マチュアの魔導騎士と、目を付ける企業たち
鎧騎士。
全高30センチ程度の、人型ゴーレム。
マチュアが作り出した魔導玩具の中でも特に人気の商品であり、フェルドアースでは大規模の大会まで行われている。
初期稼働時に魔力を登録することで自在に操ることが出来る神聖具であり、対人攻撃禁止などのリミッターは掛けられている為、誰でも安全にゴーレム戦を楽しむ事が出来る。
マチュアはそれを空間収納から取り出すと、オールレントのボックス席の前に並べた。
「ん、マチュアさんや、それは一体何じゃ?」
「私の作った魔導具の最高傑作のひとつでね。ほら、外に魔法鎧があるでしょ? あれを小型化して色々な制約を課したおもちゃだよ。こういう感じに動かせるんだけどさ」
そう告げながら、マチュアは目の前に置いてある鎧騎士・グスタフ3をゆっくりと動かして見せる。
すると、朽木と飯田の二人も興味を持ったらしく、やや興奮気味にボックス席に移動していく。
「ま、マチュアさんや、これは売っているのか?」
「あ~、在庫はあるんだけれどさ。ルーラーさん、これ、売っても大丈夫だと思う?」
「対人間、対物理攻撃についてのリミッターが掛かっているのなら、販売しても問題はないと思うが。在庫はどれぐらいあるんじゃ?」
「そうねぇ……」
空間収納から、鎧騎士の収めてある袋がぎっしりと詰まった箱を取り出すと、それを床に重ねてみる。
「こいつ一箱で24体、それがまだ10個ほど残っているから……」
「はぁ。それなら販売してから、機体の肩にでも『試作』と赤いマーキングを施しておけばよいと思うぞ。後で関川くんに試供品として3体ほど預けて、販売登録して貰えば問題はあるまい。それで、販売価格はどれぐらいじゃ?」
「あっちの世界では、一体が1万円だったかな? ちょっと前の事だけど」
「やっす!!」
そう呟いてから、朽木が懐から財布を取り出し、マチュアに一万円を手渡す。
「それで、どの機体が最強なんだ?」
「さぁ? どの袋に何が入っているかなんて私も知らないわよ。何が出るのか、それは当たってからのお楽しみってね。福袋のようなものよ」
「ふぅん。それじゃあ」
袋に手を翳し、朽木が何かを念じている。
別に魔法が発動しているのではなく、ただ何となくそうすればいいのが選べるかもしれないと思っただけ。
「よし、これだぁぁぁ」
「それじゃあ、僕はこっちを貰おうかな?」
朽木が選び終わってから、飯田も一つ購入。
そして二人同時に袋を開いて鎧騎士を取り出すと、まずは魔力登録を終えて稼働テストを始めた。
「しっかし、末恐ろしいじいさんたちだよ。こんなにあっさりと魔力循環を行って登録を終わらせる事が出来るなんて、故郷の仕事場の連中が聞いたら涙物だよ?」
「そうか? まあ、そういう事もあるんだろうなぁ。と、それじゃあ飯田や、こいつと一戦、交えてみるか?」
「交えるのは構わんが、ルールはどうする?」
一撃命中したら終わりというのも味気ないが、かといってぶっ壊れるまで戦い続けるというのも問題がある。それでどうしたものかと思っていると、マチュアがふと、空間収納から小さな箱を取り出した。
「マチュアさんや、そいつは一体……」
「ああ、ちょいと昔の弟子のところに顔を出した時にさ、面白いものを作っていたなぁって私も試したことがあってね。ええっと、どうだったかな……」
いくつもの木箱を取り出し始めると、ルーラーが慌ててマチュアを止める。
「待て待て、流石に喫茶コーナーに変なものを広げるのは感心せんぞ。やるなら外でやってくれんか?」
「そりゃそうだ。ということで、外に行きましょうか……」
「そうだな」
「それじゃあ、また後で」
各々がルーラーに挨拶をして、そのまま店の外に出ていく。
それを見届けてから、ルーラーは軽く掃除をした後、午後の営業用のコーヒーを落とし始めた。
………
……
…
オールレント入り口横の庭。
そこにマチュアは、鎧騎士専用のコロシアムシステム『グラディエート2』を引っ張り出す。
これは全高2メートルほどのモノリス型測定器であり、マチュアの不肖の弟子のひとり『十六夜悠』の作り出した『魔導騎士』を使ったリアルファイトシステムの審判に用いられている。
マチュアはそれを更に小型化し、いつか使おうとずっと空間収納に納めていたのであるが、今になってその事を思い出し、稼働実験を兼ねて外に設置したのである。
「ふぅむ。これに機体の魔導コードを読みこませるのか」
「相変わらず、朽木さんは要領を得るのが早いわ。それじゃあ後は分かるよね?」
「まあ、一応は説明を頼む。俺はともかく飯田がなぁ」
「ぼくは大丈夫ですよ」
それぞれが測定器に魔導コードを読み込ませると、モノリス表面に様々な設定画面が浮かび上がる。
戦闘時間、決着ルール、戦闘エリアの範囲などを一つ一つ入力して、最後にスタートボタン
押すだけ。
「……これでよし、と。それじゃあ、制限時間は20分、仮想ダメージシステムの採用、ヒットポイントゲージが0になったら負け、戦闘利用粋はこの中庭オンリーで、ゲーム……スターートっっっっっ」
――ピィィィィィィィィィィィィィィィィィッ
ブザーが鳴り始めると同時に、朽木の機体『アインツェルカンプ』と飯田の『マキシマ7』が一斉に距離を取る。
近接戦闘型のアインツェルカンプと弓を主体とした遠距離攻撃機のマキシマ7、直情型の朽木と思案型の飯田、この戦闘の決着は誰が見ても明らかであったという。
そして、この戦いは2戦、3戦と繰り広げられ、騒ぎを聞きつけた近所の子供たちが塀の上に腰かけて観戦するという事態にまで発展。落下防止用にマチュアが急遽、ベンチを製作して並べ観戦席を用意することになってしまった。
しかも大方の予想通り参加したいという子供達まで現れたものの、機体の値段を聞いて尻込みしてしまう。それでも会社帰りのお父さんやОLの中には、どうしても参加したいと思うものがいたらしく即金で一騎を購入し、順番待ちまで始めた。
「……なぁルーラーさん。これって儲かると思わないか?」
「魔導図面を見せてくれるか?」
審判席でコーヒーを飲みつつ見学しているマチュアとルーラー。
さすがは商魂たくましい魔導師。
受け取った図面を見て、ルーラーは瞬時にモックアップを作り出すと、それに魔石を用いた回路を組み込み、起動用の魔力回路を刻み込む。
「こんな感じか?」
「うん、まあ、及第点……っていうか、流石は大賢者だよなぁ。こんなに簡単に作られるとは思っていなかったよ」
そうルーラーを褒めるマチュアであるが、彼に渡した図面はルーラーでも簡単に作れるように簡易版にまでグレードを下げたもの。それを作れるのなら、後はルーラー自身で改良でもなんでも出来るだろうとマチュアは読み、そしてそれは正解であった。
「では、あいつの起動回路は?」
「朽木さんのは……これかな?」
今度はガチの魔導回路をルーラーに手渡すものの、おおよぞ5分程度でルーラーはそれを解析、同じものを作ってマチュアに手渡す。
その出来を確認するが、マチュアが作っているものと殆ど遜色がないため、ルーラーに販売権を譲っても大丈夫と確信。
「はぁ、こうもあっさりと解析されるとはねぇ。でも、大したものだわ……本当に、私ってなんでこの世界に飛ばされて来たんだろう?」
「はっはっはっ。それは分からんなぁ。でも、何か余程の事があったからこそ、マチュアさんはこの世界にふらりと現れた。それが何なのかまでは、わしもわからんがな」
「ですよね~。はぁ、あまり細かい事を考えるのはやめるわ」
「それがよいじゃろ……と、ゴホッゴホッ」
思わずせき込むルーラーに、マチュアは空間収納から魔法薬を取り出して手渡す。
「まあ、大抵の病気はこれ一本で解決するからさ、飲んでおいた方がいいよ」
「それもそうじゃな」
そのまま腰に手を当てて、マチュア謹製のエリクサーを一気飲みするルーラー。
後はのんびりと試合観戦をしつつ、営業時間が終わるのをのんびりと待つ事にした。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






