和国の章・その弐 キジの焼き鳥と芋酒
和国漫遊記では、日本の史実に出てくる事例や人物が登場しますが、『そこはおかしい』とか、『時系列が変だ』というツッコミはご勘弁下さい。
あくまでも地球を管理している神様の作った、地球に似た異世界という考えでお願いします。
大隅国・霧島。
現在は15代・霧島貴久が治める国。
左右を薩摩と日向、北を肥後によって囲まれた、豊かな土地を持つ小国である。
西海道と呼ばれる地域の外れにあり、尾張の織田の勢力の届かない土地である為か、この戦国の世ではかなり多くの人々が流れ着いている土地でもある。
「す、凄い‥‥」
霧島に辿り着いたストームの第一声がこれである。
具体的にどのようなものかと考えても、形容できないほど人が賑わっている。
「よく時代劇とかで江戸の町の華やかなシーンを何度か見るけど、これはそれ以上じゃないか」
周りをキョロキョロと見渡しながら、ストームは取り敢えず宿を探す。
街道沿いになる為か、彼方此方で呼び込みが通りを歩いている人々に声を掛けている。
その中から看板に商人ギルドの発行した印のある宿を見つけると、とりあえずそこに入って行く。
「おや、お侍さんいらっしゃい。素泊まりかい?」
「いや、飯も付けてくれないか。一晩いくらだ?」
「八匁銀だよ。銀貨なら五枚で」
手数料高いっ!!
と思いながらも、まあいいかと銀貨で支払いを済ませる。
「おや、お侍さんは冒険者かい。侍で冒険者って珍しいなぁ」
「そうなのか?」
「だって、侍になれるんだったら士官の道はあるだろうし。士官できなかった浪人が冒険者になるのはよくある話だけどね」
「はははっ。違いないが、俺はウィル大陸の人間でね。この国に士官する気は無いんだよ」
「へぇ〜。そういうものなのかなぁ。士官した方が生活は安定するしねぇ。ま、西海道から外は厳しいから、ここならそれでもいいのかもね」
と他愛もない世間話をしながら部屋に案内してもらうと、少しの間体を休める。
「しっかし陽射しがきついのなぁ。涼しくなる夕方まで一休みだな」
ゴロンと部屋の真ん中で大の字になって転がると、疲れがたまっていたのかス――ッと昼寝を始めた。
――夕刻
「やっぱり宿場町とは違うかぁ」
と昼寝から覚めたストームは散歩がてら外をフラつく。
街道の途中にある宿場町とは、やはり規模も住んでいる人も違う。
長屋町もあれば艶街もある。
商人たちは街道沿いに店舗を構えているが、本店は中町と言う町の中心地に集まっているらしい。
面白がって彼方此方を歩いている内に、気が付くと道に迷っている事に気が付いた。
「あ、あれ? ここで曲がった筈だよなぁ。確か角に蕎麦屋があって、後で寄ろうと思ったのに‥‥」
今、目の前の角にあるのは焼き鳥屋である。
――ジュゥゥゥゥッ
炭で焼かれた鳥から溢れる肉汁が煙となって流れてくる。
タレを潜らせた焼き鳥か焼台に乗せられると、滴るタレが焦げて更に美味そうな匂いを放つ。
――ゴクリ
とストームの喉がなる。
「ま、まずは腹ごしらえだな」
フラフラと引き込まれるように中に入ると、適当に空いている席に座る。
「おや、お侍さんはここらで見ない人だね。何を焼くかい?」
と人懐っこい笑顔で話しかけてくる女性店員が奥からやってくる。
「一本幾らだ?」
「一本20文だよ。キジ、ウズラ、スズメ、カモ、何でもあるよ」
「なら一通り頼む。塩とタレとな」
「塩?」
頭を捻る店員。
「あ、タレで。塩コショウなんてまだないか」
「焼き鳥はタレと相場が決まっているだろう?塩なんて臭みが取れないからダメだよ。お父さん、一通りお願いね」
『はいよー』
と奥から声がする。
暫くすると奥の方から肉の焼ける香ばしい香りが漂ってきた。
『焼き鳥は煙と臭いで売れ』とはよく言ったものだ。
「はいよー、お待たせ」
それ程掛からずに、皿に盛り付けられた焼き鳥がストームの前に置かれる。
「酒は飲まないのかい?」
「うーん。冷やで一本頼む」
「はいよー」
急ぎお銚子が目の前に置かれると、まずは一杯。
――グビッ
と喉に流し込む。
「甘いっ、それに濃いっ!!」
と驚くストーム。
淡麗辛口が好きなのだが、濃い味わいの酒も好き。
だが、これはそれよりも甘く濃い。
「何言ってんだい。酒は濃くて甘いのが当たり前じゃないか?」
と笑っている店員だが。
「茜や、多分お侍さんの言う酒は芋酒だよ」
「あ、そうか、お客さん、こっちかな?」
茜と呼ばれた店員が、慌てて別の酒を持ってきた。
恐らくは娘さんなのだろうと思いつつ、持って来た酒をじっと見る。
「こ、これも甘いのか?」
流石のストームも引く。
「そんな事あるかい。芋で作った酒だよっ」
その娘さんの言葉を信じて、恐る恐る口をつける。
先程の酒とは違い、こちらは酒精がきつい。
そして芋の香りが広がる。
「あー、芋焼酎か、これは」
ようやく納得したので、落ち着いて焼き鳥を口に運ぶ。
最初に広がるのは醤油と砂糖で作ったのだろう甘塩っぱい味。
シャクッと歯触りのよい肉からは、溢れんばかりの肉汁が口の中に広がった。
――グビッ
と芋酒を喉に流し込むと口の中に広がっていた先程までの味わいが、綺麗さっぱりと流されていく。
「こ、これは凄いなぁ‥‥」
次々と焼き鳥を頬張り酒を飲む。
時折少しだけ甘くて濃い酒をちびりと飲むと、また焼き鳥と芋酒に戻る。
気がつくと焼き鳥は全て無くなり、芋酒も空になっていた。
「芋酒をもう一つ。後、焼き鳥も、同じだけ頼みます」
「はいはい。お父さん同じの追加でねー」
『はいよー』
奥からは威勢のいい声が聞こえる。
「しっかし、こっちの酒の方が美味しいのにねぇ。そんじょそこらで売っている水で薄めた薄い酒とは違うのに」
と娘さんが笑っているので、ようやくストームも思い出した。
昔の酒は濃くて甘いのが当たり前。
酒屋がそれを水で薄めて売っていたのである。
古い記録では、造り酒屋から町の酒屋に卸された量の、二倍から三倍の量の酒が市井には流通していたのだから、正に水増しとはよく言ったものだ。
暫くして、奥からまた焼き鳥の程よく香ばしい香りが漂って来た時。
――スッ
突然四人ほどの浪人風の男達が店内に入ってくると、近くの席にドカッと座る。
「親父、集金に来たぞ」
「今日が約束の期日だからな。貸した金と金利合わせて200両、全て払って貰おうか?」
と声高く叫ぶ。
――ガタガタッ
奥から親父さんらしい初老の男性から飛び出してくると、男達の前で頭を下げる。
「ま、待ってくれ。幾ら何でもあの金利は酷すぎるじゃないか。最初に書いた証文は10両だった筈。全然違うじゃないか?」
「そんなの親父の見間違いじゃなかったのか? さあ、払えねえならここの権利書を寄越しなよっ!!」
――ドンガラガッシャーン
と勢いよく卓を蹴り飛ばす。
慌てて親父さんも後ろに走るが、男達はその姿を見て笑っているだけである。
「あー、これも時代劇で見たなぁ。本当に見ると凄いな」
「何だお前は。関係ないだろう?とっとと出て行けや。もう閉店なんだよ」
とストームの前の卓も横に蹴る。
――ガーン
と卓が壁にぶつかり壊れたのと、蹴った男の顔面にストームの拳がめり込むのがほぼ同時であった。
――ゴボッ
そのまま声もあげずに膝から落ちる男。
「き、貴様、俺たちを誰だと思っていやがる、逆らうなら容赦しないぞ」
と各々が懐から短刀を取り出すとストームに向かって構えたが。
――ドゴツ
一人の男は構える前に、ストームが間合いを詰めて腹に膝を入れた。
「まだ俺が飯食っている最中だろうが。折角楽しんていた時間を邪魔した貴様らは、万死に値するっ」
と、足元に転がっている二人の襟首をつかんで持ち上げると、店の外に放り出す。
「そこのお前達もだ。まず卓を直せ、椅子もだ」
「この‥や‥ろ‥」
と短刀を振りかざした浪人を睨み付けると、すぐさま目線で『威圧』を叩き込む。
睨まれた浪人は、ガクガクと震えると短刀を懐に戻し、卓を直し始めた。
「馬鹿野郎、こんな奴に舐められるんじゃねーよっ。卓を直せとか言うのなら、外に出やがれっ、お前もだっ」
と卓を直した浪人を外に蹴り出すと、最後の男が外に出る。
「親父さん、まだ焼けない?」
「は、はあ、もう少しで‥‥」
「ならちょっと外で遊んでくるか」
とストームは外に出る。
放り出された浪人達も意識を取り戻したのか、ストームに向かって身構えていた。
「へっ。威勢が良いのも今の内だ。やっちまえ!!」
とリーダーらしき浪人が叫ぶと、三人の男は短刀を構え直して振り上げてくる。
周りには野次馬が遠巻きに集まり、この喧嘩を眺めている。
――カチッ
と刀を引き抜くと、まずは一人に向かって身構える。
「正当防衛が効くかどうか分からんが、一度死ぬか?
マチュアがいないから蘇生してもらえないし、俺はまだ蘇生の成功率低いぞ?」
と笑いながら説明する、
当然がら、訳の判らない事を話しているストームに耳を傾ける事なく斬りかかる浪人達だが、全ていとも簡単に弾き飛ばされていく。
まるでストームを中心に、浪人達が踊っているかのような体捌きをストームは披露していた。
周りはヤンヤとはしゃぎ立て、浪人達は焦って的を外す。
だが。
――キャァァァァァッ
突然店から声がすると、浪人の一人が茜を捕まえていた。
「この女が傷物にされたくなければ‥‥奴はどこだ?」
茜が捕まえられてきたのを見た瞬間に、その浪人の背後に『縮地』で回り込むと、首筋に手刀を叩き込む。
――ガクッ
と意識を失う浪人は無視して、茜を店に走らせる。
「もう、面倒臭いから終わらせるか」
刀を鞘に収めると、ゴキゴキッと指を鳴らす。
そこから先は、ストームの一方的な蹂躙である。
素早く間合いを詰めてからの当て身を三人分。
周囲で見ていた者達には、何が起こったのか分からなかっただろう。
ただ、気が付くとストームが倒れている四人を壁により掛からせているのである。
――パンパン
と手を叩きながら、人混みを掻き分けて同心達がやって来た。
「何だ?喧嘩と聞いて来たが、一方的に神田屋の若いのがのされているだけじゃないか?」
「さて、何があったのか奉行所で話してもらえるかな?」
とストームに話しかけるが。
「まだ飯の最中でね。それが終わってからでいいか?」
――プッ
と同心達が笑う。
「ああ、なら俺たちも晩飯とするか。おい、こいつらは牢にでもぶち込んでおいてくれ」
傍にいた与力に指示を飛ばすと、同心達も店内に入って来た。
「これで適当に頼むよ。3人分な」
同心たちは二分銀を一枚置く。
それを受け取ると、茜はコクコクと頷いて慌てて奥に走る。
やがてストームの分が焼けたので、芋酒と一緒に持ってくると、ストームはそれを楽しそうに早速食べ始める。
「待ってました。これだよこれ。人工調味料も添加物もない。最高じゃないか」
――ハフハフ‥‥モグッ
実に美味そうに食べるストーム。
「なあ、あんたは侍か? 冒険者か?」
と同心の一人がストームに話しかけたので。
「ん?冒険者だが。ほら」
とギルドカードを手渡してみせる。
「ほう?Bかと思ったらSSか、初めて見たな」
――ガタッ
とストームご慌てて立ち上がる。
「なっ、それが分かるのかよ!!」
「ん?あ、ああ。ウィル大陸の人は銀と白銀の違いは見てもわからんだろうが、俺たち同心は『真実眼』という力を待っている者がいてな。俺もその一人だ‥‥心配するな、他には言わないよ」
そう告げて、ギルドカードをストームに戻す。
「まあ、知られても困る事はないか」
「そうだな。で、面倒だからここで話をさせて貰うか。あいつらがここで暴れたから叩き出したで合ってるか?」
丁度届いた酒と焼き鳥を食べながら、同心の一人が問いかける。
「ああ、合ってるな」
「そうか。ならお咎めなしだ。のんびりと冒険を楽しんでくれ」
「それだけか?」
「高利貸しの神田屋の若いのがロクでもない事は周知の事実だからな。見ていた奴らも清々しただろうさ。ただ、神田屋はまたここに来るだろうし、近い内にここは売り飛ばされるか神田屋が商売を始める。状況は変わらんよ」
やれやれといしう感じで告げると、また酒を飲む同心。
「騙された奴が悪いと?」
「そうは言わないよ。証文があいつの手にある限りは、ここのように困り果てる人が多いってだけだ。神田屋から金を借りている同心もいるから気をつけなよ」
――ジャラッ
と支払いをテーブルに置いて立ち上がるストーム。
「ありがたいご忠告どうも。ついでに神田屋の場所も教えて貰うと助かるんだけどな」
「この先の川向こうの店舗だよ。その奥が神田屋の屋敷だ。さっきみたいなゴロツキが近所を徘徊しているから気をつけなよ」
背中で忠告を聞きながら、ストームは店から出る。
「お、お客さん‥‥」
と茜が店から出てくるが、ストームは手を上げて立ち去る。
「はっはっはっ。看板娘の茜も、とうとう惚れた相手が出来たか」
「あれはお礼を言いたかったんだろうな」
「まあ、茜も年頃だからな」
と店に戻って来た茜をからかう同心だが。
「お勘定、三文足りなくて‥‥」
――ドワーッハッハッハッ
「こっちで払うから心配するな」
と同心たちは笑っていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
日もすっかり暮れ、通りからは人の姿も消えた。
街道沿いまで戻れば酒場や艶街も多く人で賑わっているだろうが、いまストームがいるのは商人の大店が並ぶ中町。
日が暮れると表戸を閉じて閉店となるため、既に人気は無くなっている。
――コソコソッ
そーっと神田屋の前までやってくると、取り敢えず布で顔を覆うストーム。
「このまま忍び込めれば良いのだがなぁ。エンジみたいなクラス持っとらんし、どうしたものかなぁ」
取り敢えずウィンドウを開いて、変更可能なクラスを調べる。
『先導者』『僧侶』『精霊師』『権力者』
「ふむ。知らんものが増えとるが?」
と権力者を調べるが、何のことはない王様専用スキルがあるのみ。
「空白がまだ一杯あるが、これは勉強しろだよなぁ〜と、精霊師? 精霊魔術師ではなく?」
こちらも知らない内に変化している。
どのタイミングで変化したのか、暫くはヴァンガード一本でやっていたので全くわからない。
「あー、これで行けるのかな?」
とサブを精霊師に切り替えると、手をくるっと回す。
「漆黒なる闇の精霊よ、我が身を包みたまえ」
宵闇の中に消えるストーム。
「エンジのように影に入るのではなく、闇と同化するのか。明るいところでは全く駄目だが、今は、これで行けるか」
――スッ
近くの窓を探してそこから侵入すると、暗い廊下を音もなく進む。
一通り神田屋の中を見て歩くと、どうやら証文などは店舗奥にある座敷を改造した土蔵のような場所の中だと思われた。
闇の中で土蔵の前にやってくる。
ウィル大陸の城などの宝物庫だと見張りや番兵が立っているものだが、中に誰も侵入しないだろうという前提で作った土蔵には、見張りも誰もいない。
「南蛮錠か。まあ、音を出さずに‥‥」
ムルキベルの籠手をつけて南蛮錠を掴むと、ムニムニと練り始める。
そしてプチっと千切ると、扉を静かに開けた。
――ギィィィィッ
それほど酷くない音がすると、ストームは土蔵の中に入り、そこにしまい込まれているものを物色する。
一つ一つの鍵付きの頑丈な木箱の鍵を練って千切ると、中をじっくりと確認する。
そうこうしているうちに、大量の証文が収められている箱を見つけた。
「あー、これかなぁ?」
一枚一枚を確認する時間がないので、取り敢えず空間に放り込む。
また暫く探していると、さらに厳重に鍵のかけられた箱も見つけることが出来たので、それも放り込む事にした。
「‥‥さて、それじゃあそろそろおいとましますか」
土蔵から外に出ると、南京錠だった金属の塊を適当に練り合わせて錠前のような形を作る。
それを固定すると、ストームは神田屋を後にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
そして翌日。
何とか宿に戻ってくると、ストームは昼まで眠っていた。
――グゥァァァッ
「‥‥自分の腹の虫で眼が覚めるとはなぁ‥‥もう昼かよ」
ゆっくりと体を起こすと、まずは先日捕まえた野盗の報奨金を貰うために霧島奉行所へと向かう事にした。
流石に昼間の街道筋は、積荷を運ぶ荷車などでごったがえしている。
それを横目に眺めながら、ストームは奉行所までやってきた。
「ここは関係者以外は出入り禁止だ。、何の用だ?」
門番に止められたので一言。
「冒険者のストームだ。蝮の一味の報奨金を貰いに来たが」
「あー、報告は受けている。どうぞこちらへ」
門番の一人に案内され、奉行所の中へと案内された。
中は何やら騒がしく、大勢の同心や与力が彼方此方で走り回っている。
「何か騒しいですなぁ。何かあったのですか?」
「ん?ああ。昨晩だが、神田屋に泥棒が入ったらしくてな。土蔵に保管していた金貸しの証文がごっそりと盗まれたらしい」
「へぇー。それは災難ですねぇ」
「まあ、暴利で金貸しをしていたものだから、神田屋から借りてたやつらはこれで支払う必要がないって喜んでいるよ。証文を偽造したり『紛失したから書き直せ』っていうのは御法度だからなぁ」
やがて奥の間へと到着すると、そこで帳面をつけている同心がストームを見る。
「身分を証明するものはありますか?」
「はい、ギルドカードで宜しければ」
と商人ギルドのカードを出して渡す。
「はい結構です。ようやく本人が来ましたか。朝から『ストームだ、報奨金を貰いに来た』って人が数人来てまして、騙りだと説教されて帰って行きましたよ」
――ジャラッ
と金貨の詰まった袋を受け取ると、それを背中のバックパックにしまい込む。
「あっちの大陸の人なら金貨で良いですよね?」
「それはもう。では失礼します」
「はいはい。お気をつけて」
そう事務的に挨拶をする同心に頭を下げて、ストームは奉行所を後にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
もうこの街には用事はない。
次の目的地である日向に向かいたいのだが、距離と時間が今ひとつ理解できていない。
商人ギルドで話を聞こうと思ったのだが、神田屋の件で何故か商人ギルドや冒険者ギルドが忙しそうであったので、取り敢えず他から情報を得る事にする。
「それにしても‥‥腹が‥‥減った」
ポン
ポン
ポヨヨヨヨーン
という事で、ストームは先日も訪れた焼き鳥屋に向かう事にした。
――ジュゥゥゥゥッ
と肉の焼けるいい香りが漂ってくる。
「席が空いているかな?」
そーっと暖簾を潜ると、どうにか席が一つだけ空いていた。
「いらっしゃい。あら、昨日のお侍さん。こちら空いてますよ」
「ああ、有難うね。しかし大盛況だね」
「ええ。なんでも神田屋さんに強盗が入ったらしくて、高利貸の証文が全て盗まれたらしいのですよ。さっきお役人さんがやって来て、うちの借金も帳消しになったって報告があったからお客さんも戻って来て」
「ふぅん。まあ、良かったな。焼き鳥を二皿と甘酒二つな」
と笑いながら席に着く。
暫し、この喧騒を愉しみながら、ちょっと遅めの朝食を摂る事にした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






