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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第二部 浮遊大陸ティルナノーグ
69/701

浮遊大陸の章・その14 クライマックスへジャンプしたい

 マチュアが月の門から街に戻ると、既に20日も時間が経過していた。

 その間は特に変わったこともなく、月の門浄化作戦もかなり進んだらしい。

「はーーーーっはっはっはっはっはっ」

 と馴染み亭で大笑いするマチュア。

 本人にしてみればまだ半日なのだが、20日も時間が経過していると聞いて驚くよりも笑うしかなかった。

「ったく、笑っている場合かよ。で、ティルナノーグはどうだったんだ?」

 と店内でゆっくりと茶を飲んでいるストームがマチュアに問い掛ける。

「これがまた、私やストーム以外では勝てない相手に会って来た」

「あぁ? ファウストの事か?」

「いや、アーカムっていう賢者クラスの魔導士。声だけしか聞いていないけれど、遠隔魔法で負けそうになった」

「結局勝ったのだろう?」

「いや、きっちりと引き分けにしてきた」

 と笑いながら目の前の紅茶を口に運ぶ。

「アーカム相手に引き分けって、大したものじゃない」

 在庫管理をしていたアーシュが問いかけてくるが。

「正面からやりあうと、私はアーカムと千日手になるよ。今はまともに相手するよりも逃げの一手だよ」

 と告げて、暫く思考タイムに突入するマチュア。

 やがて考えがまとまると、ポン、と手を叩く。

「さて、『白竜の社』の場所も特定したし、そこに行くための月の門の座標も押さえることが出来た。ストーム、魔封じの儀式が出来る水晶の民(エクセリアン)は何処にいるんだい?」

 と訪ねた時。


――ポン

 とストームも手を叩く。

「忘れてた。ちょいと聞いて来ないと」

 と立ち上がる。

「何処で? そもそも誰から教えて貰うんだよ」

「エル・カネックの魔導士の‥‥えーっと」

 と必死に思い出そうとしているが、名前が出てこない。

「分かった分かった、エル・カネックに行けばいいんだろ? よし行くぞ」

 とストームの肩に手を当てると、そのままマチュアはストームと共に転移した。



 ○ ○ ○ ○ ○



 太陽の門を抜けた先。

 正規ルートでこの国に来ると、街道の最初にある噴水の広場に辿り着く。

 そこにストームとマチュアは転移してきた。

 ストームにとっては久し振りのよく見る光景、マチュアにとっては転移の祭壇の回収に来ただけなので、今ひとつ地理に疎い場所。

「で、どこだっけ?」

「魔導教会だ。こっちに来てくれ」

 と、急ぎ魔導教会に向かうストームとマチュア。

 そしてストームは教会内に入ると、急ぎカラミテの姿を探した。 


――フムフム‥‥

 と、奥の方で中で信徒達と話をしているカラミテを見つけた。

 そのまま信徒たちとの話し合いが終わるのを暫くの間待っていると、ストームはカラミテに声をかけた。

「ご無沙汰している。元気そうだな」

「ああ、どちら様かと思ったらストームさんでしたか、ご無沙汰しています。こちらの方は初めまして。魔導教会の責任者のカラミテと申します」

「これはご丁寧に有難うございます。マチュアと申します」

 と一通りの挨拶が終わると、ストームはカラミテに頼んで別室へと移った。


「今日はどうしましたか?」

「実は、ティルナノーグの封印の解放が予想外に早くなった。という事で、魔封じの儀式の出来る水晶の民を、紹介していただきたいのですが」

 と、カラミテに告げる。

「それでしたら、私の元で今練習している方がいます。私の弟子達が魔封じの儀式の為に、今必死に手順を覚えている所ですので、それが完了したら連れて行って構いませんよ」

「あとどれぐらいで仕上がるんだ?」

「10日といった所ですね。それぐらいしたらまたいらして下さい。あの子も、1000年も前の魔封じの儀式を復活させるという大役にかなり気合が入っていますから」

 とストームとカラミテが話をしている中。

「うはー、この魔導器いいなぁ〜。こっちのはライト系魔法を封じているのか〜」

 マチュアが室内のあちこちに置かれている魔導器に興味を持ったのか、子供のように見て回っている。

「そのレベルのものなら作れるんじゃないのか?」

「勿論さ!怪獣モチロンさ。けどねぇ、私、細工師のジョブ訓練してなかったから、こう言う細かい彫金とか出来ないのよ。良いなぁ、この緻密な細工」

 今ではかなりの魔導器を作り出すことのできるマチュアだが、唯一無二の欠点が『芸術性』の欠如である。

 機能美を追求する結果、余計な細工などを一切捨てたデザインを好むようになってしまった。

「あー、そうか。そうだよなぁ」

 とストームが呟いた時。

「マチュアさんは魔導器を作る事が出来るのですか。それは凄いですよ、今のこの世界では、魔導器を作り出す技術は失われてしまっているのですから。是非一度ご教授して欲しい所です」

 と瞳を輝かせるカラミテ。

「いいよ。魔封じの儀式をして貰うのだから、お礼代わりに何か一つ造りましょうか?」

「よろしいのですか!! あ、あの‥‥それでしたら‥‥」

 と少し頰を赤めつつ、カラミテが本棚から一冊の本を取ってくる。

 それは古い童話である。

 活版印刷のようなものがエル・カネックにはあるらしく、幾つもの挿絵のいれられた豪華な印刷された本である。

 その中の挿絵の一つを指差すと、カラミテがそっと呟いた。

「この世界には存在しない、お伽話にしか出てこない魔導器なのですが‥‥」


 赤いリボンを付けた魔法使いの女の子が、空飛ぶ箒にまたがって空を飛んでいる風景が描かれている。

 箒の先には、使い魔らしい黒猫が一匹ちょこんと乗っていた。


「「ンンンンンンンンン? これは?」」


 とストームとマチュアが唸る。

「あれ‥‥かなぁ?」

「あれだよな。似たようなものはこっちの世界にもあるんだ」

 腕を組んで頷く二人。

「それて、カラミテが作って欲しいのは、この空飛ぶ箒ですか?」

「はい。乗り手の意思に合わせて自在に空を飛ぶことのできる魔道具なんて、古今東西物語にしか出てこないのです。自分の力で大空を飛ぶというのがいかに困難なことか。魔術師や魔導士、東方のまじない師など、様々な魔法を使うものが研究していてもまだ辿り着くことの出来ない極致。それこそが飛行魔法なのです」

 両手を組んで懇願するかのように力説する。

 心なしか表情がウットリとしているのは気のせいではない。

「なあマチュア、飛行魔法って本当にないのか?」

 小声でストームが問いかけてるが、マチュアは首を左右に振ると、同じく小声で返事を返す。

「今は伝えられていないだけで、魔術師の魔法にはあるよ。中位魔法にはただ浮くだけの『浮遊(レビテート)』、高位魔法では本当に自在に空を飛ぶ『飛行(フライ)』、後は禁忌としていまは伝えられていない禁術として、それよりも高度で戦闘にも使える『飛翔(フライ・ハイ)』っていうのがあるよ。全部使えるけれど」


――ジーーーッ

 小声のはずが、気がつくとカラミテが二人の方をじっと見ている。

「ゴホン。では、さっそく‥‥」

 と告げると、マチュアが空間から空飛ぶ箒を取り出す。

「この先っぽを触ってみて下さい」

「こう、ですか?」

 箒の先端に手を触れるカラミテ。

「魔力コントロール。対象はカラミテさん。オーナー権限をカラミテさんにセット‥‥これでよしです」

 使い方まで説明するマチュア。

 カレンのときとは違い、オーナー権限を持っているカラミテが許せば、誰でも使えるようにしてある。

「本当にこれで?」

 そっと空飛ぶ箒にまたがるカラミテ。

――フワッ

 と箒か少し浮かび上がる。

「乗り手の魔力によって高度と速度が変わりますから、気をつけてくださいね」

 スッと着地すると、カラミテがマチュアに深々と頭を下げる。


――ブワッ!!

 と嬉しそうな表情に、嬉し涙が溢れていた。

「ありがとうございます。家宝にします大切にします」

「いいよいいよ。こんなのいくらでも作れるからね」

「マチュアさんは、エル・カネックに伝わる伝説の錬金術師のような方ですね」

「エドワード・エルリックか?」

 その名前には頭を捻るカラミテ。

「さて、これ以上の長居は無用だな。それじゃあ時が来たら迎えに来る。その時には宜しく頼む」

「はい。精一杯頑張りますのでご安心を」

 にこやかに手を振るカラミテを後に、ストームとマチュアはサムソンに転移した。



 ○ ○ ○ ○ ○



「ちょっと王都にいってくる。夜には戻って来るのでそれまでヨロシク」

 サムソンに戻ってきたマチュアとストームは、馴染み亭の店内にいるアーシュにそう声をかけると再び転移の祭壇から王都ラグナへと転移した。


――シュンッ!!

「おや? マチュアさんいつお戻りで。ティルナノーグはどうでしたか?」

 月の門浄化部隊の帰還を待っていたパルテノが、久し振りに姿を表したマチュアにそう問いかけたのだが。

「うん、最悪だった。またしても引き分け、あそこは私には鬼門だぁね」

「ファウストとはこれで一敗一引き分けですか。次は勝てますよ」

「うーーんと、訂正。ファウストには勝ったので一勝一敗でイーブン。で、アーカムとかいうやつには引き分け。どうもティルナノーグは本調子になれないなぁ」

 ポリポリと頬を掻くマチュア。

「今日の王の勤めは?」

「ストームさんもご一緒でしたか。今日はブリュンヒルデとケルビム様ですわ」

「そうか、上にいるのか?」

「ええ。よろしければご案内しますか? ブリュンヒルデは多分城外の練兵場にいるかと思いますが、ケルビム様は皇帝と大切な話があると仰言っていましたわ 」

 と魔法陣に作られている転移門の近くから離れるパルテノだが。

「いや、万が一のこともあるから、パルテノはそのままで、勝手に行かせてもらうよ。いくぞマチュア」

「はいはいっと。それじゃあパルテノ、またねーー」

 と手をひらひらさせるマチュア。

 そのままケルビムの執務室に向かうと、外で待機している騎士にとストームが話しかける。

「幻影騎士団のストームとマチュアだ、ケルビム殿と皇帝陛下にお目通りを頼む」

「はいいっ、少々お待ち下さい」

 と騎士が扉をノックし、中に入っていく。

 少しすると、騎士が外にやって来て一言。

「皇帝陛下とケルビム様がお待ちです。どうぞ」

 と扉が開かれた。

 綺麗な執務室の中央にある椅子に差し向かいで座り、ケルビムとレックス皇帝はチェスのようなものをやっていた。

「これはこれは。マチュア殿は随分と久し振りじゃな‥‥」

 とケルビムが告げるが、正面に座っているレックス皇帝は腕を組んで考えている。

「ケルビム老よ、この手はちょっと待ってくれぬか?」

「いえいえ。ここ暫くは勝ちを頂いていませんでしたので、ここらで勝ち星を貰っておかないといけませんからのう」

 と満足そうに呟くケルビムに、レックスは素直に右手を上げる。

「降参だ」

「ほっほっほっ。ありがとうございました」

 とゲームを片付け始めるケルビム。

「して、今日はどのような用件で?」

「はい。実はティルナノーグでの調査結果について報告しておきたい事がありまして」

 と口火を斬るマチュア。

 そこからはティルナノーグで自分の見て来た事や調査して来た事、『白竜の社』の位置とそこに繋がる月の門について、一部始終を説明したのである。


「ならば、ティルナノーグの解放時には当初のマチュアの立案した作戦でいけるということか」

「ああ。問題は『白竜の社』と繋がっているメレスだ。その手前で『魔封じの儀式』を行わなければならず、その近くには、結界に囚われているファウストがいるという事が問題なんだが」

「多分結界の持続時間は切れている筈なので、彼奴が余程のバカでない限りは『白竜の門』あたりで待ち伏せしているでしょうねぇ」


 ストームとマチュアの言葉に耳を傾けつつ、レックスは何かを考えている。

「ここでの話は他の王にも伝えておきます。してマチュア殿、封印の解放時期についてはっきりとした日時はわかりますか?」

「今日から毎日、月の門を通じて調査を続けます。時差が兎に角曖昧なので、直接ティルナノーグに向かって調査し、戻ってくる頃に封印解放なんて洒落になりませんので。一週間前には報告します、まだ時間はありますが全ての準備を終えるようにして下さい」

「という事だ‥‥では失礼する」

 と立ちあがるレックス皇帝を、ストームは手を出して静止する。

「以前よりも顔色が悪いですよ。化粧か何かで誤魔化しているのでは?」

「なっ、ストーム、いくら貴殿でも皇帝陛下にそのような‥‥」

 ケルビムが突然ストームを叱責しようとするが、今度はレックスがそれを止める。

「よい。また見てもらえるか?」

「では、今日は賢者パワーでいきましょう。マチュア、済まないがレックス皇帝を診察してくれ」

 と何故そんな事になったのか、状況を理解していないマチュア。

「は、はぁ、ちょっと待ってねー。深淵の書庫アーカイブ‥‥皇帝陛下の‥‥と、ちょっと待てぇぇぇぇ」

 と慌ててマチュアが深淵の書庫アーカイブから飛び出すと、高速で印を組み韻を紡ぎ始める。

「森羅万象全ての息吹よ。彼の者に癒やしと力を授け、病みし体を労わり給え」


――フゥゥゥゥゥゥゥゥン

 レックス皇帝の全身が温かい光に包まれる。

「ストーム、いつから知っていた? 皇帝が心臓を患っていたという事を。しかも、これはシャレにならない奴だろ!!」

「マチュアがティルナノーグに向かってからだ。僧侶で組織の活性は促してきた。お前がとっとと戻ってこないからだ」

 グッと拳を握るストーム。

「で、治癒可能か?」

「私を誰だと思っている。『白銀の賢者』の名前は伊達じゃない!! 皇帝、今の状態はどうですか?」

「ふむ。痛みが全くない。それどころか体が軽い‥‥ここ数年悩まされていた気怠さも全て収まったではないか」

 と明らかに顔色が良くなっていくのが分かる。

「治癒完了か?」

「そんな事あるか。いいですか皇帝。わたしは毎日ここに来て、あなたの病気の治療を開始します。半月ほどかかるでしょうが、この病気は直りますからご安心を」

 とマチュアが笑いながら告げる。

「ほ、本当なのか? ? 」 

 ケルビムが歓喜の表情を見せながらマチュアに問う。

「私、嘘と坊主のマゲはゆった事がないもので。毎日ここに通いますから、逃げないでくださいよ皇帝。いいですね?」

 怒鳴りつけるように何度も念を押すマチュア。

「ああ、では頼むぞ」

「しかし、僧侶の魔法ではやっぱり治療できないのか‥‥口惜しいわ」

 とストームが呟くが。

「それは、あんたが僧侶をサボっているからだっ。そろそろちゃんと魔法を練習しなさい。いま使った魔術は僧侶の治癒の下位互換なの。僧侶の方が効果が絶大で一発で治るのっ。ストームがそれを使えたら私は半月も通わなくてもよかったのだよっ!!」

 とストームに説教する。

「お、おおう。ちょっと明日からアンジェラに魔法習ってくるわ」

「そうして頂戴な。それじゃあまた明日来ますので、宜しくお願いしますねっ!!」

 と釘をさしてマチュアとストームは退室していった。


‥‥‥

‥‥


「ふぅ、ケルビムよ。何十年ぶりかなぁ、あのように人に怒鳴られることなどなかったぞ」

「左様ですな。皇帝陛下が王妃を求めてさえ居れば、このようなことにはならなかったのですぞ。何もかも一人で背負いすぎです」

「はっはっはっ。先王からの言い伝えもある。我は子を為す事が出来なかったのだからな‥‥」

 と少し寂しそうに告げるレックス。

 その言葉に耳を傾けると、ケルビムは一度片付けたゲームを再び取り出すと、静かにコマを並べ始める。

「さて、寂しそうな皇帝のお守りをいま暫くは続けなくてはならなくなりましたからなぁ。先番をどうぞ」

「先程負けたのは私だ。素直に後番で構わぬ」

――カチャッ‥‥カチャッ‥‥

 と盤の上にコマが並べられる音が、暫くの間続いていた。



 ○ ○ ○ ○ ○



 ティルナノーグから戻って来たマチュア達は、忙しい程の毎日を送っていた。

 月の門浄化部隊は一つを残して全ての扉の魔力を求めて回収する事に成功。

 その間に数十回の魔族との戦いもあったが、多少の犠牲は出たものの何とかこれを撃破した。

 封印解除後に囮とする月の門は、カナン郊外の地下にある扉に決定した。そこに至るまでの道を突貫工事で作り出すと、騎士団が常駐し封印解放の時を待つ。

 騎士団によって雇われた冒険者達はカナンに集結し、いつ作戦が始まっても対処出来るように準備が続けられていた。

 封印が解放されるであろう一週間前には、ストームとマチュアがエル・カネックに赴き、『魔封じの儀式』を行える者達をラグナ城地下の魔法陣にまで案内している。

 そこには幻影騎士団の半分と、各騎士団の精鋭達が集められた。 

 全ての準備が、ここで完成したのである。

 いまだラグナ・マリア帝国の臣民たちは、ティルナノーグの封印が一週間後に解放される事を知らない。

 帝国臣民に被害が出ないように、全てを出来るだけ隠密裏に終わらせなくてはならなかった。


「さてと‥‥今日の結界の様子はどうかなーーー深淵の書庫アーカイブ起動」

 とマチュアが囮である扉に手を当てて、魔力の増減を調べている。

 扉全体を深淵の書庫アーカイブで包み込むと、僅かの魔力の流れさえも見失わないように、じっと映し出されている文字を眺めている。

「各国騎士団に伝令を。予定よりも内部の魔力が大きくなっている。3日後の正午、鐘の音と共に封印が解ける!!」

 それがマチュアの計算した最後の時間。

 そして作戦が開始される時間である。

「了解です!!」

 若い伝令が後方で待機している騎士団に報告に向かう。

「私は引き続き、王都に飛んで報告を行います。ここの守りは任せました」

「了解。こっちはしっかりとやっておきます」

「任せろ。後はこちらでどうとでもなる。本部隊のそっちこそ慎重にな」

 囮部隊のウォルフラムとラインベルクがそう答えると、その場にいる騎士たちに指示を飛ばし始めた。


――その頃のストーム

 王都ラグナ地下で待機しているストーム。

 何度も『魔封じの儀式』のリハーサルをじっと眺めている。

 踊り手が一人、そして音楽を奏でる吟遊詩人が三人。

 日本で言うところの神楽舞のような雰囲気が、『魔封じの儀式』にも感じられる。

「イヴさん、今日はこの辺で」

「はい。ではまた明日にでも舞いの練習をしましょう。間もなく本番ですから」

 魔封じの儀式の為にやってきた舞師のイヴ・トキトゥーヤと、彼女と共に遠路遥々やって来た吟遊詩人達。

 そして彼女の警護としてエル・カネックからライナスと彼の仲間である三人の騎士達も、その場で待機している。


――ヒュゥッ

 とマチュアが魔法陣の中に転移してくる。

「報告。ティルナノーグの封印解除は三日後の正午。その時間に囮の月の門が開放され、ティルナノーグと現世界は繋がります」

 その場に居る全員に聞こえるように、大声で説明を開始する。

―ーゴクッ

 誰ともなく息を飲む。

「私たちは囮部隊の状況に合わせてもう一つの月の門に転移、そこで強制的に門を開いて『白陵の社』に向かいます。座標は『白竜の社』横にある月の門。最悪は、ここに最大戦力がいる可能性があります。私とストーム、そしてエル・カネックの4騎士は『魔封じの儀式』の守りに入りますので、みなさんはやってくる敵の排除をお願いします」


――ザッ

 とその場にいる全ての騎士がマチュアに敬礼すると、それぞれが持ち場に向かっていった。

「ほんっと、こういうのやらせると上手いわ。俺は守り兼遊撃で構わないんだろう?」

「臨機応変によろしくっ!! 敵対する魔族は全て殲滅。あんまり殺したくないんだけれど、ここまで来るとそんな倫理観が枷になって身動き取れなくなるから無視」

 実際は誰一人殺したくないストームとマチュア。

 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「全くだ。随分と俺達も、こっちに馴染んで来たよなぁ」

「私、この戦いが終わったら旅に出るんだ‥‥」

 と敢えてマチュアが死亡フラグを発する。

「ちょっと待て。ここに来てそれ言うか?」

 とストームがマチュアの肩を掴んで前後に揺らす。


――ユッサユッサ

「ふっふっふっ。この私のフラグブレイカーな所を見せてあげよう」

「マチュアさん、フラグブレイカーってなーに?」

 と、こちらに配属されたポイポイさんがマチュアの後ろからやってきた。

「うん、ジンクスみたいなものだよ」

 その後ろからはワイルドターキーとズブロッカの姿もある。


 既にいつでも戦闘できるように準備を終え、今はじっと時を待っている二人。

 昔のヘタレぶりは一体どこにいったのかというぐらい、精悍な顔つきになっていた。

 ポイポイさんを除いて‥‥。


「ストームさん、これが終わったら手伝いの依頼はおしまいですよね?」

 とズブロッカがストームに問いかけながらやってくる。

「そういうことだ。でも、俺からの報酬よりも幻影騎士団の給料の方が高いだろ?」

「うむ。お陰で美味いものがなんぼでも食べられるわ。ストームとマチュアに感謝じゃな」

 ハーッハッハッと笑うワイルドターキー。

「さて、それじゃあこっちも準備をしておきますか。ストーム、私ギリギリまで魔導器作っているから後宜しくね」

 と深淵の書庫アーカイブを起動すると、マチュアはその中に閉じこもってギリギリまで魔導器の作成を行っていた‥‥。

 マチュアが作っていたもの‥‥通信用水晶球(トーキングオーブ)が全て完成したのは、封印解除の前日。

 それを各国の騎士達に持たせると、マチュアは魔力を全て回収した筈の月の扉に騎士達を派遣した。

 万が一、魔力を失った扉に大量の魔力が注がれた場合。

 そこから一斉に魔族が侵攻を開始する。

 それを監視する為の魔導器も完成し、いよいよ作戦開始の時を待つだけとなった。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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