生きてて良かった
「……帰ってきた」
周りの景色を見上げながら、おれは安心する。
これが夢でなくてよかったという安堵と、世界を守れてよかったという安堵が俺の中に確かにある。
よかった。
本当に……
……て、ここどごだ?
ラミアルアに建物は似てるけど知らん場所だな。
周りの景色を見上げながらとさっき言ったが……異世界なのは分かるが、何処かはわからなかった。
道行く人に、少し訪ねてみようか……
「あ、あのー」
俺が声を掛けたのは、すぐ近くにいた衛兵だ。
ドラク○とかの門番によくいるやつだ。
「どうした?」
衛兵は、兜越しに声を返してくれる。
あぁ、普通の人っぽくて良かった
「ここって何て言う国なんですか?」
「はい? なんだお前分からないのにこの国にいるのか?」
「ちょ、ちょっと諸事情がありまして……は、はいぃ」
「……」
や、やばい、確かに国の名前も分からないのやつが国にいるのは怪しい……
くっ、いきなり緊張してきた。
「……まぁいい、ここはラミアルア王国、エレス領だ」
「ラミアルアか……わかりました。ありがとうございます」
「……それにしても……」
彼は兜のまま俺を見つめる。
あ? なんだ?
男に見つめられても嬉しくないんだが
「お前手配書のやつに似てるな?」
「はい?」
なんだそれ?
手配書……これまで気にしたことなかったな
「確か名前は……カミノリョウタだったか」
「え?」
お、おぉ
なんで俺が手配されてるんや……
「気をつけろ、変なこと出目だって間違ってつれてかれたらたまったもんじゃないだろうしな」
「あ、はい。ありがとうごさいます」
簡単にあいさつを済ませると俺は再び道路に戻り、一人物憂げに考える。
「……なぜに俺が手配されて……」
悪いことしたって?
強いていうなら世界を救ったぐらいだけど……
あ、でもそれってこの世界の人たちは知らんのか……
ならそれによって出来た余波が原因か?
確か全部転移させて……
完璧に模倣できなかったからどっか無くなったり崩れたりしたのか?
いや、たとえそれが起きたとしても原因は分からないはずだ。
みんな世界を転移させた事にも気づいていない様子だし……
「ラミアルアでの出来事……ん?」
あれ……?
最近じゃなくて来たばっかの時が原因か?
「もう一回衛兵に聞くか……」
そんな訳でもう一度衛兵のところへ向かう。
いやはや二度手間だな。
「あの、もう一ついいですか?」
「ん? あぁどうした?」
「なんでその手配書の人は手配されて?」
衛兵は顎に手を当てながら、感慨深く頭を上に向ける。
「確か、姫様をさらって、観光地の山を一つ消し飛ばしたとか……極悪人だな。話だけ聞けば」
「……お、おっふ」
「それで? 役に立ったか?」
「あ、はい。改めてありがとうごさいます」
俺はその話を聞いてから、路地裏へと少しはや歩きで行く。
さてさて、これはどうしたものか……
手配されちゃってるよ、おい。
これはデメリットかなぁ……いや、まだデメリットと考えるには早い。
まず、俺の目標を考えるんだ。
俺が今したいことは、リアたちに会うということだ。
リアたちに会うためにすべき事は……
うーーん
目立つ……かな?
あれ、よく考えたらまずリアたちは俺の事どう思ってるのかな?
死んだと思われてたりして
ありえる。
まぁ結局死んだと思われてても、思われてなくても目立たないと見つけてもらえないか……
こっちはもう魔術が使えないんだ。
こちらから探すのは限度がある。
で、次はなんだ?
目立つためにしないといけないことか……
するべき事……こと……
あ、さっきの手配書。俺が手配されてるって事は捕まったらそれもどこかに張り出されるよな。
ならっ
「あのぉ、もう一度いいですか?」
「……またお前か、次はなんだ?」
「その手配書の神野亮太って俺です」
「ふむふむ……ん?」
「……」
「……」
少しの沈黙、のち彼は行動を起こす。
「か、確保……」
そういいながら、木で作られた手錠をがチャリとかけてもらった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暗い。ひたすらに暗い。
灯りは松明が掛けられているだけで、それ以外は特になし。
どこからか水の音がポタポタとしている事から、恐らく地下水道の近くか、普通に雨漏りしているのだろう。
「これが牢屋というものか……」
神野亮太、牢屋生活1日目。
その現状に始めは心踊ったが、正直そんな余裕は来て10分程で終わってしまった。
だって牢屋だぜ、テンションあがんじゃん。
だいたいの主人公が経験しているんだ。
入ってみたいと思うのが人情《亮太に限る》だ。
「だが実際は……」
すっげぇぇえ怖い!!!
ぜってぇお化けでるっておいっ!!
がぁぁあ、魔術使えたらまだ自信が持てたが、今は完全に一般人なんだ!
竜人でもなしにっ、こんなところに長居したくない!!
「あぁ、孤独だ……暇だ……」
なにより暇だ。
とても暇で、一人だ。
日本の牢屋もこんな感じだったら自殺者続出だよ。
やってらんねーよ。
「……いや! でもこれでだれか来てくれるはずだ!! リアでもラミアでも、エルタや師匠なんて転移できるんだ。すぐこんな牢屋からもおさらばさっ!!」
がんっ!!
と、隣の牢屋から壁越しに音がなる。
「うっせぇーぞ……黙ってろ」
「は、はぃぃ……すみません……」
お、おこられちゃったぁぁ
うぅ、怖いよー。
ダメだ。昔の感じに戻っては……
女性に脅されて、怖っ、と思うのはやめろ。
やめる。やめるが言い返さないよ?
じょ、女性には優しくしないとね。ね?
と、そんな、隣の人女性なんだと静かに思いながら三角座りをする俺……
あぁ……早く会いたいな……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コツコツと牢屋に音が反響する。
俺は、半開きの目を擦りながら、倒れた三角座りから立ち上がる。
「んっ……俺寝てたのか……」
いつの間にか俺は意識を落としていたらしい。
あー……そういえば今何時なんだろう?
時間をいちいち数える余裕などない。
……これが噂に聞く時差ボケというやつか
うん。なんか違うな。
「はぁ……」
「あなたがカミノリョウタ?」
凛とした声が鉄格子の先からする。
ん、と思い見てみると、つり目赤髪の少女が立っていた。
「……ら、ラミア?」
「違うわよ」
う、うん。
口調も目元も全然違う。
赤髪しか共通点がないのに……あれ?
「ど、どこかで会いましたっけ?」
「……あ? どの口でいってんの?」
「ひ、ひぇぇぇえ!?」
こ、怖いっ
やはりここは悪魔の巣窟だ!
怖い人しかいないんだぁ!!
俺はおののきながら、仰け反る。
「はぁ、あのぶっとんだ魔術使ってたやつが、どうしてこんな簡単に捕まってるのよ?」
「……ぶっとんだ魔術?」
「山ぶっ壊した時よ!!」
「ひっ……」
や、山?
山……あ、あれか……いや、あれだ。
確かラミアと一緒におもいっきり跳んだとき。
あのときの……あのときのラミアのお姉さんか!
「もしかしてラミアのお姉さんですか?」
「そうよ、思い出した? で、なんで捕まったの?」
「……俺、実はもう魔術使えないんですよ」
「……お、おう。結構なカミングアウトね」
「そうですか?」
「そうよ。それって生活に必要な魔術すら使えないわけでしょ。……ねぇ?」
「あぁ」
つまりそういうことだ。
当たり前の事が出来ないやつに仕事はない。
魔術が出来ないやつは、役立たずの木偶のぼうの烙印を押されるに等しいのだ。
「んで、いろいろあって世界救ったんだけど……」
「は? 大丈夫? 頭?」
「あ、相変わらず俺の周りは辛辣なのはさておき……それで、なんだかんだラミア達とはぐれてしまいまして……」
「それと捕まる事になんの関係があるのよ?」
「目立ったら見つけてもらえるかなと」
「他力本願なのね……」
「そ、そこは言わないでください」
はぁ、なんで魔術使えなくなったんだろ?
いや、そりゃあこの世界に、復活するためって言うのはわかってるよ?
でも、理由がなぞだからなぁ
魔力使いすぎたからかな?
「で、あなたはこの1ヶ月でラミアとどういう旅をしたの?」
心配半分、好奇心半分の顔で、俺に質問を投げ掛ける。
うーん。
言っても大丈夫かな。
信じないかもしれないけど……いった方がいいか……
ラミアの姉だし、本当は旅の前から許可をもらうのが手順の筈だし……
「……まぁ、いろいろありましたが……簡潔に話しますよ?」
「うん。お願い」
そんな訳で、リアやラミア、エルタとの旅を簡潔に、分かりやすいか分からない感じで、俺は話を始めた。
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話を聞いたラミア姉は、感慨深そうに、頭を下げて考え込む。
その後、はぁ、と息をはいてから、言葉をはく。
「ふーん……まぁよかったわ。ラミアがついていったのがあなたで」
お、怒られなくてよかった。
だが、不思議な感想だ。どういう意味だ?
「?」
「ほら、もし良くない人だったら焼き殺してたかも知れないから」
「こ、こわいよ……」
「まぁ、ひどいわ。私はこんなにも麗しいお姫様なのに」
「ラミアから聞いてた話とは少し違うんだが……」
「どんな感じだったの? ラミアの中の私?」
「……詳しくは聞いてないけど、ちょくちょく出てくる話から……多分、完璧で優しい姉だったと思う」
「ぷふっ、ないない!!」
うん。今の姿見たら誰でも分かるよ。
ラミアさんや、あなたの目は節穴です。
まぁ、そんな感じで仲良くなれた訳ですわ。
どんな感じなんだ!!……だよ。
「……よし、決めた!!」
「ん?」
なんだなんだ?
「あんた家にいたらっ、ラミアも多分すぐ帰ってくると思うし」
「え? いいの?」
そ、それら願ったり叶ったりだが
いいんかい?
一応俺犯罪者だよ?
「うんっ、王家の特権ってやつよっ」
「あ、ありがとう……」
と、そんな訳で……
レッツ王城!!
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キラキラとシャンデリアが光る天井。
側面には、牢屋の松明とら天と地の差がある蝋燭。
規則正しく並んだ衛兵達は、整った、上質な装備をしている。いいなぁ、あの槍……
「ば、場違いだ。圧倒的場違いだぁ……」
「そう? まだ玄関よ?」
「え?」
俺の疑問は無視に、前に進む。
……あれから3日。
ラミアルア王国に帰ってきた。
まぁ俺は帰ったと言えるか分かりませんけどね?
「じゃあ……ラミアの部屋にでも行く?」
「えぇ、本人の許可なく行くのはダメでしょ」
「保護者がオッケー言ったらいいのよ」
「そういうもんか?」
「そうよ」
おぉ、なんという暴論。
彼女は衛兵になにかを聴きに行く。
こちょこちょ話なのでこちらにはあまり聞こえない。
が、驚いたのか少し大きな声をだす。
「え? ラミア帰ってるって?」
「え、えぇ」
「わかったわっ、この方と一緒にラミアの部屋にいくから……お父様に謝りに行くのはあなたがお願い」
「え、えぇ……え!? はいぃ!?」
「さ、行くわよ」
う、うわぁ
さらば衛兵、強く生きろよ
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あ、ラミアだ。
「……なんで…………」
ラミアがいた。
ベッドに倒れ伏し、ドアとは逆方向の壁を見つめて、なにかを呟いていた。
そんなラミアに怒気を含んだ声を
「ラーミーアーっ」
「っ、お、お姉ちゃ……え?」
「よ、よす」
俺はついで感覚で挨拶をする。
うん。俺はこれ(ついでで紹介される地味具合)ぐらいがちょうどいい。
でも、そう思っていたのは俺だけのようだった。
ラミアは俺を目にすると、すぐに近寄り。
「りょ、亮太さんだぁぁ!!!」
そう泣きながら、俺に抱きついてきた。
「ふ、ふぇっ」
あ、あれ?
逆じゃないかなっ、反応!
いつもはラミアが赤面してかわいい『ふぇ』じゃないですか!
なぜ男子が『ふぇ』を使っているんだ!!
「りょ、亮太さんっ。亮太さんだ!」
……うん。
ダメだな。
本当に駄目だ。
なに今さら誤魔化しているんだ。
本当に……本当に……
「ありがとう……ラミア」
「よかったぁぁああ」
本当に、生きてて良かった。
お、終わり方ってどうするんやぁ!!
あと、今回文字量多く(自分的)になってすみません。




