第35話 もう一人の主人公
こんにちは、私の事はしがない爺いとでも覚えてはおいてくれ。
いきなりだが、私の転移は特種なものだ。
そう特殊ではなく特種、それはまず普通の転移とは異質な物質であるからだ。
普通の転移とは――
距離により魔力を使う魔術。
又は他のものに肩代わりさせる。
特種な転移とは――
まず魔術ではない。
魔法だ。世界の法、つまりは無理に転移させそこにはあった物質に上書きできる。
例えば、相手の心臓に転移させれば……相手は死ぬ。
が、一つの制約がある。いや、その制約が無ければこの魔法は使えない。
それは時間だ。
魔力や法を越える代わりに時を使わなければならない。
故にこの国の真逆にそびえ立つ山脈、王竜の山脈にある村近くの迷宮に転移させ…………
ながいっ
つまり、
彼……亮太が居なくなってから約3日がたった。
ーーーオリジン・サイドーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いないいないいないいないいないいないいないないいないいないいない」
ぶつぶつぶつ……
こ、こえっっ!!?
何だこの生き物っ、人間!? いや、神だったっ
そこじゃねーよっ!!
怖いっ、恐いっ
ゼウスこえーーーーーっ!!!
亮太が居なくなってから3日間。
1日目は戸惑い。
2日目は幻視。
3日目は現在のこの姿でお分かりだろう。
今の場所は王城の中だ。
様々な装飾品が目を引く、きらびやかな部屋である。
本棚にはこの国の歴史書が並んである。
一通り見たが別段面白くもなかった。
ただ、水龍の本は少し気になった。
昔の話だが、俺様は何度か水龍と闘った。
その名はゲルマ。
俺様と同じ位の強さだ。
おそらくそいつのことだろう。
そいつがこの辺りを住みかにしだしたらしい。
そして、そいつは亮太に聞いた幻のモンスターと同じだろう。
そこが疑問だ。
なぜなら彼には心があった。
この国の重鎮がさせているにしても、彼の意思でしているにしても、明らかにおかしい。
彼は“守る側”なのだから……
……
…………?
「ゼウス? 静かだな?」
ちら、と恐怖とともに横を見ると、高級な椅子に座って、呪詛を唱えていたゼウスは消えていた。
「は、はぁっ!?」
なんでっ?
まさか探しに?
亮太を?
…………
えーーー
「探しにいくか……」
何故か本来ライバルのはずの俺様が、ゼウスを探しにいくのだった。
ーーーラミア・サイドーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
はーー
私は今、意気消沈している。
王への謁見は滞りなく終り、次に目指す国も決まった。
く
そんななか、約一名、行方不明でございます。
リアさんは発狂してるし
エルタさんとはあんまし喋んないし
どうすればいいのか分からない。
こういう時亮太さんがいてくれれば……
いつもは普通の言動ばっかで、戦うこと以外なにも有益なことをしていないような感じだが、全くもって以外……物凄く大黒柱として役にたっていた。
リアさんなんてもっての他だ。
かくいう私も亮太さんが……うん、す、す、す…………き……
っ!?
だ、だと思うっ
まぁ、そんわけで私たちは亮太さんを置いていく事はできない。
だが、居なくなってからもう3日、この国にいないのは確かだといっていい。
昨日は私とエルタさんで、この国をくまなく探したが、彼の影すらなかった。
噂一つなく消えたのだ。
亮太さんは謙遜しまくっているが、彼の強さは別格だ。
無詠唱の最強魔術なんて聞いたことも無い。
恐らく神話でも限られたものしか出来ない芸当だろう。
そんな強さを持つ彼が誰かに拐われるとは思えない。
だが、それでももうそろそろ認めるべきか……
可能性は2つ
―私達との冒険に嫌気がさした。
―誰かに拐われた。
………………
うぅ~、後者だとおもいたいっ
と、そうじゃない。
れ、冷静にいこう。
私も何か役に立たなければいけない。
こんなときこそ、まとめ役が必要だ。
私がっ、私ができればいいな、
そう思っている。
だが、どうすればいい?
「は~、私も王の器っていうのとかあるのかな……」
私の呟きは、宿屋の壁に静かに消えたのだった。
ーーーーリア・サイドーーーーーーーーーーーー
「いない……」
本日何度目になるのか……
そんな言葉を今日はひたすら繰り返す。
始めはまだマシだった。
大丈夫、こんなことは2回程あったじゃないか……
もう一度帰ってくるさ
不安は消えなかったけれど、それでもまだマシだった。
2日目は本気で会いたいと思った。
ナンパを普通にされて、助けられた。
亮太さんではない人に……
それで私は落胆してしまった。
そんな自分が嫌になる。
こんなとき彼なら助けてくれる。
どんなどん底にいてもきっと。
私の心を潤してくれる。
そんなとき彼の声がした。
気のせいだった。
3日目はただただ彼が居ないことへの疑問で埋め尽くされた。
何故、何故何故何故何故何故……
そんな言葉と、居ないという不安と不満に苛まれた。
どれだけ願っても彼は来ない。
そんな事に気付いた時……ふと私の頬に涙が、流れた。
―ふざけてるのか……まだ3日じゃないか?
ふと心に声が灯る。
―愛に時間なんて関係ない。
それに私は答えを示す。
―3日も我慢できないなんて、それは愛なのか?
―愛に決まっている。だって、だってこれだけ彼を想っているなら……
―我慢する事もそれは愛。そうは思わないのか? 相手の事を考えない行動は愛じゃないんじゃないか?
―それは……それはっ
それに私は答えられない。
だって、確かに間違っていないのだから
私のこれはエゴなんじゃないか?
亮太は嫌なんじゃないか?
私のこれは愛ではない?
愛ってなんだ?
エゴってなんだ?
私は彼を……愛しているのか?
その問いに答えはなく。私の心の中に波紋のように広がっていった。
ーーー???ーーーーーーーーーーーーーーーーー
この物語には一つ、決定的に欠けているものがある。
敵……
この物語には敵が居ない。
あの精霊が敵?
あの神が敵?
それは違う。彼女らは敵でも無ければ味方でもない。
ただのモブキャラだ。
あーあぁ、確かに関係しているとも。
だが、それは敵ではない。
人も神も精霊も聖霊も悪魔も魔人も、心あるものは敵にはならない。
確かに意志の相違はある、それに目的も違うし“手段”も違う。
だが、心は一つ。
誰かを守る。自分の存在意義。力を示す。世界最強。王になる。
様々な目的はある、彼等の手段も違う。
だがそれらはある一つに収束し、ただ一人の目的へと変わる。
故に我はもの申す。
そんな結末間違っている、と
未来が変わらないなんてつまらない。
常に不可思議で不可測なのだ。
なのでまずその一手として、可視の龍を……二手目として不可視の歩を打った。
“彼女”がここにいるのは誰も知らない。
一歩ずつあのものへと近づいているが、それに気づくものは誰もいな―あ、いや、一人だけいた。
本人と私以外にもう一人、彼が……
そう、この世界に一人の私が打った龍……竜神が……
この一手が、あのものへの、圧倒的強者への新手となるだろう。
そう思い我は人間界へと降りるのだった。
ーーーー歩・サイドーーーーーーーーーーーー
私の名前は霧乃歩、何て事のない普通の高校生だ。
成績は少し悪いが、それを除いてもやはり普通。
小学生の時は可もなく不可もなく。
中学生の時は道に外れる事なく、好きな人も別にできず、噂されることさえなかった。
そんな普通が私はコンプレックスだ。
そんな私にも誇れるものがある。
ライトノベルを知る量。
ま、上には上がいると思うが、それでも自分は一線を画すレベルだとは思う。
さてさて、私が何故にこんな当たり前の現状確認を行っているかというと……
「おいっ! じゃまだっ!」
「どこみてんだっ!」
「あっ、もうやめてくださいっ!」
横行な声が、道路? ストリート? いや二つは同じだ。に響く。
あるものはうさみみを携え。あるものは肌色がまず紫の者。あるものは耳が尖り、エメラルドの髪をたなびかせ。
だが、どの者も血気盛んに物の売り買い、持ち運びに精を出している(下ネタじゃないよっ)。
どうなってんだ……これ?
つい男っぽい感じになったが、正直脳の処理が追い付かない。
……
空は黒く塗りつぶされているが、人々は怒声をあげているが、それらの人の顔は笑顔一色だった。
これから起こることを心待ちにしている、そんな感じの表情だ。
いや、表情だ。じゃねぇよ。
なんだ、これ?
家族との旅行は?
私、死んだんじゃないの?
「? あれ? みんな私の事見てないし、通り抜けてない?」
…………
ふーー
…………
や・ば・い
「っ!?」
ええぇええええぇーーっ!!!!
なんでやねんっ!!
どうなってんの?
はっ! あれか、私がおもろくもない下ネタを心の中でツボってたからかっ!
ちがうっ、そうじゃないっ!
なんども言うがそうじゃないっ!
ふーーー
だが、私はそれと同時に喜びを噛み締めていた。
確かに焦った。
体は透けて、声も聞こえていないようだ。
だが、私は他の人には無い特別な能力を得たわけである。
それは、なんとも言えない喜びで……
「よしっ! 私はこの世界で、この物語で特別な人間になってやるっ!!」
そう、誰にも、そう、世界にも聞こえない私の声で確かに大きく叫んだのだった。
現在テスト期間中……
はっーー
部活動の展示が終わって、からのテスト……
なんともいえねー
次回は3日後
短めの話になるかもです。




