守るべき者
何者か(恐らく亮太達)が破壊した地面に出来た穴。
つまり、魔国へ無理矢理侵入したらしき穴下にて、マリンブルーの髪の幼女と無の神オリジンは相対していた。
「なんで俺様なんだよ? 昔会ったか?」
ぶっちゃけ俺様は覚えていない。
青い髪の知り合いなんて俺様はおらんっ
「……そりゃあな。でもな私は覚えてんだよ……ずっと憧れてきたっ、ずっとずっとずっと!!」
「で?」
「……私はあなたを取り戻す」
……は?
こいつはなんなんだ。
おせかっいな母親か?
俺様に母親はおらんが……
「勝手な事抜かしてんじゃねぇよ。俺様の事は俺様が決める」
「……ならなんであの時……なんであの時っ」
「あ?」
「いや、ここから先は拳で語るね」
急にキャラ戻すなよ。
分かりにくい。
「別にいいが、俺様も早く亮太に会いたいから……少々手荒にいくかもだぞ」
俺様は右手に力を入れ……
「なっ!!」
「はい終了……」
彼女の腹部に思い切り突き刺した。
……??
突き刺した感触がない……
「さすがは神様……でもあなたの姉ほど転移は上手くないね……」
「光の粒子……」
文字通り彼女は光の粒子となり、舞う。
そしてその粒子がある程度離れて形になる。
「私は聖霊……どんな現象をもってしてもころせない……どんなレベルの魔術をもってしてもころせない」
「ちっ、めんどくせい。なら……」
地面に手を当て、発動させる。
《地よ、空へ》
「……なにを?」
「どうせ効かないなら埋めて出てこれなくしようと」
「!?」
幼女の上には大量の岩石が生じていた。
その代わりに俺様地面は抉れている。
重力に従って、岩は幼女の元へと落ちていく。
「ビックリしたけどなんて事ない」
「……落ちた岩は本命じゃねぇよ」
「いつの間に!?」
俺様は幼女のすぐ隣で詠唱し
右ストレートをおみまいさせる。
「《邪魔する奴は、どっかいけぇええ!!》」
「ぐはっ!?」
その場から光の粒子となり、彼女の姿は消えた。
「はー、結局なんだったんだ? なんであんなに俺様にこだわって……」
「まだ終わってねぇええ!!!!」
俺様の上から幼女の踵落としが飛んでくる。
ギリギリで避け距離を取る。
「っ、なんでいるだよ。とばしたはずだが」
「あれぐらいの転移魔術なら私は介入できる」
「……」
……こいつまさか……
俺様の故郷出身者か?
神を生む土地から聖霊が……有り得る。
なら俺様がこいつを知らなくて、こいつが俺様を知っている理由も説明がつく。
聖霊は魔力が形に顕れた存在、魔力だったときにあった出来事も記憶している。
「お前……いや、まぁいいや……降参だ降参。俺様には倒せない。転移しても無理ならお手上げだ」
「……は?」
幼女ごすっとんきょうな声を出す。
「あ、あんな啖呵をきっといて?」
「あぁ、お手上げだ。俺様には転移しかないからな。それが無理ならもうしまいだ」
「…………から……」
「?」
「ぐっ!! だからお前は変わったって言ってんだよおおおお!!!」
「っ!?」
う、うるさっ!
なんだ、この声量。
マイクとか使わないとでねぇ声量だろ
「なんだよなんだよなんだよそれぇ!! なんでそんなに簡単に諦めるんだよ!! なんでそんな簡単に終わらせるんだよ!! なんでそんな簡単に決めるんだよ!!! なんで……なんであんな奴の言うことを……なんでなんでなんで!!!」
「……大丈夫か?」
「……大丈夫? なんでそんな言葉を……」
くそっ、こいつ面倒くさいな。
なんだ。なにが気に入らないんだ。
もっと明確に伝えてくれ
「結局お前はなにが気に入らないんだ?」
「…………」
幼女は沈黙する。
歯を食いしばり、のどの奥に溜めているものを、言葉を堪えるかのように。
だが……彼女は言う。
泣きそうになりながら……
「なんでお前が回りに気を使うんだよ……なんでお前はたかが人間の言いなりになるんだよ。なんでお前が……人を好きになるんだよ……」
「……っ」
「私はお前に憧れた。自分の故郷をあのドラゴンから救ってくれた。きっとあの時お前は自分の事しか考えず行動したと思う。でもだからこそ救えたものもある……そんなお前に憧れた」
「……」
「お前は……自分勝手で……自分勝手にみんなを痛めつけ、自分勝手に誰かを守る……そんな奴でしょっ」
「……勘違いしてんじゃねぇよ……」
「へ?」
私はドスの利いた威圧的な声を出す。
その辺りにある魔力を根刮ぎ集め収縮させる。
「俺様はな……好きに暴れて……好き勝手に暴れて……ただ自分の好きな事をして過ごす」
「そう、そういう人のはずっ」
「その結果、リアに封印された」
好き勝手暴れた結果、永遠とも感じる封印の中に俺様は居た。
正直、諦めていた。
何度も封印に挑戦して、挑戦して挑戦して挑戦して……でもダメだった。無理だった。
だから俺様はリアを恨んだ。
「ならその封印した奴を殺せよっ、それがあんたのはずだろ!!」
「でも……封印されて気付いた事がある」
「っ…………」
確かに恨んだ。憎んだ。
そして恐れた。
何度も彼女を殺す算段を考えた。考えずにはいられなかった。
年月が過ぎる度に、恨みは増した。
なんで俺様がっ
何回そう思ったことか
そして何百年と経った頃……
亮太があの封印という檻を壊した……
「自分でも不思議なんだけどさ……その時嬉かったんだよ」
本来なら、恨んだ者を壊すために動けるようになった。やったーっ
これが本来の道筋なんだろう
でもさ
でも……
「リアへの恨みより……その……何て言うかさ……亮太への感謝が上回って……出してくれた、ありがとうっていう想いが、勝ったんだよ」
「そ、そりゃその時はそう思っても、でも、また思う筈だっ、リアが憎いって、怖いって!!」
「はは、俺様もそう思ったんだどなぁ」
きっと俺様はにやにやとしているだろう。
今思い出しても……そう思う。
嬉しいって、ありがとうって
“あの時みたあの少年”が俺様を助けてくれたって
「……恨みが恨みが消えちゃったんだよ……ならわざわざ晴らす必要もないなって、そう感じたんだ」
「………」
「そんな事で、と思うかもしれない。でも俺様は……いや、俺はそれで救われたんだ。なら恩返しをしないとな」
「…………もう……もういい……」
諦めたように肩をおとす。
「私の憧れは死んじゃった……もういいよ」
「……?」
あれ?
おかしくないか?
彼女がここに来た理由は俺様の事が許せなかったから……だよな。
そうなんだよな。
でもなんだこの違和感……
……諦めるのが早すぎるからか?
いや……いやっ
「お前……なんでここに来たんだ?」
「……時間稼ぎ……」
「はい?」
「だから……目的は時間稼ぎだよ」
「……」
ど、どういう事だ……
時間稼ぎ? 何のために?
……俺様たちを亮太の所へ行かせないようにか?
ならなぜリアたちを見逃したんだ……
「なんでわざわざ……そんな事を?」
「上からの命令……」
「上?」
「オーディン様からの……」
「っ!? は? なんで!?」
オーディン、ランキング2位の神
マクスウェルの仇敵、雷の神
トールと魔力同化をしたと言われている。
「なんで……そんな奴が?」
「……この世界を壊すために……だって」
「壊す……」
くそ、全容が見えない。
いろんな疑問が出てくるが……
正直意味が分からない。
オーディンが世界を壊そうとしている?
大事件じゃないか、事実なら。
「それじゃあ……あ、そうだ」
「ん?」
「私はあなたを認めない……絶対に」
「……あぁ、分かった」
「じゃあ」
そう言うと彼女は光の粒子となり空へ消えた。
やっぱり、転移の加護ついてるんだな。
そりゃ転移効かんわ……俺様の天敵は俺様自身て事だな。
「あ、いたいたぁっ!!」
「……チャラ男、もうちょっと落ち着いて行動しろ、アホっぽいぞ」
「ん? あ、夢で会った奴等だ」
「チョリース」
イラってくるな。
てかキャラ変わりすぎだろ。
「なんでこっち居るんだ?」
「あなた様を守るためさっ」
「あ?」
「分かりやすく言うと……助けにきた、エルタ」
「は? なにから?」
「世界からさ……」
「……は?」
今日は疑問が絶えない一日だな。
俺様はそう思った。
「簡単に言うと……ある男がリアを守るためにお前を殺そうとしている。だからそれから守りにきた……」
「ある男?」
「……リアの祖父……マクスウェルからさ……」
「…………ふぅーー」
俺様は大きく息を吸い、お腹に力をいれる。
「今日は疑問の多い一日だなぁ!!!!」
心の底から、俺様はそう思う。




