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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第三部 カナン魔導王国の光と影
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カナンの章・その5 暗躍する影と、複雑な情勢

 ククルカン城を後にしたマチュア。

 跳ね橋を越えてから絨毯を引っ張り出して飛び乗ると、昨日とは別の宿に泊まる事にした。

 そして部屋に入ると、またしてもカナンの馴染み亭に戻って来る。

 安全が確認出来ない所に泊まるなど、言語道断である。


「おや、店長どちらから?」

「ククルカンだ。明日まで部屋に篭る」

 そう告げてから、そのまま自室にこもる。

 取り敢えずやることは一つだけ。

 魔道具の作成である。

「国王に頼まれた痩せる魔導器と換装の腕輪か。前者はすぐだけど、後者はなぁ」

 としばし頭を捻る。

 痩せるためのものは、『深夜の謎の通販おなじみの一日僅か数十分で見る見るうちに鍛えられるアレ』を参考にするから問題はない。

「となると、装備を魔力に分解して魔晶石に取り込み、意思と魔力で瞬時に再結晶化するのが理想か」

 深淵の書庫アーカイブを展開し魔導制御球コントロールオーブを手にすると、次々と材料を空間から取り出して試作を開始する。

 アレコレと考えながら、どうにか三時間掛かって完成すると、これも魔導制御球コントロールオーブが手に入ってから解析した、新しい技を実験する。

 もしこれが成功したら、カナン魔導王国は確実にその地位を確立する。

「ふぅ。と、先にこっちで実験するか」

 巨大な魔法陣を生成すると、その中に大小様々な大量の箒と幾つかの魔晶石を放り込む。

 そして普段使っている、『烈風』と名付けた空飛ぶ箒を魔法陣の中心に設置した。

「魔力コントロール。中心の物体を解析。魔力は魔晶石から。解析の完了した魔法的能力を、他の物体に複製開始っ!!」


――キィィィィィィィン

 と全ての箒が輝き始める。

 その輝きは一時間程で収まると、魔法陣の中には大量の魔法の箒が完成した。

 材料さえあれば、同じものをいくらでも作り出す事が出来るようになった。

「で、出来た……新しい技術革新だ。第二次魔法産業革命だ……」

 感激で身が震える。

 因みに第一次魔法産業革命は、マチュアが魔導王国で魔導器の販売を開始した時らしい。

 勝手にそう命名したのである。

「と、感心している場合じゃないわ。さっきのこれを設置してここで量産開始と。取り敢えず痩せるのは100個、腕輪は200個と言うところだろう」

 二つの魔法陣を起動させると、早速量産開始。

 その日の夕方までに、今までマチュアが羊皮紙に書いていた様々な物品や、頭の中にはあった不可思議なアイテムを次々と作成していったのである。

 最も、魔法陣に材料を入れて起動するだけなので、完成までは放置であるが。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 カナン東方に広がる草原。

 幾多もの街道が繋がる大街道はその途中から幾多もの街道に枝分かれする。

 その中の一つ、東方のラマダ公国に向かう街道を、一台の馬車が疾走している。

「は、話が違う!! ギュンター枢機卿の話では、俺たちが死ぬ事でカナンとククルカンが戦争になる筈だった。が、この前のあの話はなんだ!!」

「知るか。まさか俺達も枢機卿に騙されたんじゃないのか?」

「それにしてもだ。何が正しいかなんて、国に戻ったら全てが判るは…ず…なんだぁ?」

 彼らは恐怖した。

 街道の両側に広がる草原地帯。

 その遠くに見えた巨大な行軍。

 今は仮設のテントを広げて休憩をしているのだろう、あちこちから炊煙が立ち上っており、時折甲高い笑い声まで聞こえてくる。

「ほ、本当だった……あの女王の話は本当だったのだ……急いで戻らないと」

 さらに馬車は速度を上げると、行軍の先頭を追い越して森林地帯へと入っていった。


広範囲ワイドエリア物理型幻影ファンタジア解除と…………このボディで魔法使うとマチュア様のよりも効果が凄いのですねぇ)

 と馬車の影に潜り込んでいるドライが呟く。

 馬車の進行方向に、一万五千もの行軍の幻影をドライは魔術によって生み出していた。

 周囲の魔障を構成することで、触れる事も出来る幻影を生み出したのである。

 但し所詮は幻影、イメージの塊でしかない。


 マチュアのように、司祭の聖なる魔力(セイクリツド)を用いた『広範囲セイクリッドエリア』は使う事が出来ない為、純粋に魔力のみで範囲を広げる『広範囲ワイドエリア』を使用したのである。その為、範囲は大きいものの精密度には欠ける。


 それでも、慌てている彼らを騙すのには好都合である。

 馬車はそのまま突き進んだ。

 普通なら十日は掛かるであろう旅の日数を半分まで減らすと、やがて馬車は山岳地帯に差し掛かった。

「後少しだ。此処さえ乗り切れば、此処を下り終えたらラマダに着く。それまでの辛抱だ」

 御者役の者が叫ぶ。 が、既に疲労困憊で話も出来ない仲間達。


(それじゃあ、駄目押ししますか。深淵の書庫アーカイブ発動。言語形態をククルカン語に)


 途中幾多もの街道の分岐点が見えると、その周辺に軽装の騎士の姿を投射するドライ。

 馬車には気づかず、山の向こうを警戒している感じで。

 装備はククルカン王国の紋章が入ったものだか、近寄られると解像度が荒いのでバレる。

 が、これで十分。

 影の中でドライも顔を隠し、予め用意したククルカン王国の軽装鎧を装備する。

「おい。ククルカンの騎士団だ」

「本当か?」

 と馬車の中からそっと外を確認する一行。

「こっちには気づいていない。どうする。殺るか?」

 と一人の騎士が剣を引き抜く。


――シュッ

 と突然ドライが馬の前方に姿をあらわす。

 そして馬車を指差して叫ぶ‼︎

見られた(クゥ・ヴァンガ)殺せ(アルタ)ゴルドバめ(ゴルドバ)しくじったな(ミラ・サマルラサ)

 単語の中にゴルドバの名前を入れておけば十分。

 残ったやつの一人でもククルカンの古言語を理解して入れば、これで作戦は終了なのだが。


――シュタタタタッ

 と横を駆け抜ける馬車に高速で追従すると、ドライは馬車の幌を手にしたハルバードで切り裂く。

 これもククルカンの文化、彼の国は竿状武器を好む傾向がある。


――ズバァァァァァッ

 一撃で馬車の中に潜んでいた騎士の首が切断されると、その横で身構えた騎士の腹部にも斧が叩き込まれた。

 一瞬で二人の騎士が絶命すると、ドライはすかさず御者に狙いを定める。


――ギン、ガキィイン

 が、それは見抜かれたらしく、中の騎士が御者の近くまで向かうと、そこで走りながらの剣戟が始まった。

 幻影側には馬車は向かわせず、同時に幻影はこちらに気がついて撤退していくように操る。

 その際に、ドライにハンドサインを送るのも忘れない。

 幻影の動きは全て深淵の書庫アーカイブに任せてある。

 尚、マチュアはこのような事は出来ない。

 人知を超えたクルーラーゴーレムだからこその、魔法の並列演算処理である。

「い、急げ、斥候が反対に戻った可能性がある」

「分かっている!!この兵士が離れないっ」


――ギィィィィィン

 ともう数撃の剣戟を行うと、ドライは何かにつまづいて転んだ。

 これも演技であるが、馬車はそのまま走り去る。

隠蔽ステルス。さて、また追いかけますか」

 姿をスッと消すと、ドライは全力で馬車に向かうと、再び影に消えた。

 やがて馬車は山岳地帯を抜ける。

 広大な田園風景が、馬車の目の前に広がると、乗っていた騎士達は安堵の表情を見せた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ラマダ公国。

 ウィル大陸北東に位置する、貴族達によって作られた貴族のための国。

 現在の大公はライオネル・ラグナ・マリア。

 古くはラグナ・マリア帝国王家に連なる国であったが、1000年以上も昔に袂を分かった国である。

 その後、東方や北方といった大陸に渡り、ウィル大陸にはない様々な文化や技術を吸収し、現在まで発展を遂げた。


 次男であるが故に王家を継ぐことはできない。

 それが不満であったラマダ・ラグナ・マリアは自らを付き従っていた部下と共に帝国を出奔した。

 未開であった東方を開拓し、小さいながら国を興した。

 王家の中でも類い稀な英知を持つラマダは、僅か10年で国を作り上げると、父親であるアンドリュース・ラグナ・マリアの元にラマダ大公を名乗って独立を宣言、帝国の領土をこれ以上侵さないという約束の元に独立は認められ、同時に不可侵条約も締結された。

 その不可侵条約も、1000年の時を待って失効し、現在のライオネル大公はより豊かな領土と、魔導王国を名乗る隣国が押さえている大量の魔導器を得るために戦争の準備をしていた。


「カナンとククルカンが手を組んだたと?」

 簡素な王座に座っているライオネルは、全身がボロボロになった騎士達の報告を受けていた。

「は、はい。カナン東方に建設した城塞は陥落。ですが、そこに隠してあった囮の作戦書を解読したらしく、ルトゥールの騎士達がククルカン国境に数多く配置されたのは確認しました」

 報告をじっと聴きながら、ライオネルは報告者の瞳を見る。


(嘘偽りはない眼だな‥‥)


 物事の真贋を見分ける眼を持つライオネルは、目の前にいる報告者達が嘘偽りなく話をしているのを確認した。

「本来の作戦通り、我々は決死の覚悟でカナン王城に潜入しました。が、カナンは守りがなく、あっさりと女王の座す広間へとたどり着きましたが、そこで女王は我々がククルカンの騎士だという事を信じ、叫んだのです」

「裏切ったのか、ククルカンと」


「そこからは死に物狂いで逃亡しました。仲間は駆けつけた近衛騎士によって打ち倒され、我々は閉ざされかかった城門をギリギリで突破し、街道まで逃げ延びたのです」

 騎士達は大公が自分達の報告を真剣に聞いているのを確認すると、ゆっくりと続きを語った。


「我々は道中、進軍してくるカナンの騎士や傭兵達を確認しました。それに竜骨山脈にも、ククルカンの斥候が隠れているのを発見しましたが、運悪く我々も見つかってしまい戦闘になりました」

「二人が討ち倒されましたが、どうにかここまで逃げることが出来たのです。それで、その手練れの騎士がこう叫んでいたのです」

「クゥ、ヴァンガ、アルタ、ゴルドバ、ミラ、サマルラサ。古ククルカン語で、見られた、殺せ、ゴルドバめしくじったのか、と」

「古ククルカン語は今はあまり使われていない言葉ですが、ククルカンの古くからの貴族は今でも用いている者もあります」

 そこまでの報告を受けて、ライオネルは何かを考える。

 そして。

「褒賞を取らせる。下がって良い」

 とだけ告げると、騎士達を下げた。


――フゥ

 と溜息をつくと、ライオネルは窓際に立っていた人物に問いかける。

「コーメイよ、今の報告はどう見る」

「今の報告がなければ、我々は作戦をそのまま遂行していたでしょう。もし、我々の作戦が漏洩していたとしても、この僅かの間に大量の騎士団を派兵し、隣国からも斥候が来るなどという事は起こりません。カナンとククルカンが手を組んだのは間違いないかと」

 羽で作られた羽扇子を仰ぎつつ、孔明(コーメイ)と呼ばれる男は笑みを浮かべながら告げた。

「そうか。では、ゴルドバを呼んできてほしい」

「はっ」

 と頭を下げると、コーメイはゴルドバを呼ぶように次官に指示を飛ばす。


 暫くして、ゴルドバは大公の待つ部屋へとやってくる。

「これはこれは、大公様にはご機嫌麗しく」

 機嫌を伺うように、ゴルドバは手もみをしながら頭を下げる。

「世辞は良い。ゴルドバ、貴様何かを隠していないか?」

「何か……ですか?」

 動揺を隠しつつ、ゴルドバはそう告げる。


 ゴルドバは、大公には北方からの援軍の事は説明していない。

 彼はファナ・スタシアとククルカン、カナン、ラマダの4つの国の情報を北方に売る気であった。

 その見返りにカナンの地を求め、それは内密にではあるが承諾されたのである。

 ツヴァイでも、直接ゴルドバが見た手紙や触れた念話文字は、自分も見たり触れない限り解読できない。


 その事を迫られていると、ゴルドバは勘違いした。

 だが、王の瞳は、ゴルドバが『嘘をついていた』事だけは見抜いたのである。

「そうか。クゥ、ヴァンガ、アルタ、ゴルドバ、ミラ、サマルラサ。この言葉は分かるよな?」

「そ、それは古ククルカン語。どうして大公がその言葉を」

 その言葉だけで十分である。

 近くに立っていた騎士が、大公が手を上げた瞬間にゴルドバの首を刎ねたのである。


――ズバァァァァァッ

 ゴルドバの影と騎士の影が交差した時、中にいたツヴァイは影を伝って騎士の影に移動する。

「その死体を片付けろ。さて、コーメイ、この後の策はどうする」

「此方の策は生きています。ゴルドバではなく、私の手の者を使ってククルカンの様子を窺って見ます。同時にカナンに一時的にせよ和平を求めましょう」

 ほう、と眼を細めるライオネル。

「まずは目の前の脅威を排除するのです。もしククルカン王とカナンの女王が接触していた場合ですが、ククルカン王を口説いてカナンを攻めさせれば良いのです。その上で、空となったククルカン王国を落とすのが良いかと。これは古くから我が一族に伝わる『駆虎呑狼ぐこどんろうの計』と言います。ククルカンと我等がラマダが合わさった国力ならば、カナンのように独立したばかりの国など恐るるに足らず」


――クックックッ

 と扇子で口元を隠して笑うコーメイ。

「ククルカンとカナンの王が接触していなかった場合は?」

「それが最も厄介なのです。その場合、この度の計略は全てカナンに筒抜けと考えて良いでしょう。カナンの参謀は私と同等の戦略家である可能性が高いかと」

 バン、と扇子をたたむ。

「その場合はカナンと和平を結び、我々はククルカンを落とすことに全力を傾けましょう。そして時を待つのです」

「それで良い。あとは任せる」

 と笑みを浮かべたライオネルが立ち上がると、奥の間へと下がっていった。

 そしてコーメイもまた、騎士を伴って退室する。

 コーメイの最大の過ちは、この瞬間にツヴァイがコーメイの影に移ったことを見つけることが出来なかった事であろう。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



『こちらツヴァイ。ドライは何処にいる?』

『こちらドライ。ツヴァイの部屋の近くにて、騎士の影にあり』

『了解。ドライは、コーメイの手の者とやらの影になんとかして移って下さい』

『こちらドライ、ツヴァイの命令に従う』

『……こちらツヴァイ、ちょっと疑問を感じたのだが、

私はマチュア様の影、ドライはマチュア様の忍、ミナセ女王(クィーン)は女王としてのマチュア様だよな』

『うむ』

『私は2、ドライは3、クィーンは4だが、居るはずのアイン、一番は何処だ?』

『……考えた事もなかった。何処に居るのだろう?』


 そんな事を念話で話をしていると、コーメイの元に一人の女性がやってくる。

扈三娘こさんじょう、参りました。孔明様、どの様なご用件でしょうか?」

 とコーメイの元に見目麗しい女性がやって来る。

 ゆったりとした女性用の着物の様な衣服を纏い、両手は組んで袖の中にしまっている。

「ククルカンのカバレロ公爵の元に向かって下さい。ゴルドバの代わりにやって来たと告げて、以後の連絡は貴女が受けなさい」

「はっ」

「ククルカンにカナンの者、特に魔導女王が接触して来たのなら、すぐさま近づいて、どんな些細なことでも構わないから情報を引き出すのです。あとは伝書を都度送るのを忘れなく。この度の計略は、貴女のもたらす情報が鍵になるのです」

 そこまで告げると、扈三娘(こさんじょう)は頭を下げて退室する。


『こちらツヴァイ、ターゲットは退室した』

『こちらドライ、現在室外の騎士の影に潜伏。3……2……1……コンタクト成功。引き続き潜伏作戦を続行する』

『こちらツヴァイ。健闘を祈る』



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 少し時間は戻る。

 まだ、ドライが馬車の影にいた頃。


――ボーッ

 馴染み亭の自室にて、マチュアはやり遂げた感に包まれていた。

 大量の魔導器を作成し、魔晶石に足りなくなった魔力を注ぐ、そしてまた量産。

 今まで読んだ事のあるファンタジー小説を思い出し、それに出てくる様々な魔導器を作り続けた。

 武具の類いは専門外なので、それ以外の便利品のみを大量に作ると、バックに次々と放り込んで空間にしまい込む。

「さて、今の状況はと」

 イヤリングに手を当てて、まずはドライに連絡を取る。


――ピッピッ

「はーい。ドライ、今の状況は?」

『こちらドライ。快適な旅を満喫中。街道は間も無く草原になります』

「そろそろか。森の近くの草原に騎士団や兵士の幻影をお願いね。出来るだけ派手に、馬車の者達がビビるぐらいで。後、ラマダ公国が近くなったら、ドライの判断でククルカンの兵士も幻影で配置。兎に角カナンとククルカンが手を組んでいると思わせれば良し」

『了解です』

「ツヴァイ、今は何処?」

『現在はラマダ公国内。ゴルドバの影の中ですね』

「何かわかった?」

『ゴルドバとククルカンのカバレロ公爵、ラマダのトスカーナ侯爵は北方のシュトラーゼ公国の貴族と手を組みました。カナンとククルカン、ラマダ、ファナ・スタシアの4国を潰し合わせ、ゴルドバの手引きでシュトラーゼ公国の騎士団に背後から4国を落とさせる心算つもりです』

「鍵は?」

『全ての仲介はゴルドバが行なっています。彼が消えるとシュトラーゼには情報は遮断されます。あちらの出足が遅くなるかと』

「出来るだけ情報は手に入れて。行動は全て一任します」

『『了解しました』』

――ピッピッ


「優秀な子たちだねー。私はやる事ないなぁ」

――コンコン

『マチュア様、お客様ですが」

「はいはい、今行きますねー」

 と普段着のチュニックとスカートに換装する。

 武具以外の殆どは『着替の腕輪パリコレ』と名付けた腕輪に収納した。

 早速活用して酒場へと向かうと、立派なスーツを身につけた二人の貴族が立っていた。

「初めまして。私はリヒターと申します」

「私はカロッツェリアです。本日は、私達の主人であるアドルフ卿が晩餐会を開くので、是非ご招待をと思いまして」

 ふと近くに立って居るジェイクを見る。

「アドルフ卿は、カナン魔導王国東方の男爵です」

「ふぅん。で、どうして私のような小さい商人を招待するのですか?」

「正直にお話します。アドルフ様は貴方のお持ちになっている魔導器に興味がありまして、色々とお話をお伺いしたいとの事です。では明日の夜、鐘の音と共にお迎えに参ります」

 丁寧に頭を下げる。

「えーっと、強制ですか?」

「別に欠席しても構いませんが、その場合、貴女に都合の悪い事があるかも知れませんので……では」

 と二人が外に出て行った。


「アドルフはどんな人なんだろうなー」

 プラプラといつもの指定席に向かうと、紅茶を持ってきたジェイクに問いかける。

「野心家です。そして策士家でもあります。裏でラマダと繋がっているという噂もありますが」

「ありゃ。手数が足りないわ。どうしましょう?」

 とジェイクに問いかける。

「足りないなら作るというのは?」

「材料がない。さっきストームから貰った、あ、まだ残ってたわ。ありがと」

 と自室に戻ると、深淵の書庫アーカイブを起動する。

「ではでは。手順は以前と同じ、素体はミスリル。作成開始」

 ティルナノーグ戦の時に作ったレッサーデーモンを材料に、二体のミスリルゴーレムを作る。

 それにドライと同じように次々とスフィアを組み込むと、新型マチュア(ミスリルゴーレム)が完成した。

「名前は、5番目と6番目だから。ファイズとゼクスで」

 コクリと頷くと、二つとも影の中に入るように命じる。

「二人とも、朝までに私を解析しなさい。貴女たちは常時私である必要はないが、二人とも騎士団の一員として登録します。その場合、ファイズはエルフの女性に、ゼクスは男性になるのです」

 返事は意思のみ。

「さて、それじゃあ一つだけ納品しますか」

 と呟くと、マチュアは商人の姿でククルカン王国へと転移した。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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