働いてくれよ。」
「俺も結婚してーなー。」
「無駄話してないで早く行こう。もう皆集まっているはずだ。」
一応最年長である俺がメンバーを仕切っていた。
「へいへい。今年もいつもの広場だったよな。」
「ああ、そうだ。今年も頑張ろうな。」
「「「「「おう!」」」」
街の広場に向かうと、もうすでに何組かのパーティは集まっていた。
知っている奴も何人かいた。
知っている奴の一人である、『蒼の竜』のパーティーリーダーのダグスが話しかけてきた。
「おう久しぶりだな。相変わらず売れない雑貨屋なんかやってんのか?」
「おいおい、ダグスよー。売れない雑貨屋も楽しいんだぞー。例えば結婚できるとか?」
「な、何!!お、お前結婚してたのか!何で俺に伝えてくれなかった!」
結婚と聞いてダグスは焦り出す。ダグスもそろそろ三十歳になろうとしていた。
「ご、ごめんな。ちょうどお前がこの街を離れている間に結婚したから伝えそびれちゃって。」
「ま、まあ許してやる。だが!今日これが終わったら絶対にお前の嫁さんに会わせろいいな?」
「ああ、考えとくよ。」
絶対だからなーと叫びながら自分のパーティーに戻っていく。
「さあ!今年もやって参りました。コカトリス狩り大会!」
街の領主が声を拡大する魔石を使って叫んだ。
領主がこんな事をするのは珍しいらしい。
だが、ここの領主の一族は皆こんな感じなのである。
そんなことはどうでもよく、肝心なのは今日はコカトリス狩り大会なのだ。
今日はクリスマスというイベントの日らしく毎年コカトリスを狩りに行っている。
コカトリスの肉を食べると一年幸せに過ごせるという伝承があるらしい。
ちなみに、一番ポイントを獲得したパーティーは家族と一緒に領主のクリスマスパーティーに招待されるらしい。ちなみに俺はまだいったことがない。
「おっしゃあ!今年こそは行くぞ!パーティー!」
「「「おー!」」」
「ほらおまえも。」
「おー」
皆気合いは十分なようだ。
そもそもコカトリスはそれ程強いわけではなく、石化と毒にさえ気をつければあとはメンバー
としっかり協力出来れば全く問題ないのだ。
しかも、薬草や毒消しに石化を治す薬まで領主が全員に渡してるのだ。だから、参加者も多い。
つまりライバルもたくさんいるわけだ。
街からしばらく歩いたところに森がある。そこに沢山のコカトリスが生息している。
他にもコカトリスが沢山生息している場所はあるが、ここは少し難易度が高い。
なぜなら、ここのコカトリスは群で活動している場合が多く、少しでも態勢が崩れると一気に崩れてしまう。
「さあ、行こうか。」
「「「「おう!」」」」
狩りは順調であった。俺がコカトリスの攻撃を盾で防ぎチャンスをみて、槍使いのテレシーと一斉に攻撃する。もう一つのペアも上手くやっているようだった。無属性魔法が得意なバレウスは透明を使って、隠れながら鷹の目で俺たちの戦況を把握している。俺たちが劣勢になると、的確な攻撃魔法を使ってコカトリスを狩っていく。
「そろそろ休憩にしようか。」
「「「「おう!」」」」
ちょうどいい洞穴を見つけて、中になにもいないことを確認して中に入る。
中は真っ暗だった。
「真っ暗だなここ。」
「ちょっと待っててくれ。」
俺は背中のバックに入っていた、魔石に魔力を送る。すると、視界が明るくなっていく。
「さすが用意がいいな!やっぱり、うちのリーダーは優秀だな。」
「もう引退しちゃったけどな。」
「まあ、でも今はそれで幸せなんだろ?」
「まあな。」
「よし、それじゃミハエルの嫁さんとエリーちゃんの為にも頑張るぞ!」
「「「おう!」」」
「それにしてもだいぶ狩りきってきたな。」
「そうだな。もう全滅しちまったんじゃねえか?」
何か森がおかしい。違和感を感じる。
「そうにちげえねえな。」
「「「がはは」」」
なにか嫌な予感がする。
「来るぞ!」
今まで黙っていたバレウスが叫ぶ。
「またコカトリスだろ。そんな警戒することねえよ。」
「いや違う。何かもっとやばいのだ。」
余裕な態度をとっているテレシーとダニとスタニスとは逆に俺とバリウスは警戒をする。
「ダニ!!横に跳べ!!!」
バリウスが叫ぶが、ダニはすぐには動けなかった。
俺はダニへの攻撃を構えていた盾で跳ね返そうとするが、明らかに間に合いそうにない。
(あれを使うしかないのか?でもあれは使わないと誓った。でも、使わないとダニは致命傷を負うかもしれない。使うしかないのか。)
「加速!!」
ガキン!次の瞬間にダニに当たるはずだった攻撃はミハエルが盾で防いでいた。
姿を現したのはコカトリスにそっくりだがオーラは全然違った。
間違いなく、こいつはコカトリスよりも強いだろう。
「助かった。ユリウス。」
「そんな事は後でもいいだから早く逃げろ!」
「そんな事できるかよ!ここで駆除しないと街にも被害がでるぞ!」
この森は街の近くである。間違いなく、被害はでるだろう。
「ダニ!お前の後ろの方に『蒼の竜』がいる!援護を頼んでくれ!」
「わかった!!」
ダニはバレウスに言われた通り後ろを向いて、走っていく。
背中を見せて全力疾走していくダニを見た魔物は背中を足の爪で
引っかこうとしたところをテレシーとスタニスが攻撃を仕掛ける。
「そっちには行かせないぜ!」
「ウギャァァァァ!!」
背中に二人の攻撃を受けて大きな声で叫んだ。
コカトリスと生態はあまり変わらないようだった。
バレウスはコカトリスもどきに収納で発動を保留にしておいた魔法を
全てぶつけた。
俺たちのパーティーの強敵と戦わざるをえない状況になってしまったときの作戦である。
前衛が敵を引きつけて魔法使いであるバリウスの魔法が完成するまで引きつけるという
シンプルな作戦だった。
しかし、バレウスの魔法を全部受けてもまだコカトリスもどきは立っていた。
「ウギャァァァァ!!」
「糞が!」
状況は最悪だった。スタニスのバトルアックスがコカトリスもどきの攻撃を受けて少し遠くに飛ばされてしまった。
テレシーはコカトリスもどきの攻撃を受けてしまったが致命傷というわけでもないが、バレウスの後ろで応急処置をしている。
そしてバレウスは魔力の限界がそろそろやってくるはずだ。
俺もスタニスから遠く加速は一日一回が限界でありもう使えない。
そんな最悪の状況に最悪が重なる。
コカトリスもどきがスタニスに爪で引っかこうとしているのだ。
(まずい!)
そう思ったときだった。
「おいおい、お前らもうへばってんのか?」
スタニスへの攻撃を『蒼の竜』のリーダーのダグスが自身より少し小さいかなというサイズの大剣で弾き返す。
「魔法剣・蒼!!」
ダグスの剣が青く光り出す。
そのままコカトリスもどきに一撃浴びせる。
この間にスタニスは後ろに下がって後衛とコカトリスもどきの間に俺が入る。
「まってくだせい、リーダー!」
後ろから、一人魔術師のような男が走ってきた。
「治療は任せてください!」
どうやら、『蒼の竜』の回復役のようだ。
「頼んだ!」
短い返事をし俺も戦闘に参加する。
この後の戦闘はコカトリスもどきいじめであった。
俺がコカトリスもどきの攻撃を盾で弾き返し、
その隙をこの街一番の剣士が見逃すはずなかった。
「ウギャァァァァ!!!」
コカトリスもどきが断末魔を上げながら倒れていく。
「しゃあ!!!」
ダグスが歓声を上げる。
俺にはもうそんな元気はない。
現役はすごいなーとか思っていると、
今度はタグスがコカトリスもどきを引きずって行く。
ほんと現役すごいなー
町に戻ると、先に街に戻っていた『蒼の竜』のメンバーとダニと合流する。
俺たちは、怪我人の治療と疲れでもう狩りに行かなかった。
「おーい、いつまで寝てんだよ。もうすぐ結果発表だぞ。」
街の宿屋で寝ていた俺をダニが起こす。
「先に行っててくれ。」
ダニが部屋から出てったあとしばらくぼーとしてから
顔を洗いコートを着て外にでる。
「おい!ミハエル!やったぞ!」
宿屋から出ると、何やらテンションのおかしいパーティーメンバーがいた。
「おい!ミハエル!優勝だ!領主様のパーティー!」
テレシーの説明で俺は目が覚めた。
「まじか!ちょっと待っとけ!家まで行ってくる!」
一刻も速くマリエルとエリーに報告せねば。と思い方向転換しようとすると、
「おい待てよ、ミハエル。お前の嫁さんとエリーちゃんは広場だよ。」
「おい!バリウス!どういう事だ、こんな夜に二人きりにするなんて!」
この街は治安はいい方だが、夜に戦闘能力のない女性を一人きりにしておくのはどこの街でも問題なはずだ。
「大丈夫だって。」
メンバーたちから落ち着くように言われるが、落ち着けるわけがない。
俺は最後の力を振り絞り走り出した。
「あーあ、ミハエル走って行ちゃった。」
「『蒼の竜』と一緒にいるのにな。」
「とにかく、ミハエルを追うぞ。」
「「「おう!」」」
広場につき、マリエルとエリーを探す。
結果発表が去年と同じ場所で行われるなら、広場の中央だ。
広場の中央にマリエルとエリーがいた。
急いで、近づくと後ろに六人の男たちが立っていた。
全員知っている人だった。
『蒼の竜』である。
「おう!ミハエルじゃねーか!遅かったじゃないか!」
「宿屋で寝ててな。ていうかなんでお前らがいるの?」
コカトリス狩り大会は『蒼の竜』が優勝したなら、ここが領主の邸宅へ向かう馬車が来る場所と聞いているので不思議ではない。
しかし、優勝は俺たちのパーティと聞いている。
考えていると、後ろから声がする。
「おーい、ミハエル!」
バレウスとダニ、テレシー、スタニスだ。俺のパーティメンバーも勢揃いだ。
ますます謎である。
「どうしたミハエル?不思議そうな顔しちゃって?」
「いや、なんで『蒼の竜』がいるのかと思ってさ。」
「あれ?聞いてなかった?今年の優勝は
俺たちのパーティと『蒼の竜』だよ。」
俺の今までの疑問をバレウスが解決してくれる。
領主の邸宅に着くまでに俺が寝ていた間に起こっていた事を全て聞いた。
『蒼の竜』はあのコカトリスもどきのポイント放棄しその分のポイントが
俺たちのチームに入り俺たちは優勝、
『蒼の竜』はその後普通のコカトリスを狩って俺たちのポイントに追いついたらしい。
まあ、なにがともあれエリーとマリエルをパーティに連れて行くことができてよかったな。
そしてまた時は巡る。