本当に変わらないといけない所
「死んだと思ったら白い部屋……」
既視感を感じる白い部屋。
何もない、リアが過ごしていたあの部屋。
「……なんか、懐かしいな……」
つい1ヶ月程前の事なのに
すごく昔に感じる。
……この言葉何回いってんだ?
「でもなんでこんな所に……?」
うーん。考えても仕方ない。
正直、皆のためなら死んでいいかなと、決意を固めた後にこれだから、凄く恥ずかしい。
死んでないじゃん。
あ、もしかしてこれが死後の世界?
てことはもしかして……
……はっ、初めから俺は死んでいたのか!?
衝撃の新事実。
あの世界は死後の世界だった説。
ヤバい。
え? 全部俺の妄想?
いやいやいやいやいや
そんなオチ誰も望んでないって!!
「……あー、なんかアホらしくなってきた。とりあえず周りの散策でもしようかな……」
散策といっても、ここは学校の教室ほどしかないわけだが……
「なーにーかーないのーかーーなーー!!」
棒読みで、大きな声を発しながら適当に歩く。
5分後
「本当に何もないな……」
はっきりいってこんなの数分で飽きるぞ。
よくこんな部屋で千年も過ごしてたな、俺なら心が折れて自殺してるぞ。
まぁそんなことなったことないからわからんけどね。
ん?
もしかして今からなん千年もここにいなきゃいけない感じ?
え? 嘘? マジ?
そう考えていると少しの危機感が芽生える。
「ど、どこかになにかないかー?なにかっ」
目を皿にして、ひたすらに何かしら解決するものがないかを探す。
すると、屈んだら見えるぐらいの高さに、小さな、人差し指程の覗き穴があった。
なっ……こ、これは!?
エロ漫画でよくあるあれではないか!?
よし、覗き込むとしよう。
へ? いや、別に下心とかないよ?
ただ今自分に出来ることはこれしかないなって思っただけだよ?
本当だよ?
ではさっそく
……へ?
そこで見たのは、18禁の展開などでは
断じてなかった。
日本だ。間違いなく。
だが、俺の知っている日本ではなかった。
古典や、物語でしかみたことのない、昔の日本の姿だった。
そんな日本に、一人の幼女がいた。
「………リアだ」
そこにはリアがいたのだ。
目元がくっきりしている"黒髪"の幼女だ。
だが、確かに外見はリアだった。
『私は……この世界から逃げます』
それは独白である。
周りには誰も居ない。
静謐な空気の中、社を背にしながら、彼女は一人語っている姿が見えた。
『こんな結末望んでなかたった……』
……なんだこれは?
何の事を彼女は言っているんだ……
俺が見ている景色の色が少しづつモノクロになっていく、そして、映像そのものが変わり、海岸に一人の少女が膝を落としている。
『なぜ父上は……この世界を救うために自分を犠牲にしてしまったのっ』
っ!?
な、なにを……
『そんな事をしてもっ、誰もすくわれないのに!!』
これは……俺に言っているのか?
なんなんだ?
これは……
再び景色がモノクロになり、景色そのものが変わる。
そこには、表情の落ちた、不気味で悲しい姿のリアがいた。
『私はこの世界に意味が見出だせない……だって……人が人の上に立つ世界なんて間違ってる』
そういいながら、リアは光の粒子になった。
……
それ以上映像は流れなかった。
ただ、俺の心には虚しい気持ちが渦巻いていた。
最後のはきっと、神になる理由か何かだったのだろう。
……だが、二つ目の景色
あれが心に刺さってしまった。
俺は自分勝手な気持ちで、生きてきた事に自覚を持っていた。
考え方はこの1ヶ月でどんどん変わっていった。
でも、最終的には皆のために死ぬという気持ちは変わらなかった
それに、それでもいいという気持ちでいた。
だって、一度吐露したが、俺は
……なんで……今なんだ……
もう終わった後でなんでこんなのを見せるんだよ
「……俺……普通に生きたかったな……」
なりたくなかった普通……
だが、この世界では違った。
俺はこの世界では普通に生きたいと思った。
思えた
……まぁ、気付くのが遅すぎた訳だが……
『お前はそれでいいのか?』
っ!!
虚空からの声にビクリと肩を揺らす。
始めに感じたのは違和感。
なぜこんな所に声がくるのか
まず、この声は誰の声なのか
そんな違和感。
だがそんな一瞬の逡巡の後、俺が思ったのは
「えっ!!もしかして戻れるの!!?」
そう、この流れは戻れる雰囲気である。
空気ぶち壊しの俺の台詞に声の主は面白そうに笑いながら返事をする。
「ははは、お前は見ていたのと少し違うな」
そしてその返事は、肉声として俺の耳に入ってきた。
目の前に現れたのは、金髪の美男子、口調と顔立ちが合わない青年だった。
「俺も時間がないんだ。話は簡潔に話す」
目の前男は、胡座をかき、こちらに向けて顎をしゃくる。
おそらくお前も座れという意味だろう。
俺も胡座をかき、相手は話を始める。
「後5分で、この空間はなくなる」
「うん、で?」
「なくなったら、お前は生き返る」
「よし!!きた!!」
俺のガッツポーズをとり、喜びを表現する。
完璧だ。完璧だな。
もしかして俺を中心に世界って回ってるんじゃね?
さいこーだな。
「生き返ったら、お前の力はなくなるけど」
「……え? なんで?」
おいおい、力なくなったら俺に価値なくなるじゃないか……
「それでも生き返るかい?」
「うん」
「即答か……面白い……」
そりゃ、リアのあの表情見ちまったらな
力という価値はどうでもいい
俺にリアの父親と同じ価値がリアにあるか分からないけど、少しでも可能性があるなら無くしたい。
「じゃあ5分の辛抱だな……」
5分後か……
なら、この人と少し話してみるか
「なぁ、あなたは何者なんだ?」
「お前と同じだよ、自分勝手な馬鹿だ」
「おい、初対面で人の事馬鹿って言うなよ……失礼だろ……事実だけども」
「……」
「……」
静かな時間が流れる。
うーん、話すことがない。
強いて言うならどこここ? な訳だが、ぶっちゃけどうでもいい。
ここがどこでも生き返れるならそれでいい。
あ、でも……
そういえば一つ気になる事がひとつあるな。
「あの穴なんなんだ?」
人差し指程のあの穴。
あれで俺の心は入れ替わった訳だが……
改めて思うが俺影響されやすすぎだな。
ついに唯一変わらなかった皆のために死ぬという思いさえ変わった。
それが変化が良いことかはまだわからないが……
これから学んでいこう。
て、今考えてどうするこんな大事な事
今はあの穴の事だ。
「あぁ、あれか? あれは俺が造った運命変換装置だ」
「は?」
俺の口から、気の抜けた声が出る。
なんだそれは……急にアホっぽくなったぞ
「簡単に説明すると、ある娘のために俺が千年程かけて、結界の穴を抜けて造った転移門」
「千年でこのサイズ?」
「そりゃ見せるもんが見せるもんだし……それにこの結界、気持ち悪いぐらい強固でな。世界の意思かと思ったぜ」
「その表現はよくわからんけども……て、見せるもんってなんなんだ?」
俺が見たのはリアの過去な訳だが
それ以外になにか見ることができるのか?
「まぁ、その人を変えるなにかが見えるんだよ」
「……人によって見るものが違うって事か」
「まぁ、そういうこった」
「作り方は?」
「お前はもう力が使えなくなるんだ。意味ないだろ?」
「あ、あぁ、そうだな」
確かにそうだ。
俺には力がもうなくなるんだ。
なら聞いてもしょうがない。
「……もうそろそろだな」
そう言いながら右膝に手を当て立ち上がる。
はぁ、この人最後までキャラと見た目が合わなかったなー
「最後に一言っ」
「ん?」
手を腰に当てて、伸びをしなが言う。
右手を腰から離して俺の胸に拳をあてながらニヤリと口元を曲げて俺に言葉を紡いだ。
「リアの事よろしくな」
それを言うと、彼は消え、部屋に白い亀裂が入る。
そんな中、俺は彼の言葉を頭の中で反芻させて、俺も一言返す。
「あぁ、承った……」
それは短い邂逅。
そして……おそらく、決意の邂逅だ。




