クリスマスが今年もやってくる!!
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、連載されるかどうかは神のみぞ知るです。
そして本日はクリスマススペシャル!!
本当にあった話なのか、それとも夢なのか。
それは、皆さんの心の中。
──異世界大使館
この世界にマチュア達がやって来て、今年で10年。
異世界大使館の職員も大幅に変化し、当時から残っているのは大使資格を持つ三笠と十六夜、そして赤城、最高顧問のマチュアだけになっていた。
高島達はそれぞれが海外に設立した異世界大使館の立ち上げの為に向かい、もう何年も日本には戻って来ていない。
また、女性職員には寿退社した者も多く、今では立派な主婦となって子供達の面倒を見ている者も少なくはない。
ちなみに赤城はカナン魔導連邦の貴族街に屋敷を持つ伯爵となり、【王宮賢者兼異世界大使館職員】という肩書きを貰って職員を続けている。
まあ、給料は倍になったのですが、使い道がないので貯金ですよ、貯金!! と叫んでいる姿を、他の職員たちはちょくちょくよく見かけているらしい。
………
……
…
「あの、赤城さん。何をぶつぶつと呟いているのですか?」
「ううん、今一度……自分の立ち位置というものを確認しているだけですよ。ええ、こう見えても日本唯一の賢者ですから)
そう後輩の白波に返事を返しつつ、赤城は玄関ホールのクリスマスツリーのチェックを行う。
後数時間で本日の業務は終わり、その後は町内会の人達も参加して『異世界大使館恒例クリスマスパーティ』が始まる。
すでに中庭では、町内会の酒屋や肉屋などが屋台を設営、宴会が始まるのを今か今かと待ち構えている。
また、今年は中庭の一角を『ベルナー双王国王宮レストラン』が占拠。ストーム一家が家族揃ってバーベキューの準備をしている光景も見かける。
そしてマチュアはというと、急遽足りなくなりそうな食材を求めて、魔法の絨毯でウォルトコまで調達の旅に出ている模様。
「……しかし、あの騒動から10年とは。俺も長く生きたものだよ」
「全くじゃ。世界の危機を救ってから10年。色々とあったが、何とかなったのう」
雪を払いつつ、準備を終えたストームとシルヴィーが大使館の中に入って来る。
外は雪がちらつき始めたらしく、帽子やコートにも少しだけ雪が付着していたのを、赤城は見逃さなかった。
「事務局にお汁粉があっためてありますから、よろしかったらどうぞ」
「ああ、助かるな。ありがたくいただくとするよ」
「うむ、ありがとうじゃ」
事務局に顔を出してお汁粉を受け取ると、二人はホールに戻って美味しそうに食べ始めた。
「何か、二人でそうしているのを見ますと、あれから10年経ったなんて信じられませんよね。外見が全く変化していないお二人に、10年一昔を語られても疑問符しか出て来ませんが?」
「まあ、妾は竜姫となって不老の体を得てしまったし。そもそもストームはマチュアと同じく老化しないからのう」
「それをいうなら、赤城さんも外見は変化していないよな。マチュア式『魔力による細胞活性』ってやつだろ?」
「まあ、そんな感じです。お陰で肌もツルツルすべすべ、化粧のノリも最高なんですよ。はぁ……出会いが欲しいです」
そうため息をつく赤城に、ストームとシルヴィー二人同時に、赤城の肩をポン、と叩く。
そしてにっこりとサムズアップすると、赤城がガクッと肩を落とした。
「わかってますよ。ええ、同じ年頃の人には興味ありません、渋いダンディーを探してきますよ」
「まあ、頑張れ……と、マッチュはまだ戻って来ていないのか?」
「今戻ったともさ!!!」
ストームが問い掛けるのと、マチュアがサンタクロース姿で玄関から入って来るのは同時である。
ちなみにセクシーサンタではなく、しっかりとお腹に詰め物を入れた小太りマッチュ状態。
「今年はスタンダードなサンタクロースか。それで、子供達用のプレゼントも用意出来たのか?」
「ガッテン承知。しっかりとビンゴ大会やつの景品も揃えてきたわ」
「なら、俺からのプレゼントも並べておいてくれ」
──ドサッ
ストームが空間収納から出したのは、ミスリルのフルアーマー一式。
カリス・マレス世界ではSランク装備認定される、ストームの手がけたオリジナル装備。
白金貨百枚(時価一億円)出しても手に入れる事など不可能である。
「うん、お前のアホさ加減は相変わらずだわ。どこのドイツが、お前のフル装備を欲しがる? 子供が当たったらどうする気だ?」
「しっかりとミアに頼み込んで、『サイズ補正』の魔法を組み込んである。武器はついていないから問題はあるまい」
「……ない……のか?」
「ないわ。それで、マチュアのプレゼントはなんじゃ?」
「最新型の魔導鎧。カナン魔導商会で試験モニターを集めてテストした最新型だよ。まあ、こっちの世界じゃ使えないから、カナン魔導連邦の旅行券もつけてあげるけどさ」
悪気はない。
この二人には、全く悪気はない。
ただ、頭のネジが何本かぶっ飛んでいるように、その場で話を聞いていた赤城とシルヴィーは感じ取っていた。
──ボーン、ボーン……。
ホールの柱時計が、午後六時を告げる。
これで異世界大使館の業務は終了。
まもなく、クリスマスパーティが始まる……。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──フェルドアース神域にある亜神の都市『ビブエール』
「……こっの、クソジジイがぁ!!」
「喧しいわ、貴様も元はこっちの世界の神じゃろうが!! わしの代わりにプレゼントを配るぐらいの度量を見せんか!!」
聖父ニコラウスと、拳の殴り合いをしているのは破壊神マチュア。
いきなり冥界経由で手紙が届いたと思ったら、サンタクロースこと聖父ニコラウスからの招待状。
それもクリスマス前日という事だったので、マチュアは敢えて二日前に彼の元を訪れた。
ちょうどサンタクロースは年末に行われる『ミスターオリンピア・神の部』に参加するために出掛けるところであり、置き手紙に『今年もサンタ代行よろ!!』書き残していた。
そこにマチュアが予定よりも早く登場し、本日のファイナル六十分一本勝負という感じである。
「いいから、わしの代わりにサンタしてこんか!! 今年こそはヘラクレスを抜いて、わしが一番になるんじゃ!!」
「あのなぁ!! ここが私の管轄する世界なら、まだ妥協はしてやったわ。今の私は、別世界の神様、破壊神という名前の創造神なんだから、気安く呼ぶなって!!」
そうはいうものの、時期的に何か企んでいることは明白。
それを阻止するために、マチュアがやって来たのであるから、面倒見が良いといえばそれまでである。
「お前以外に、わしの代行をしてくれる奴がどこにいる!!」
すかさずマチュアをがっちりと掴み、ノーザンライトスープレックスに持ち込むニコラウス。
だが、それを躱してニコラウスの体を掴むと、おもいっきり右足を前に上げてか〜ら〜の、振り戻してニコラウスの両脚を狩り、後頭部から床に叩きつける。
──ドゴォォォォォッ
「あの技は確か、とある世界の2020年G1クライマックスで、EVIL選手が使った必殺技!! その名もイービル!!」
トナカイ獣人のルドルフが解説すると、マチュアが右腕を高く上げる。
さらにニコラウスの体を起こすと、必殺技のイービルを連続で叩き込む。
これにはニコラウスも限界突破、体がピクリとも動かなくなった。
「今年は素直に行ってこい!!」
「ぐぁぁぉぁ、腰が、腰がぁぁぉぉ」
そのまま腰を抑えて悶絶するニコラウス。
マジで痛いのか、体が動かない。
「え、ちょい待ち、そこまで大げさなのか?」
「いえマチュアさま。イービルはただでさえ負担が大きい技です。それを破壊神がEVILを使うのは、反則以外ではありません」
「ウッソだろ? これがお母さんですじゃないけど、マジでか?」
この時点でニコラウスの腰骨には亀裂が入っており、体を動かす事が出来なくなっていた。
………
……
…
──クリスマス当日
「はぁ……罰ゲームだわ」
「す、すまん。流石に反省しておる」
「いや、やりすぎたのは私だから……それじゃあ、行ってくるわ」
真紅のトナカイゴーレムと、魔導スラスター搭載型サンタのソリを準備して、マチュアが忖度ロースならぬサンタクロースのコスチュームに身を包む。
「はぁ。それじゃあ物理法則を全て無視し、神域速度時速40kmの安全運転で行ってくるわ」
「う、うむ。お前さんの世界のサンタクロースは、随分と重機動メカっぽい乗り物になるんじゃな」
「現実世界と神域世界の時間差を使うからさ。これぐらいの装備じゃないとつとまらないんだわ。それじゃあ行ってくるわ」
──シャンシャンシャンシャン
クリスマスベルの音を鳴らしつつ、高機動サンタがスタートする。
ちなみに神域速度での移動は、現実世界に干渉しない。
だからマチュアがスタートした時点で、世界の時間は停止したような扱いになる。
ゆえに、神域での時間はそこそこ経過するものの、現実世界では十分足らず。
慌てる事なく、プレゼントを配る事に専念した。
………
……
…
「メリークリスマス!!」
異世界大使館でも、クリスマスパーティが始まっている。
呑兵衛達はビールを注グゥオンたびに乾杯するし、子供たちはマチュアの用意したゴーレムペット達や小型魔法の絨毯で遊びまわって大はしゃぎ。
「ふう。今年もどうにかなったな」
「まあな。南方のソラリス連邦がきな臭くなってきたが、ラグナ・マリアには関係がないからな。勝手に中韓大陸とやってくれって所だ」
「それもそうだな、うちらは関係ないし……って、何だあれ?」
──シャンシャンシャンシャン
クリスマスベルの音が町中に鳴り響く。
そして空から、ゆっくりとプレゼントが降ってくる。
「鑑定!!!! 本来は人間の感覚では感知できないように魔力フィールドでプレゼントを包んでいる筈が、なんらかの事故で包み忘れたのでまともにプレゼントが降ってきたのか」
「待てマチュア。これはお前の仕込みじゃないのか?」
「いやいや、私もツヴァイも何もしていないし、シスターズも本日は向こうで勤務中。てっきりストームが八葉騎士団を使ったのかと思ったが?」
お互いにお互いのサプライズと信じるのだが、どちらも違うと理解した瞬間に空を見上げて。
「「あ〜」」
上空で、半ばやけくそな顔で笑っている破壊神マチュアが、楽しそうにプレゼントをばら撒いているのが見えた。
亜人ならではの鑑定眼、そうでなくては認知することなど不可能。
「暇なのか? あの神様は暇なのか?」
「さあな。まあ、暇つぶしにしては、中々粋な事をしてくれるじゃないか」
そう。
クリスマスに起きた本当の奇跡。
この日、世界中の子供達の元に、大量のクリスマスプレゼントが届けられた。
子ども達の願いを可能な限り叶える、奇跡という名のプレゼントが。
──Merry Christmas
「……あれ、この子供ただのプレゼントだけど、妹が欲しいっていうのも叶うのか……お父さん、大変だなぁw」
おもちゃではない、子どもたちの願い。
可能な限り叶えるのが、サンタクロースのお仕事でした。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






