マチュアの常識、世間の非常識
不定期更新……な。
毎週末のように見えるけれど、不定期ですからね。
マチュアが異世界・日本を訪れて間もなく半月。
その間、色々な事が起こった。
外務省内局の一つである異世界管理局に赴き、異邦人登録を行った。
これはルーラーの出現以降、再び他の異世界人が現れないとも限らないという事で設けられた制度であり、これにより登録された異邦人は『異世界特命全権公使』という役職が与えられる。
簡単にいうと『異世界からきた外交使節の責任者』として登録され、国内での活動についてはある程度の自由が認められている。
ルーラーも8年前、この制度が完成し公布された時点で登録を余儀なくされたものの、基本的にはやることは一緒、のんびりと魔導具やポーションを作って販売。時折日本国政府からの依頼を受けて、魔術行使が必要な仕事を行っている。
「ふぅん。これがそのパスカードかぁ」
魔導レンタルショップ・オールレントの喫茶コーナー。
そのボックス席で、マチュアは免許証大のカードを受け取って感心していた。
魂の護符を生み出せるマチュアとしては、また異世界の身分証明が一つ増えた程度としてしか認識していないのだが、このように異世界からやってきた人間を管理するシステムが既に出来上がっているとは驚きなのである。
「はい。それは国内で活動する際には、肌身離さず身に付けていてください。それと、こちらがマチュアさんの【乗用魔導具免許証】と【魔導具用ナンバープレート】です。魔法の箒や絨毯を使用する際には、こちらをぶら下げてください。神聖具でしたらどれでも使用可能ですので」
「え、マジ? これを付けていれば、どんな魔導具でも乗っていいの?」
「はい。ですからご安心ください」
異世界管理局の局長である『関川ひばり』が念を押すように説明すると、マチュアは小躍りしそうなぐらい喜んでいる。
その理由は一つ。
マチュアの切り札である魔法鎧・イーディアスⅣに堂々と乗れるから。
他の管理世界では自重していたのであるが、これでようやくドライブでもドラゴン退治でも好き勝手出来ると思っていた。
「ふぅん。中々待遇はいいねぇ」
「ええ。異世界からの来訪者、すなわち異邦人に対して最大の敬意をと内閣府総理大臣からの命も受けていますので」
「ふ~ん」
「あとはこちらが魔導発動許可証、これが魔導具の生産および販売ライセンス。後は支度金もご用意しましたが、これについては魔導成果物の提出が必要となりますが、大丈夫でしょうか?」
次々と積み重ねられていく書類の山。
それを一つ一つ精査して、サインと魔導印を施していく。
「しっかし、こっちの日本はまた、事細かい部分まで書類が作られているんだねぇ。フェルドアースやルーンスペースとは大違いだよ」
「え、こっちの日本? あの、日本っていくつも存在するのでしょうか?」
マチュアの迂闊な発言に関川が食いついたが。
マチュアは手をヒラヒラと振って一言。
「あるけれど、今は関係ない話だし。そっちについては、今は語る気はないので。ただ、そこはこの世界の並行世界じゃなく、別の創造神の管理している地球だからさ。ここの神様の許可を貰っても、そっちに干渉は出来ないからね」
淡々と告げつつ、サインを続けるマチュア。
「何といいますか、まるで神様が存在するような話し方ですよね?」
「え、いるけど?」
「確かに、存在するのぅ……」
マチュアとルーラー、二人とも神が実在する世界に生き、神の顕現を知っている。
更に付け加えるのなら、マチュア本人が創造神であり破壊神。
長い間、神様をやっていればやっていいことと悪い事の区別ぐらいはついている。
それに、その世界の禁則事項に触れようものなら『始原の創造神』から回覧板を通じてメッセージが届けられる。
「はぁ……確かに、神は存在するといわれていますけれど、私たちは実際に見た事はありませんので」
「ふぅん。そのうち、見られるんじゃない? と、これで全て完了かな?」
トントンと書類をまとめ、関川に提出する。
それを一つ一つ確認すると、関川も頷いて一言。
「はい、これで問題はありません。活動費用が必要でしたら、何処かの店舗を使って魔導具を販売するとよろしいかと思います。また、日本政府公認魔導具販売所でしたら、いつでも持って来ていただいて構いませんので」
「はぁ、そういうものもあるのか……ちなみに一番近い販売所は?」
「ここじゃよ」
そうルーラーは笑いながら告げて、二人の前にコーヒーを差し出す。
「とりあえず、マチュアさんの当面の宿を探す必要があるか」
「土地さえ貸してくれれば、魔法で建てられるけれどね」
「それでしたら、土地についてはこちらで調査しますので。何か希望する土地はありますか?」
希望する土地といわれて、マチュアは一言。
「マナラインと直結している、もしくは噴き出し口が近いところ?」
「ひばりさんや、ここの近所にしてやってくれるか?」
「あ、あ~、了解しました。では近場で当たって見ますね。では、急ぎ処理してきますので、これで失礼します」
軽く会釈をして、関川が帰っていく。
それをカウンターの朽木と飯田が手を振って見送ると、カウンターにいるルーラーに話しかけた。
「ひばりちゃんも、すっかりスーツが似合うようになったねぇ」
「先代の局長が引退したからのう……と、マチュアさんや、もうしばらくは裏の小屋で我慢しておくれ。ひばりに任せておけば、いい居場所を見繕ってくれるじゃろ」
「そうなの? まあ、それならゆっくりとさせてもらうわ。今一つ、私がこの世界に来た理由がわかっていないからさ。せめて成すべきことが判れば、それを終わらせてのんびりしたいんだけれどねぇ」
そう呟きつつ、右手の中に魔法薬の瓶を作り出す。
4つの瓶を作り出してカウンターに並べると、マチュアはルーラーに問いかけた。
「エリクシールの原液、いる? 25倍希釈で普通のエリクシールになるけれど?」
「……非常識にも程があるわ。一本は宿代で徴収するぞ」
「では、もう一本でここの飲食代。あとの二本はあげるわよ」
気前がいいように見えるが、自分の神威を濃縮して液化し、そこに神の加護をぶち込んだ【なんちゃってエリクシール】である。
オリジナルの霊薬エリクシールとそん色ない効果でありつつ、不老不死の奇跡は生み出す事はない。
「はぁ……わしもかなり常識外れであるが、おまえさんはもっと上じゃったか……残りは取っておけ、そのうち必要になるじゃろ?」
そういわれて、マチュアは空間収納に二本を収納。
そしてルーラーが作るホットサンドを楽しみつつ、飯田と朽木の二人と世間話を始めていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






