カナンの章・その6 攫われて売り飛ばされそうです
――ヒュウンッ
魔法の絨毯で快適な旅を満喫中のマチュア。
旅といっても、この前のように王城近くに飛んで行き、正門前でククルカン国王に謁見を求めるだけであったが。
「本日の謁見申し込みは終わりましたので、明日の朝にまだいらして下さい」
と冷静に告げる門番。
実に任務に忠実である。
「つまり、今日急ぐなら金を出せと?」
「そのような事は申しません、謁見を申し込むのは朝から正午の鐘までなのです」
ありゃ。
時間を過ぎていたのなら仕方がない。
「先程は大変失礼を。この街に来てからというものの、何かと賄賂を要求されたり、宿が荒らされたりと、散々なことがありまして」
と頭を下げて非礼を詫びる。
「国の騎士として、それは申し訳ありません。現在は国内の情勢が非常に不安定なもので」
「もし宜しければ、その辺りを色々とお伺いしたいのですが」
と告げると、騎士は静かに頷く。
「まあ、街の中ではもう噂になっているのですが、隣国カナンと戦争になるのかも知れないのですよ」
「それで戦争から逃れるために他国へと逃げようとする者達がいまして。それは構わないのですが、貴族たちも私財全てを持って他国へと逃げだす始末です」
そこまで告げると、騎士たちは持ち場へと戻っていった。
マチュアも頭を下げると、情報を得るために絨毯に乗って酒場へと向かう。
情報は酒場にあり。
絨毯をしまって大勢の人で賑わう店内に入ると、適当な席に座る。
「いらっしゃいませー。何かお飲みになりますか?」
「オレンジジュースと。あと適当に魚料理とパンを。銀貨五枚で足りる?」
「二枚で大丈夫ですよー。少々お待ちくださいねー」
と注文を終えると、暫し店内の喧騒を楽しむ。
冒険者が報酬の配分を行なっていたり、仕事帰りの人達がジョッキ片手に笑っていたり。
何処にでもある普通の酒場のようである。
――カチャッ
「お待たせしました。ここは海が近いので、魚のムニエルとオレンジジュース、あとはパンとスープをお持ちしました」
「ありがとねー」
と銀貨を三枚渡すと、ウェイトレスも笑って一言。
「オレンジジュースでしたら何杯でもお代わりどうぞ。追加は無料にしておきますので、どんどん飲んで下さいね」
と告げて去っていく。
久しぶりの魚料理をのんびりと食べて暫しくつろいでいると、近くに座っていた厳つい外見の男が近寄ってきた。
「あんたはこの辺りだと見ない顔だなぁ。冒険者かい?」
「私は商人ですよ。彼方此方を行商していましてね。そう言えば、この辺りはあまり治安が良くないって聞きましたけれど、何かあったのですか?」
と銀貨を五枚ほど握らせる。
が、男は二枚だけ受け取ると、残りはテーブルに積む。
「えーっと、エールとお嬢さんはオレンジジュースか?それをくれ」
「はいはーい」
と飲み物が運ばれてくる。
「それじゃあ頂くよ。これは払い過ぎだから下げてくれ。あまり多く払うんじゃない。何処で誰が見ているかわからないぞ」
と告げると、勝手に話を始める。
「この辺りは治安が悪いのは当たり前だ。新しく配属された自警団の団長は金と権力に弱いからな」
「そうなのですか?」
「騎士団もそうさ。街の中では騎士団員は好き勝手な事をしている。王城の騎士はそうでもないが、外は酷い有様さ」
エールをグイッと飲み干すと、男はもう一杯追加して話を続ける。
「以前はそうでもなかった。先代の騎士団長が南方遠征で負傷して引退したんだ。副騎士団長が代行で団長業務をしていたが、元老院のカバレロ公爵が新しい騎士団長を任命すると、それまで騎士団員だった者の殆どが解任され、新しくカバレロの息のかかった者達が騎士団に加わったんだ」
あまり周囲には聞かれたくないのだろう。
小さい声でそう告げている。
「それで?」
「新しい騎士団員や、その配下の自警団の奴らはガラが悪くてね。何かと賄賂を要求する。払わなければ無視されるか適当にあしらわれる。だから金さえ払えば盗賊だろうと見逃してもらえるのさ」
さて。
ここまで聞いて、マチュアは周囲から向けられている大量の視線に気がつく。
まるで値踏みでもされているような嫌な視線である。
「カナンと戦争になるっていうのを聞いたのですが、それは本当ですか?」
「ああ。元老院ではその審議をやっているらしいな。突然現れた魔導国家とかを、ククルカンの元老院は快く思っていない。カナンの地は元々は我々ククルカンの領地である、あの地下に存在する魔導王国の遺産は我々のものであるってね」
その言葉にマチュアは驚く。
まさか自国の地下にそのような遺跡があるとは思っていなかった。
「そ、そのような遺跡があるのですか?」
「そうでなくては魔導器が大量に表に出る事はないと元老院では話しているらしい。魔導器を作る技術なんて、遥か過去に失われているからなぁ」
カナン魔導王国の魔導器は発掘品と思われていた模様。
――チッ
あら残念。
「戦争の事は国王も了承しているのですかねぇ?」
「さあね。うちの国王は飾りでね。実効支配は元老院が行なっているからなぁ。カナン魔導王国と戦争するのにラマダ公国と手を組んだって言う噂もあるし、何より最近は、ラマダ公国から来た使者が王城に外部顧問とかで居座っているからなぁ」
もう一杯追加すると、近くの女性がピッチャーに入っているオレンジジュースを注いでくれた。
「何を難しい話をしているのよー。酒場なんだから楽しい話をしましょうよー」
――コポコポッ
とマチュアは注がれたオレンジジュースを飲むと、男ももう一杯エールを注文して話を続けた。
「まあ、俺からの話はこの程度だよ、これでいいかな?」
「有難うございました、おかげでこれからの仕事でも、色々と気をつけないとならない事も分かりましたので」
「そっか。俺はエースって言う、Aクラスの槍術士だ。何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ。そっちのねーちゃんもな」
近くに座っていたオレンジジュースを奢ってくれた女性にも挨拶をして、エースは酒場から出ていった。
――クラッ
暫くすると、突然目眩がした。
「あ、あら、あれれ……」
「やっと薬が効いたわね。あなたみたいな綺麗な子が欲しいって頼まれたのよ。ごめんなさいね」
ボソッと耳元で呟かれたが、いかんせん体の自由が効かない。
(あ、これはやばい。ファイズ、ゼクス、あとは頼む)
そこでマチュアは意識を失った。
……………
…………
………
……
…
――ゴトゴトッ
と体が何かにぶつかる。
周囲は薄暗く、人の気配を感じる。
すすり泣きのようなものも聞こえて来たので、頭を振りながら周囲を見渡す。
「こ、ここは?」
と周囲に聞こえるように呟くと、近くで座っていたらしい女性が話しかけて来た。
「お嬢ちゃんもようやく起きたかい。ここは船の中さ。此処に乗っている皆んな、人買いに攫われちゃったのよ」
ようやく目が慣れてくる。
船の船倉に作られた牢のような場所。
逃げられないように両手両足には枷が嵌められ、首には魔封じの首輪まで嵌められている。
――ギシギシッ
軽く力を入れるが、これは簡単に壊れそうだ。
常人の10倍近いステータスを舐めてもらっても困るのだが、今暫くは静かにしていよう。
(ファイズ、取り敢えず馴染み亭に転移して、アドルフ男爵の相手して来て頂戴)
――スッ
と影のなかからファイズが消える。
(ゼクスいるかい?)
『はい。今すぐこの船の乗組員でも皆殺しにしますか?』
(やめてよ。この船の目的地を確認して来て頂戴)
――スッ
とゼクスも消える。
「この船は何処に向かっているのですか? 私はまだ仕事が残っているのですよ」
「私達を攫ったのは、黒帽子っていう人買いの集団さ。何処に向かっているのは分からないけれど、何処だかの貴族が新しい奴隷を欲しがっているんじゃないか?こんなに大勢攫われるのは中々無いと思うけどね」
周りの女性達の中では、マチュアはかなり年が若い。
エルフだから若く見られていると言うのもあるのだろう。
『今この船は川を下っています。目的地は河口で待機している大型の帆船、目的地は一度ラマダ公国の港町に向かい、そこからファナ・スタシアの港町を経由して北方大陸です』
と影に戻ったゼクスから、念話が届いた。
(あら、イヤリング取られた。腕輪もかい)
『ご安心を。回収済みです』
(有難うね、そのまま持ってて。それでまさかとは思うけれど)
『はい。船の名義はゴルドバ商会です』
(参ったなぁ。暫くはこのまま捕まっていますか。ラマダ公国の港町までの時間を調べて)
『間も無く河口です。乗り換えてからでしたら、二日後の昼には港に着くかと』
(ならこのままで待機。一応警戒だけしておいてね)
と告げると、マチュアはそっと首輪の解析をする。
(成る程。普通の魔力の人なら、完全に発動を阻害されるのか)
と、手脚の枷をかけられている部分に『治癒』と『痛覚緩和』の魔術を施すと、マチュアはそのまま昼寝をする事にした。
――ゴトゴトッ
と身体がユサユサと動かされて気がつく。
ガタイの良い水兵がマチュアを肩に担いで歩いている。
「わ、わわわっ」
「お、気がついたか、危ないから静かにしていろよ」
どうやら、河口に停泊している帆船に乗り換えている最中である。
後ろでは、ロープに繋がれた女性達が渡し板を歩いていた。
全員のロープが繋がっているので、迂闊に逃げることはできない。
そのまま船倉の一番下まで連れて行かれると、またしても牢に放り込まれた。
もっとも、先程まで乗せられていた船とは違い、牢の中にはベットも毛布もある。
――カツカツカツカツ
全員が牢に入れられると、船倉に数名の貴族らしい身なりのしっかりとした者達がやって来る。
「今回は中々の上玉を用意したんだなあ」
「お、若いエルフまでいるでは無いか」
「うむうむ。今此処で買い付けることは可能か?」
「いえいえ。ちゃんとルールは守って頂かなくては。ゴルドバさまに私が怒られてしまいます」
と船乗りの一人がそう告げる。
「着いたらすぐか?」
「いえ、今から三日後ですから、到着した翌日ですね。では上に戻りましょう。上質のワインでも楽しみながら、ゆっくりと船旅をお楽しみください」
と貴族達は上に戻っていく。
その直後に、あちこちからすすり泣きの声がする。
――カチャッ
と手枷をゼクスにコッソリと外してもらうと、空間からマルムの実を取り出す。
――シャクシャク
「皮のついたままでも美味い」
腹が減ったので、そのまま齧りつくマチュア。
と、マチュアのほうを見て女性達は驚きの表情を見せた。
先程までつながれていた女性が、あっさりと枷を外して果実を食べているのである。
驚くなというのが無理であろう。
「わ、私の枷も外してください。此処から逃げたいのです」
「私も、お願いします」
と次々と女性達が集まって来るが。
マチュアはゆっくりと諭すように話を始めた。
「此処だと外しても逃げられないから、港に着くまでは我慢ね、約束できる?」
コクコクと頷いた女性達の枷をカチャッと簡単に外すと、座ったまま後ろを向いて影の中に放り込む。
(ゼクス、それ加工して。付けられた人の意思で簡単に開け閉めできるように。それと船倉に人が近付いたら教えて)
『了解しました』
と次々と外すと、もう一度加工済みの枷を手渡す。
その使い方を説明すると、取り敢えず女性達にマルムの実を手渡す。
「これは?アプルの実のようですが」
「ん?マルムの実。食べて体力つけましょ」
――プッ
と誰かが吹き出す。
「ま、マルムの実って。あのマルムですか?」
「今年の収穫したやつだよ。美味しいよ」
――シャクシャク
とマチュアは気にせず食べる。
――ゴクリ
と喉が鳴る音が聞こえた直後、一人を除いて全員がマルムの実を食べ始めた。
「貴方は食べないの?」
と誰かが問いかけると。
「これ一つで白金貨百枚の価値があるんですよ」
――ポトッ
と皆が手にしていたマルムの実を落としそうになる。というか誰か落とした。
「でも、貴方が手にしたから、貴方が誰かに渡した瞬間にそれはアプルの実だよ。私が手渡した時だけ、価値が残るのよ」
と口からでまかせを告げる。
そうでも言わないと食べてもらえないし、何より体力が戻らない。
やがてシャクシャクと食べる音がする。
そして全員が食べ終わると再び枷を嵌めて痛覚緩和と治癒を施して横になった。
絶望から希望が見えたらしく、もうシクシクと泣いている人はいなかった。
夕食は薄味で、お世辞にも美味しいとは言えなかったが、
どんなものも美味しくする『焼肉のタレ』と『マヨネーズ』『ワサビドレッシング』を取り出して少しずつ分けてあげる。
「んーー、んーーっ、鼻がツーンとしますわ」
「それはワサビだねぇ。東洋のハーブみたいなもの。こっちはマヨネーズ、酢と卵のドレッシングね。こっちはお肉にかけるタレ」
と一つ一つ説明すると、黙々と食事を終えた。
空腹を満たすと、心に余裕が生まれる。
お互いに自己紹介をしているが、かなり遠くで拐われた女性も数人いた。
帆船に乗せられた時、生きるのを諦めた者もいたが、今では生きて此処から逃げる事を考えていた。
「貴方はどこから来たのですか?」
と一番年上らしい女性に問われたので。
「カナンです。南門の近くで酒場を経営してまして、仕入れでククルカンにやって来たところで、なんか薬を飲まされて意識が戻ったら此処でした」
と笑うマチュア。
「私達も同じですね。親しくしてくれた方に飲み物を勧められて、その後は意識がなくなって……」
「あの薬はなんでしょうかねー」
常人よりも抵抗力が高いマチュアが一撃でやられた薬。
深淵の書庫を起動すれば解析できるのだが、この状態では無理である。
『監視の水兵が向かいました』
「人が来る。急いで枷を戻して」
とマチュアがコッソリと告げると、皆が慌てて枷をつける。
――ガチャッ
と水兵が一人、ランタンを手に姿を現した。
「みんな元気か?」
「こんな状態では元気なんか出るわけないでしょ」
「はっはっ。違いないな。明日には港に着く。そこから川を上って王都まで行くが、それまでがあんた達の最後の時間だよ。その後はオークションで貴族に買い取られてさようならだ」
「最低だね、あんた……」
と誰かが悪態を着く。
「まあ、これが仕事なんだよ。生きる希望なんて持たせるなって言われているのでね」
と呟いたら、男はそのまま上に上がっていく。
最も、今牢屋に入っているのは逃げる気満々の者達ばかりですけれど。
「さ、寝ましょ」
と告げると、マチュアはそのまま眠りについた。
翌日には船はラマダ公国に到着したらしい。
此処でまた、数名の女性や獣人が牢に入れられた。
「ふぅん。随分と諦めがいいんだねぇ」
と垂れ耳の猫族の女性が呟いている。
「諦めてませんからねぇ」
とクスクスと笑うと、王都に着くまでに此処で乗せられた人たちにも事情を話し、枷を改造して付け直す。
――ピッピツ
『こちらツヴァイ。ゴルドバが殺害されました』
――ブッ
と最後の食事を吹き出すマチュア。
「あら、喉に詰まりましたか?」
「い、いえ大丈夫。なんかどっか入ったのよ」
と少し離れると、ツヴァイとドライから報告を受ける。
一通りの説明を受けると、ドライにはコーメイの部下がククルカン城に入る日が分かったら教えるようにと告げる。
(ツヴァイはそのままコーメイを監視。作戦は全てこちらに流して)
『了解しました』
――ピッピッ
「ふー、死ぬかと思った」
「大丈夫ですか?」
「ええ、もう大丈夫ですよ、さ、オヤツでも食べますか」
と食後のマルムの実を食べると、全員の気力と体力は全快である。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ラマダ王都は幾つもの水路が繋がっている。
豊富な地下水脈と竜骨山脈から流れて来る川を引いて、陸路以外に水路も充実している。
そのうちの一つを伝って、マチュア達は大きな商会の倉庫に連れてこられた。
二重になっている倉庫の奥からは、御禁制品の麻薬の匂いがする。
その一角にマチュア達は連れてこられた。
一人一人が牢に閉じ込められ、展示品のように並べられている。
「さて、お集まりの皆さん。只今より奴隷のオークションを始めます」
眼帯をつけた紳士が、集まっている貴族に向かって告げる。
素顔を見られたくないらしく、オークションに参加している貴族たちも皆、様々な仮面を着けている。
「展示品にはお手を触れないようお願いします。牢には番号が書かれていますので、そちらの羊皮紙に欲しい番号と金額を書いて、こちらの箱に入れてください。一番高値を付けて頂いた方が購入となります。それではどうぞごゆっくりとお楽しみください」
その言葉と同時に、貴族達はゆっくりと女性達を値踏みする。
「フンフフンフンーン♫」
鼻歌を歌いながら、マチュアは周囲を観察する。
入口にはガッチリとした体格の護衛が4人。
そこ以外には、事務所と繋がっているのであろう扉が一つ。
女性達にはマチュアが動くまでは何もしないように告げている。
「それじゃあ、始めますかね」
と呟くと、二つの扉に魔法の鍵を掛ける。
――カチャッ
倉庫の中が騒がしいため、鍵が掛けられた事に誰も気が付いていない。
「ん?君は何か言ったかな?」
目の前でマチュアを見ていた貴族が問いかけてくるが、マチュアは手をヒラヒラとさせる。
「広範囲熟睡と言いましたっ」
――バタバタバタバタッ
次々と、貴族達がその場で熟睡して倒れていく。
周囲を見渡すと、マチュア以外の全員が眠っている。
「ゼクス、牢から全員救出。優しく起こしてあげて頂戴」
「眠っている女性を起こすのは紳士の仕事ですからねぇ」
とゼクスが楽しそうである。
「ちょっと待て。あんた達ゴーレムの性格というか自我は、どうしてそんなにバラバラなの?」
「マチュア様の記憶と感情から、私達は自我を形成しています。それぞれが何処かに特化しているだけですから。私ゼクスが女好きなのはフベシッ」
――スパァァァァァン
「やっかましいわっ。とっととみなさんを起こしなさい」
と告げたのち、マチュアは貴族と責任者に拘束を施すと、仮面を外して牢に閉じ込める。
「わ、私達は、助かったのですね」
と枷を外して喜んでいる女性達。
「さて、どうやって逃げようかなー、派手にやると不味いよね」
「ええ。此処は素直に隠密裏に行きましょう」
とゼクスに告げられたので、連れてこられた船に乗って水路を移動する。
外は既に真っ暗だったので、逃げるのはそれほど難しくなかった。
どんどんと上流に遡り都市部から出ると、あとは街道を抜けるだけであるが。
「あのー、私思うのですが」
とゼクスがマチュアに話しかける。
「言うな。私も今気がついたわ」
「ですよね」
「と言うことで、みなさん集まってください」
と全員を手招きすると、マチュアは全員に目を瞑るように告げる。
「いーですか、目を開けちゃダメですよー」
と話しながら転移の魔法陣を展開し、カナンの王族用転移門に繋ぐ。
――ヒュンッ
「はい到着しました。皆さーん、無事に逃げられましたよ」
と扉を開くと、夜のカナンの姿が広がっていた。
「こ、此処はどこですか?」
「カナン魔導王国の商人ギルドの隣だよ。皆さんはここの国の女王様が責任を持って送ってくれると思うよ」
と説明をしていると、転移門を監視している商人ギルドの担当者がやって来る。
マチュアに気がついて跪きそうになるが、服装などから商人のマチュアだと理解すると、普通に接して来る。
「緊急で使われたのですか。では、皆さんは此方にどうぞ、詳しいお話を聞かせて下さいね」
と全員をギルドに案内していく。
「陛下に連絡して、この人達を元居た場所に送り届けてくれるようにと伝えて下さい」
「了解しました。どうもお疲れ様でした」
と頭を下げると、担当官はギルドへと戻っていく。
その途中で、囚われていた女性達はマチュアに頭を下げるが、マチュアは何時ものように手をヒラヒラとさせて馴染み亭へと戻っていった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






