第38話 それぞれの道程
うん、結局のところ仕方がないだろう。
俺が旅の始めにマラナに殺された事も、彼女達を突き放す事も俺には出来ない。
ただ、悲しませることだけは絶対にしないと俺は誓う。
だって……
「次にあんなヘタレな事起こしたらマジで土に還らせるからな……」
そう師匠に釘を刺されたんだから、仕方なくても次はないのだ。
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と、このあたりで気になった方もいるかもしれないが、俺はここで修行していた。
当たり前だ、このままの強さでいけるとは思えない。
いや、いけるだろという意見もあるかもしれないが、よく考えてみてくれ
神様二人と姫一人、この面子でなにも起きない方がビックリである。
だが、俺がいない間彼女達は大丈夫なのだろうか?
いろいろ心配だ。
ナンパされていないだろうか?
しっかりと王さまと交渉出来たのか?
ラミアはあの中で馴染めているのかな?
と、次々不安が出てくる。
でも仕方ない。どうせ俺は帰れないのだ。
ここは俺が居た国、カルマニア王国の真逆らしい。
つまり、転移するにしても、時間がかかるし、師匠も協力してくれないそうだし結局帰れないのだ。
くっそー、あの爺ぃ~
あ、爺で思い出したが、あれはマクスウェルというランキング1位の方だったらしい。
そりゃ勝てねーよ。
でも、師匠曰く弱点もあるらしい。教えてもらえなかったけど……
「おいっ、さっさと荷物持て弟子」
「あっ、ほいほい」
おっと、怒られてしまった。
今現在、家(仮)で整理した荷物を荷台に乗せている。やっぱり異世界らしく馬である。
ちょっと嬉しいぜ……
と、俺が荷物を荷台に入れてさっさと前に乗ろうとしたところ
「ちょっとまて」
と、ナラマ様に止められた。
ん?
どうしたんだ、可愛い幼女よ。
あ、声に出さないよ、彼女自身は幼女なのコンプレックスだから殺されるんだよねー
「どうしたんですか?」
「わたしはあなたのうえにのろう」
「えっ?」
ちょっとまて、可愛い幼女を膝に乗せてしまったらロリコン認定されるだろ、知らない赤の他人に。
「きさまにきょひけんはねー」
「あ、はい……」
「すなおでよろしい」
うんうん。
殺されたくないよね……
いやー、改めて思うよ……死ぬのって、怖いんだね……
おっと、そういう話じゃなかったか……
「で、始めにどの街にいくんですか?師匠」
「うーん、ま、簡単な所から行くのが定石だよな……よし、ならまず、魔国シャラルダにでも向かうか~」
「わかりました」
俺は了解と意思を見せつつガシャリと木で出来た馬車の前に乗る。
ポフっと俺の上にナラマ様が乗りふくよかな太ももが俺の太ももに当たる。
…………これは……ロリコン認定されても……仕方ないな……
いやいやいやいや、大丈夫。
アニメのキャラを思い浮かべろっ、平常心だっ、平常心っ。
…………ふーー
よし……もう大丈夫だ。
「おいっロリコン」
「はいっ!」
「自覚あるならさっさと行くぞ面倒くさい、お前は知らんかもしらんが……」
「はい?」
「この世界の馬はちょっと早いぞっ」
びゅんっっ!!
俺の頬から一瞬にして笑みがなくなる。
はやババババぁぁぁあああっ!!!
なんっだこれっ!?
絶対にジェットコースターより速いぞっ!!
どんな脚力してたらこんな速さにっ!
俺だってもっと遅いというのにっ!!
これは馬じゃねえええぇええっ!!
ーー30分後ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…………うぷっ……
「うぇっ……吐きそう…………」
「はー……りょうたはちょっとこころがよわい」
いやー、心とかの問題では無いと思うよ……これは仕方ない。酔いは生理現象なんだ。
と、いつの間にか周りにちょくちょく枯れている草になって来た。
竜の里は山脈で、岩石だらけだったから少し新鮮だ。
だって、こっちに来てからずっっーーーと岩ばっかだったから。荒野に洞窟、それに山脈。枯れた木は見たが、このような草を見るのは初めてである。
だからとても新鮮に見えたのだ。
すると、大分先だが、明らかに城ななにかがうっすろと見えてきた。
「おいおい……ちょっとでかくないか?」
「そうか? あ~、そうだな……確かにでかい、まぁそれだけだ」
「おいりょうた。もしもんすたーがきてもわたしにまかせろよっ」
頼もしいが、無い胸をはり、ムフッと鼻で言うナラマ。
そんな小さな事が、俺は少しそれが嬉しく思えた。
彼女はこのような自信があまりなかった。それに、世界に恐怖していた。
そりゃそうだな……だってずっと眠って起きたら何年後か分からないんだから。
怖がって当たり前だ。
なにも知らないんだから。
もしも俺が日本から遥か未来に行って誰も知らない世界になっていたら……
そう考えただけでゾッとする。
ま、彼女には俺が居たんだ。
まだマシだと言っていいだろう…………いや? 俺は頼りにならんだろ、だって俺もこの世界全然知らないし……
うん、とにかく仲間がいるのは頼もしい。
仲間という存在そのものが、人を救うんだ。
俺だって一人ならなにも出来ないまま、世界に呑み込まれていただろう。
流されて盗賊まがいの事や、殺人だって犯したかもしれない。
それをしなかった。いやできなかったのは仲間が居たからだ。
たとえ奇麗事と言われてもこの結論は変わらない。
「おっ、検問までもうすぐだ。お前らしっかりと準備しとけよ?」
「「おうっ!!」」
俺達は右手を天に上げ、彼女の言葉に同意を示すのだった。
だが、俺達は気づかなかった。
いや、彼の目的自体を軽視していたのだろう。
もうすぐそこに滅亡という結末が待っていたのに……
ーーーマクスウェルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
よし、やはり彼はあの都市に向かったか……
まぁ確かにあの都市の主は強くとも、あの街は実に脆い。
正解と言っても過言では無い。
まぁ、この選択によって君達はこの世界から消えるわけだけど。
それでも仕方ない。
彼女、いや……もう一人の孫を救うためなのだから……
たとえ孫の心が壊れようとも、この世界に存在するのならそれでいい。
私は言おう。
あえてここで宣言しておこう。
かの世界の生け贄として孫ではなく彼を選ぶと……
ーーー精霊、聖霊・サイドーーーーーーーーーーーーー
「なーなー、そういえばなんでこの国に来たんだ?」
「それはあれだろ? お前がこの国は危険だって言ったからだろ? 俺達の計画に」
髪の毛が水色、いや、マリンブルーの方が近い、ろりっ子が褐色の青年に話しかける。
彼らは今、精霊特有の浮游で、雲の上を超速で移動していた。
「はー……そうだったか……」
「ははっ、やっぱり記憶力という部類でイフリートに取られたな~?」
超速で移動しながら、胡座をかき話し掛ける。
それにムッとした表情で幼女は答えを返す。
「うるさい、姉はなに考えているのか分からない……」
「まーそう言うなよ、あいつだって俺らが消え去る結末なんて願ってねーよ」
テキトーなのか真面目なのか分からないトーンで、褐色の青年は最後に
「なっ? オーディン……」
虚空の空にそう問い掛けたのだった。
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